思惟石

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『神聖ローマ帝国』 神聖でもローマでも帝国でもないね!

2023-02-27 17:56:11 | 日記
表紙と帯と栞のデザインが素敵な
講談社現代新書シリーズの一冊。
『神聖ローマ帝国』
菊池良生

めっちゃおもしろかった〜!!
読んでて楽しい、エンタメ感のある文章です!!
新書を読みながら笑うって、なかなかないですよね。

神聖ローマ帝国といえば、
ヴォルテールによる「神聖でもローマ的でも帝国でもない」
という言葉が有名かつ本質ですが。

本書は一冊かけて「なぜ神聖でもローマでも帝国でもない」のかを
丁寧に語っています。

作者が、歴史上の人物に対する印象を
素直に表現する部分が多々ありまして。
それがまたわかりやすいしおもしろいんですよ!
ちょっと笑っちゃう。

例えば教皇レオ3世。
フランク王カール大帝を皇帝にしよう!と思い付いた教皇に対して
「保身のためなら信じられないほどのエネルギーを発する」とか笑
当時の教皇の「身から出た錆」で「貧して鈍して」でも図々しい!
という感じがよく出ていて、最高。

11世紀、
ローマ教会の堕落に対してクリュニー派が起こり、
寒村出身の貧農イルデブランド青年が登場。
誰?って思った直後に「後の史上最強の教皇グレゴリウス7世である」
とか紹介されたら一発で覚えてしまう。
「史上最強の教皇」ってすごいパワーワードだな笑。


14世紀、皇帝になれない時代のハプスブルク家当主、
ルドルフ4世(建設公)も凄い良い。
この人、歴史的偽書「大特許状」をつくるんですが。
当時の皇帝カール4世の「失笑した。だが同時に薄気味悪さも感じた」
って表現、共感しかない。
カエサルや皇帝ネロの手紙まで偽造しているの、
ちょっと、だいぶ、気持ち悪いし、その執念が怖いじゃないですか。
でも、ルドルフ4世、めちゃくちゃおもしろい人じゃないか!
と、しっかり印象に残る。

作者はルドルフ4世のことは好きみたいですが、
その後に登場するフリードリヒ3世に対しては
ぼっこぼこです笑

フリードリヒ3世は、ハプスブルク王朝をスタートさせ
50年以上も皇帝として君臨した人ですが、
通称「神聖ローマ帝国の大愚図」。
評価の容赦なさ、清々しい〜。
「神聖ローマ帝国の大愚図は(中略)彼の死後に作られた蔑称である。
生前の彼に雨霰と浴びせられた罵倒は
こんな生やさしいものではなかった。」(え?もっと酷いの?)
「昼行灯フリードリッヒ、実は将来を見越した名君であった、
ということは絶対にない」(絶対にないて笑)
「まったくといって芸がないフリードリッヒの
唯一の芸はこの長生きであった」(「芸」笑)
と、怒涛の精神攻撃!
よくわからんが、がんばれハプスブルク!!とは思う。

楽しすぎて、あっという間に読み切ってしまいました。

要所要所で『ハプスブルク帝国』『ハプスブルク家12の物語
わが友マキアヴェッリ』『ハプスブルク家の女たち
を拾い読みする。
コネクティングザドッツ味がすごい。
めちゃ楽しい。
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『シャクルトンに消された男たち』 ドラマチック・ノンフィクション!

2023-02-24 14:13:21 | 日記
『南極横断隊の悲劇
シャクルトンに消された男たち』
ケリー・テイラー=ルイス
奥田祐士:訳

20世紀初頭に激化した北極南極制覇競争は
『世界探検史』で読んでいたけれど、
その後のシャクルトンの物語は知らなかった〜。

シャクルトンは南極制覇に遅れを取った人。
(南極点は一番乗りがノルウェーのアムンセン、
 2番手がイギリスのスコット)

「じゃあ、俺は南極大陸横断する!」
というわけで、そちらの一番を目指したものの、
南極大陸に上陸すらできずに遭難。
2年ほど遭難しつつも、隊員は全員生還だ!
という話で有名な人である。

とはいえ、この本はその話ではなくて。

シャクルトンの南極横断を助けるために、
逆サイドから南極上陸していた「サポートチーム」のお話しです。

まず、そんな人たちがいたんか〜い!という驚きがすごい。
作者もその驚きが執筆のきっかけらしい。

しかもシャクルトンたち本隊は南極に上陸すらできてないのに、
サポートチーム(ロス海支隊)はそれを知る術もないまま
2年間、南極大陸でがんばっていたという。
あらすじを読んだだけで「うわあ」となります。

作者は、隊員の日記や公式文書・新聞など
細やかにリサーチしていて、
ロス海支隊の詳細がわかりやすく整理されています。
なので、読んでいてずっと「うわあ」となります。
うわあ。

ちなみにシャクルトンが南極大陸横断に出発した1914年は
第一次世界大戦勃発の年でもある。
シャクルトンの母国イギリスは
開戦初期はごりごり当事者ではなかったけれど、
長引く戦争の泥沼にじわじわハマっていく。
シャクルトンたちの遭難がわかった1916年あたりは、
「南極探検隊救助どころじゃないよ〜」という世相もよくわかる。
(一方で、彼らが帰還した際のお祭り騒ぎも、
明るい話題に飛びつきたくなる人心というか、わかるよなあ)

