思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

澁澤龍彦『ねむり姫』高尚な気分になる

2020-01-31 17:13:32 | 日記
貴族の姫君とか、童子とか、山伏とか、
古い時代の日本を舞台にした
不思議で怪しい雰囲気の短編集。

おとぎ話とか伝承話のような語り口で
漢詩や和歌が挿入されていたりして、
読むとちょっと高尚な気分になれます。

表題作『ねむり姫』は、
タイトル通り、長い眠りについてしまう貴族のお姫様のお話しですが、
王子さまの代わりに、悪党である腹違いの弟が出てきます。
その弟が、藤原定家『明月記』にも記録に残っている
“天竺の冠者”であるという設定。

天竺の冠者。
最近も見かけたな笑

『狐媚記』は、きつねの体内でつくられる
不思議な力を持った狐玉と、貴族の奥方のお話し。
関係ないけど、昔飼っていた猫が吐いた毛玉を思い出しました。
ほんと関係ないけど。

『ぼろんじ』は美少年と美少女が出てきて華やかですが、
なんだか耳袋っぽい雰囲気だな〜。
と思ったら石川鴻斎の『夜窓鬼談』(明治時代に出版された怪談集)を
元に書かれたそうです。
最後に、タイトルには深い意味はないけど「音」が好き、
という作者の言葉があり、「あんあん」「のんの」みたいなものだ、と。
澁澤龍彦の口(筆)から「an・an」「non-no」という単語が出るとは!!
一冊読んで最も驚いたのが、ここでした。

『夢ちがえ』は耳の聞こえない姫君のおはなし。
「夢を盗む」というのがおもしろかった。

『画美人』はタイトル通り、画から出てくる美人のおはなし。

『きらら姫』は、意外なことに姫はほぼほぼ出てこない。
ちょっと落語の長屋ものっぽい雰囲気がある。

初出は1982年から83年にかけての『文藝』だそうです。
私が持っているピンクの表紙の単行本は、著者ご本人の装幀。
好きに書いて、好きにつくってるな、澁澤龍彦!という感じです。
うらやましい!
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中島京子『かたづの!』おもしろ!

2020-01-28 13:38:07 | 日記
昔、駒込に住んでいた頃、
近所に「たたみ!」という看板を掲げた
畳屋さんがありまして。
ひらがなに「!」をつけると、そこはかとなく
ラノベとか日常系マンガっぽい雰囲気が出るよなあ…
ふしぎだなあ…なんて思っていました。

というどうでも良いことを思い出しました。
『かたづの!』です。

柴田錬三郎賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、河合隼雄物語賞
の3冠受賞作品です。すごいな。

そのラインナップで、なんか硬めな歴史物かな?
と思うかもしれませんが、大丈夫です。
妻が椎茸だったりラフレシアナに恋したりする
安定の中島京子ワールドです。
というか、だいぶとぼけた味わいのあるファンタジー。

とはいえ史実は結構ちゃんと抑えているようです。
ただ、「つの」とか河童とか白蛇とかが
フリーダムに登場するわけで。
東北の民間伝承もよく調べているんだろうなあと感心しつつ、
どこからどこまでが創作なんだ?!って感じで
作者に良いように転がされます。超たのしい。

物語の語り部からしてとぼけているんですが、
南部の秘宝「片角(かたづの)」でもある
一本角の羚羊(かもしか)が、
八戸の女城主・清心尼さまとの思い出を語ります。

かもしかゆえに(?)語りがあちこち自由に行き来して、
河童の来歴やら(左甚五郎のカンナ屑が河童になったって説、
なにそれ初耳ですおもしろい!)、屏風のぺりかんやら、
かもしかの恋女房の思い出話しやら、
唐突に挿入してくるのが、良い感じです。

あらすじ紹介的なもので見かける(?)
“江戸時代唯一の女大名となった根城南部家二十一代当主・
祢々(後の清心尼)の波乱に満ちた生涯の物語“
というと、ちょっと違う感じがしますね。
もっと飄々とした読み物というか。
そのなかに人生の苦味とか、
人の世への批評みたいなところはあるけれど、
さすがの中島京子、って感じで、読んでいてとにかく楽しいです。

ちなみに、作中に出てくるかもしか模様の小袖
「黒地花卉群羚羊模様絞繍小袖
(くろじかきぐんれいようもようこうしゅうこそで)」
というのは作者の創作かな?
「黒地花卉群鹿模様小袖」という桃山時代の着物は
東京国立博物館の画像検索で出てきますね。

絵画(タペストリー)の「貴婦人と一角獣」も有名だけど、
ペリカンが逃げた屏風もモチーフがあるのかな?
見つからなかったな…。
そもそも日本画のモチーフでペリカンって
描かれたことありますかね?
動物大好き伊藤若冲の「鳥獣花木図屏風(鳥まみれの左隻)」
にもペリカンはいない様子。

どうでも良いですが、若冲のクレイジー「鳥獣花木図屏風」
Google Cultural Instituteで超高画質で見られます。
70億画素って、画素数でかすぎてよくわからん。



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連城三紀彦『変調二人羽織』贅沢なデビュー作

2020-01-27 12:55:16 | 日記
レジェンドのデビュー作を含む超初期短編集です。
表題作が探偵小説専門誌『幻影城』の新人賞受賞作。
出版は、こちらよりも『戻り川心中』の方が先だった由。

どうでも良いけど、“探偵小説専門誌”というジャンルが
昔はあったのですね。
なんというか、浪漫とノスタルジーを感じるジャンル名だな。

私はいま短編を読んだのだろうか?
と不思議に思うレベルでひとつずつが濃厚!
プロットが複雑だし表現も凝っています。
さすがのレジェンド!!

