思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』絶品です!

2018-11-26 13:29:08 | 日記
舞台は1940年代のナチス政権下におけるドイツ・ハンブルグ。
戦争も本格化し、ジャズ(スウィング)が敵性音楽として
ナチスやヒトラーユーゲントに取り締まられるなかで
多感な時期を過ごしているブルジョワ不良っ子たちの物語。

軍需会社社長の息子エディが主人公であり語り手です。
さらに天才ピアニストのマックスや、軍のお偉いさんの息子、
弁護士の息子、教授の娘などのブルジョワ連中に加え、
工場事務の息子で技術力抜群のクーや、音楽のうんちくが凄いカヌーなど
頼もしいジャズ狂いたちの仲間たちとの日々。

冒頭は14歳。
背伸びして大人や体制を嘲笑しつつ
おちょくりながら出し抜いたり。
クソ生意気ながきんちょどもだなあと思いつつ
軽妙な文章で話しが進みます。

戦局の悪化とともに彼らにも重い現実がのしかかったり、
それでもやっぱり嘲笑したり出し抜いたり。
そして少しずつ、重い空気が耐え難いものになって
快楽の向こう側の倦怠やいらだちが大きくなり、
ある種の別れが次々やってきます。

戦争末期に至ると、エディもただの不良少年ではいられなくなり、
大工場の運営やら仲間や工員の生活やらが両肩にずっしりと。
もちろん、マジメで頼れる池井戸潤的な若社長にはならないけど。

『戦争の法』も男子中学生の一人称でしたが、
今回の方が軽やか且つ軽い文体な気がします。
「誰得だよ」って、佐藤さんの小説でお目にかかる表現とは思わなかった。
ユダヤ人の「血の濃さ」の定義や考え方の矛盾にも
若者らしい「大人ってばかばかしい」という感覚でツッコミ入れつつ
説明がなされていて、こちらもなるほどっと読めました。

私はあまり音楽に詳しくないのですが、
各章のタイトルはジャズのスタンダードナンバーの
タイトルだそうです。
小説の中にもたくさんの名曲とエピソードが出てきて
サントラを聴いてみたくなります。

ところで、作中でマックスが自作のレコードで咄嗟に名乗った
「サミュエル・ゴールドバーグ」の元ネタって
何なのでしょうね。

ちょっと調べてみたけど、あまりこれだと言うものがなかったのですが。
音楽に詳しい人には通じるジョークなのかな。
ナチスの圧力でベルリンフィルから追われたという
シモン・ゴールドベルクが近しい名前だと思ったけど。
むう、わからん。

それはさておき、おススメです。
佐藤亜紀作品のなかでは、読みやすい文体と内容だとも思います。
もう一度言いますけど、おススメです。
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魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)』

2018-11-15 17:11:09 | 日記
おもむろに魯迅を読みなおしました。

といっても読んだことがあったのは、
多分、遠い昔に国語の教科書に載っていた
『故郷』だけだったと思う。
(ヤンおばさんの印象だけが残ってるけど)

竹内 好による翻訳の、岩波文庫版。
改版ですが、それでも1981年の出版。
日本における中国文化の浸透も浅かったのかな、
注釈がめちゃくちゃ多くて、ものすごく丁寧です。
丁寧すぎて、「え…、うん」みたいなことも多少あります。

新訳をがんばっている光文社古典新訳文庫からは、
藤井 省三による新訳が2009年に出ています。
こちらも評判が良いみたいで、あとで読み比べておきたいです。

魯迅の代表作でもある表題作を始めとした初期短編集。
と言っても、多作な人ではないので、
魯迅を読むイコールこの短編集、という人が多いのではなかろうか。
(あ、でも光文社の藤井版『酒楼にて/非攻』は気になる。
 おもしろそうです)

『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)』は、
なんというか近代中国の悲しさ虚しさ非力さみたいなものが
文章の端々から匂い立っていて、
なんとも言い難い切ない気分にさせられます。