ロス海支隊の隊長マッキントッシュは
確かにリーダー向きな性格ではなかった。
けれど彼ばかりを責めるのも違うよなあ。
と思いつつ、やっぱり記録や日記を読み進めていると
頭が硬いオッサンだな!と腹を立ててしまう。

現場上がりの実質的リーダーであるジョイスも
なかなかクセの強い性格で、
なんかもう、人間関係が
ドラマよりもドラマチック!
めちゃくちゃ読み応えあります。

あと、犬が不憫。

個人的にはシャクルトン本隊の話より、
断然おもしろいと思う。
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『まず牛を球とします。』 ギュウと密度濃いSF短編集

2023-02-15 19:28:05 | 日記
『まず牛を球とします。』 
柞刈湯葉 (イスカリユバ)

SF系の短編集。
現代の星新一っぽさがあって、おもしろい〜。

表題作が一番おもしろかった。
牛肉を食べるために牛の命を奪うという倫理観を突き詰めまくった
近未来のお話し。
牛のDNAベースに球体の「牛肉」をつくる工場。
しかも大豆由来だから牛じゃない!って、
倫理観突き詰めまくったなあ〜という近未来。
めちゃおもしろい。

「石油玉」の、
実際に宇宙空間に石油玉が浮いているという世界観と
「石油王になる方が早い」って話も好き。

おおむね、登場人物が飄々としながらも
自分なりの近未来「倫理」と折り合って生きているのが
良い感じなのだけど、
たまに、
ラストで優等生的な哲学的悩みを投げたりするのが、
ちょっと違和感。

もうちょっと突き抜けて良いと思うけどなあ。

とはいえ、どれもこれもおもしろかった。
好き。
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『後白河院』 日本一の大天狗

2023-02-06 16:14:06 | 日記
『後白河院』井上靖

後白河院は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で
西田敏行が演じていた「日本一の大天狗」。

四人の視点から後白河院の印象を語る構成です。
第一部:語り手・平信範〔のぶのり〕
第二部:語り手・建春門院中納言
第三部:語り手・吉田経房〔つねふさ〕
第四部:語り手・九条兼実〔かねざね〕

個人的には、なんとなく後鳥羽天皇と混同しがち〜。
どちらも「後」がつくから…。

(後鳥羽天皇は3種の神器無しで即位したことで懊悩抱えていた天皇。
後に承久の乱を起こして隠岐に流された人。
安徳天皇の異母弟であり、私的には
宇月原晴明(うつきばらはるあき)『廃帝綺譚』で読んだ人である)

後白河天皇は、即位前には後継候補として名前も挙がっておらず、
風流人として呑気に暮らしていたらしい。
ほえ〜、意外。
天皇になりたくてなったわけじゃないのかな。

第一部は平信範が、若い九条兼実に後白河天皇即位までの話を
語り聞かせているのですが。
第四部では、その九条兼実が老齢になり後白河院の思い出(?)を
振り返っている。
ちょっとずつ時代が移ろっていくし、
語り手それぞれ、後白河院に対する評価や想いが異なっている。
おもしろいな〜。

若い頃に保元の乱、平治の乱に巻き込まれ、
平家の全盛期に幽閉されたり権力奪われたり、
京都に木曾義仲が来たり義経が来たり頼朝が来たりして
時代のうねりに翻弄されまくった割に
天寿を全うしている、稀有な人である。

個人的にはコテンラジオでも評されていたように
「この行動をとったらどういう結果になるのか、をあまり考えない」
的な人じゃないかと思ってるけど。
にしても、めちゃくちゃ波瀾万丈な時代に数十年の間
君臨しつづけたのは、すごいよなあ。
上皇でも流罪になる時代だもんなあ、しみじみ。

初版は1975年。
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【読書メモ】2016年12月 ②

2023-02-03 17:02:10 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年12月 ②>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『ホテルジューシー』坂木司
この作者の『和菓子のアン』もそうだったけど、
マジメでまっすぐなふつうの女の子が、
自分は正しいと信じつつ、
周りに振り回されたり、考え込んだり、
正しさに自信が持てなくなったり、という成長譚。
「自分の正しさを信じている」というのがミソだと思う。

(あんまりグジグジ悩まず、とにかく前に進むので
 成長譚として素直に読めますよね。
 とはいえ、この作者の主人公って、自己肯定感高くないか?
 最近の若い子ってこれくらいポジティブなのか?すごいな。
 と、中年らしい驚き方をした笑)


『ロストシンボル』ダン・ブラウン
上中下と3巻に分かれていたけど、
そんなにページ数いる?という内容ではある。
引っ張り方が映画を意識しているのか、
ちょっと大げさすぎで、なんかもたもたしていたなあ。
フリーメイソンの秘密というものも、
そこまでして隠すもんだろうかとか思ってしまった。
風土の違いなのかしら。

(ダン・ブラウンは読むたびに「映画化意識しすぎ〜」と思うので、
 じゃあ読むなよって話です)
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