それはイヤな気分というわけではなくて、
ちょっと、自分の人生とか、
自分ではどうにもできない所属する社会とか
を振り返って、考えさせられるというか。

それはさておき、『故郷』は良い。圧倒的に良い。
国語の教科書で読んだときは、
こんなに良い小説だとは思えなかった。若かったもんな…。
ていうか10代にはわからないでしょ。なんで学生に読ませるのよ。
いや、名作だからですけどね。反語。

主人公と閏土(ルント−)の関係性。その次世代の関係性。
そして締めの文章。すごく良いです。

「思うに希望とは、
もともとあるものともいえぬし、
ないものともいえない。
それは地上の道のようなものである。
もともと地上には道はない。
歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。」


作者は自序にもあるように「寂寞」という言葉をよく使うけれど、
ついでに編集の指示もあったというけれど、
それでも希望の方を向こうとする姿勢がある人だと思う。

大人になって読み返して良かったです。
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【読書メモ】2010年3月 

2018-11-12 16:56:32 | 【読書メモ】2010年
<読書メモ 2010年3月 >
カッコ内は、2018年現在の補足コメントです。


『細雪』 谷崎純一郎
まさかこんなに長いとは…。
最初は長いなあと思いながらしぶしぶ読んでいたけど、
だんだん雪子ちゃんの見合いがうまくいくよう祈るようになった。
大阪弁がいい。

(大阪船場の名家「蒔岡」家の四姉妹のお話し。
 既婚の長女「鶴子」次女「幸子」未婚の三女「雪子」四女「妙子」。
 当時としてはちょっと行き遅れの三十路である雪子の
 お見合いを軸に一家の5年間が描かれる。
 新潮文庫で上中下の3冊。
 お話しも長いですが、谷崎節全開の一文も長め。
 でもスルスルッと読めます。おもしろいんです。すごいよなあ)


『サクリファイス』 近藤史恵
自転車ロードレースという題材がおもしろかった。
エースを勝たせるために存在するアシストって、
他のスポーツには無い(と思う)独特な立ち位置。
気持ちも複雑で、その描かれ方が生っぽくて、おもしろかった。
出版社のサイトに「青春ミステリ」って書かれていたが、
青春というにはちょっといい歳な気がしますが。


『1809 ナポレオン暗殺』 佐藤亜紀
1809年5月21日フランス軍の仮橋を架ける作業から始まる。
これ、ナポレオンが自身の指揮で初めて敗北した戦らしい。
今回もおもしろかったなあ。

(主人公であるフランス軍工兵隊のパスキ大尉が
 ナポレオン暗殺の陰謀に巻き込まれるような、
 そういう一筋縄のお話しではないような、
 という安定の佐藤亜紀ワールドですおもしろいよ!)


『塩の街』 有川浩
デビュー作。
ちょっと恋愛に寄りすぎかなーと思うけど、まあ、一作目だし。

(自衛隊三部作の一作目でもありますね。
 これが有川浩作品の3冊目だったと思うのだけど、
 年下女子からの年上男性への初恋実らせフォーマットが
 お好きなのかな?ってのが目についてしまって、
 ちょっと敬遠し始めてしまった)
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『泣き虫弱虫諸葛孔明 第伍部』

2018-11-08 15:48:39 | 日記
酒見賢一による孔明論『泣き虫弱虫諸葛孔明』、
とうとう読了しました。
終わってしまったっ!!!
孔明っ!!!

人生初の「三国志」体験でしたが、
ものすごく楽しかったです。
これで私も立派なサンゴクシシャンへの第一歩を
踏み出せそうです。
ありがとう酒見先生!
(最後までルビが少なかったね!
 南征や北伐で初登場した人名、最後の方は読み流したよ!)

第四部で劉備が死んでしまい、
終始なんとなく寂寞感がただよう第伍巻。
内容としては、蜀を背負った孔明の「南征」と「北伐」です。

前半の南征は、いわゆる「七縱七禽(しちしょうしちきん)」です。
敵の大将である孟獲(もうかく)が孔明軍に七回敗れ捕らわれ、
七回放されて心服したというもの。
四字熟語としては、圧倒的実力を見せつけて敵を屈服させる
意で使われるようです。三国志以外で見たことないけど。

『三國志』ではあっさり南征は終わっており、
「七縱七禽」などというメンドクサイことをしているのは
『三国志演義』の方だそうです。
酒見版は演義のオモシロストーリーの方を採用して
孟獲との戦いを細かく書いています。
孔明の変態っぽいところが出てはいますが、
敵役の孟獲がただの無知なオッサンなので
個人的には第弐部第参部のような面白さは感じませんでした。

まあ、最終巻ってことで、
勝手に切ない気もちになりながら読んでいたのも
影響しているかもしれません。

後半は、孔明最後の戦いである「北伐」。
孔明が病没する第5次北伐までの間に
ちょこちょこ孫権の呉の事情も併記されます。
呉も世代交代が進んでいて、なんだか寂しい気もちになります。
こんなに三国志世界に愛着を持つとはね…。
陸遜がんばれ。

第1次北伐の街亭(がいてい)の戦いで
孔明の愛弟子・馬謖(ばしょく)がやらかして
「泣いて馬謖を斬る」という故事ができ、
第5次北伐の死後は、孔明の病没を隠して撤退しつつ
司馬懿をだまくらかして「死せる孔明、生ける仲達を走らす」
という故事になりました。

切なさ満載の第伍部は、意外と名言の宝庫でもある。

司馬懿と孔明のやりとりは酒見節も揮っていて良かったです。
小城に追い込まれた孔明が、ひとりで琴を弾きながら
司馬懿をからかうエピソードなんかは
裴松之(はいしょうし)が疑わしい!とか言ってますが
真偽はさておき、面白かったです。

私が三国志の基礎知識が無いための
消化不良感もあったかもしれませんが
孔明が亡くなり、これにて幕引き、の感じは
食い足りないような、妙なさみしさがありました。

とはいえ面白かった!
全五巻を読んでる間、幸せでした!
電車で何度も爆笑もしたし!!
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【読書メモ】2010年2月 

2018-11-05 17:06:35 | 【読書メモ】2010年
<読書メモ 2010年2月 >
カッコ内は、2018年現在の補足コメントです。

『影武者徳川家康』 隆慶一郎
ようやく読了。

(新潮文庫版で上中下の3冊。
 2009年9月に読み始めて、半年かけてだらだら読んでいたようです。
 隆慶一郎で読了したのはこれだけなんだけど、
 まあ、心底合わないんだろうな…。時間かかりすぎ)


『空の中』 有川浩
いそがしくてなかなか読みすすまなかったので、
コマ切れになったけど、すごく面白かった。
一気に読むべきだったと思う。

(作者の「自衛隊三部作」の二作目です。
 有川浩作品のなかでは一番好きかも)


『東京島』桐野夏生
清子の人生にどっぷり浸かるストーリーだったら、
濃すぎて、怖すぎて、読み切れなかったと思う。
焦点を当てる人物を程よく散らしているのがうまいというより
読んでるこちら的に「助かります!」という感じ。
にしても濃くて汗臭くて、桐野夏生っぽくて、良かったと思う。

(映画にもなりましたね。無人島サバイバルで紅一点の主人公。
 原作の清子は40代で陰では「白豚」と呼ばれたりするので
 木村多江ではないのではなかろうか…と思ったのを覚えています。
 第44回谷崎潤一郎賞(2008)受賞作)


『神去なあなあ日常』 三浦しをん
林業って楽しそう!と思ってしまったが、
一日キコリ体験をして死にそうになったのを思い出した。

(横浜生まれの高校を卒業したばかりの主人公が
 いつの間にか三重県の辺鄙な村で林業に携わるお話し。
 「大自然」「癒し」「成長」というフォーマットではありますが
 なんだかんだで物語に引き込まれる面白さ。さすがです。
 ちなみに20代前半のころに、高尾山で伐採ボランティアをやっている
 知人に誘われて、一回だけお手伝いをしてみました。
 ヘルメットかぶってハーネスつけて木に登るって枝を伐る。
 全然できなかった…)
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