表題作に加えて『ある東京の扉』『六花の印』
『メビウスの輪』『依子の日記』の5作を収録。

私は『六花の印』が好きでした。
語りもトリックもすごくよかったけど、読後感として
被害者の心情はほんとのところどうだったのかなって思って、
一層の味わい深さがあります。
文学だわ。
すごいわ。

あとがきは幻影城の元編集長・島崎博氏で、
デビュー当時の話しもおもしろいです。
新人・連城三紀彦特集ってことで
一ヶ月に3作を書かせて一挙掲載したって、あんた。
当時の編集の鬼畜っぷりが垣間見えて
ツッコミを入れたくなります。
(1978年8月号『メビウスの環』『消えた新幹線』『藤の香』)

初版は1981年。
私は、2010年に光文社文庫で再刊行されたものを読みましたが、
なぜか表紙は昭和感が悪い意味で漂うダサさである。
そこは変えてくれていいんだが。
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宇月原 晴明『廃帝綺譚』おもしろいよ!

2020-01-24 17:01:17 | 日記
宇月原 晴明(うつきばらはるあき)といえば
2006年に第十九回山本周五郎賞を受賞した
『安徳天皇漂海記』。
タイトルからわかる通りで澁澤龍彦『高岳親王航海記』の
オマージュ、というか、めっちゃ影響受けてるというか、
まあ、この人、読めばわかりますが澁澤龍彦大好きだよね!
って自分でも何を言おうとしたのか忘れてしまいましたが、
ええっと、『安徳天皇漂海記』は名作です。
オススメです!
澁澤龍彦『高岳親王航海記』は殿堂入りの名作なので
超えられないけれどね!!

で、その『安徳天皇漂海記』の続編というか、
世界観(設定?)を踏襲した4つの短編集が
『廃帝綺譚』。
私は知らずに読んで、途中で気づいたので、
それならそうと言ってくれよ!と思ったものですが。
よく見りゃ表紙のデザインが明らかにシリーズ感出してます。
見りゃわかるだろ!って話しですね。はいすみません。
(ミルキィ・イソベの装丁、すごく良い!)

冒頭で意味深な感じでマルコ・ポーロも出てきて、
4作目には『安徳〜』にも出てきた天竺の冠者が登場。
というか、天竺の冠者は澁澤龍彦の『ねむり姫』にも
印象的な役で出ますね。ホント、澁澤好きなんだろうな。
また脱線しましたが。

『廃帝綺譚』は、
4人の帝にまつわる、4つの物語。
それをつなぐ、琥珀のような蜜色の珠。
真床追衾(まとこおうふすま)やら、水蛭子(ひるこ)やら
混沌の湖やら、不思議でおもしろいキーワードがてんこ盛りです。

『北帰茫茫」は、元朝最後の皇帝トゴン・テムルの物語。
元=「げん」と歴史では習ったけれど、
大元帝国(ダイオンウルス)とも読むのね。勉強になる。
『南海彷徨』は元を滅ぼした明朝初期。永楽帝と宦官・鄭和のお話し。
『禁城落陽』は明朝の最後の皇帝・崇禎帝が主人公。
『大海絶歌』は舞台が変わって、ついでに時代も遡って、
日本の隠岐島、承久の乱で配流された後鳥羽上皇の物語。
ちなみに後鳥羽上皇は安徳天皇の弟にあたります。

なにはともあれ、この作者の作品はどれも、
題材のチョイスも物語の紡ぎ方も独特で、すごく面白いです。

爆死武将(松永久秀)の話しもあるらしいのですが、
なにそれおもしろそう、そっちも読もう。
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檀一雄『檀流クッキング』 無頼(自由)だ

2020-01-10 12:31:08 | 日記
正月休みの間、だらだら呑んだくれる際のおともに
『檀流クッキング』を読んでいました。

おいしそう、とか、やってみたい、とか以前に
「無頼っつか、自由だな!檀一雄!!」
と思います。
うらやましいです!

『檀流クッキング』は昭和44年の1年間
サンケイ新聞に連載された原稿を一冊にまとめたもの。

一回分が3ページくらい?
週2くらいのペースですかね?

まえがきでも9歳で母親が出奔して、
やむなく毎日台所に立ち…という
ハードモードな料理事情を書いていますが。
出てくる料理も珍しいものから定番ものまで幅広く、
つくりかたの略し方や旬の食材の扱いも、
長年料理している人だからこその描写だなあって感じです。

にしても、このペースで料理のことを書き続けるって
凄いなと感心してしまいます。

で、内容ですが。
相変わらずの読者のツッコミ待ちかな?的な
檀流トーク炸裂です。
超たのしい。

“どんなご家庭でも簡単にできる”とか言いながら、
肉屋に行って「タン(舌)ハツ(心臓)のつながっているもの」を買いなさいとか、
竹林に行って採れたてのタケノコを焼けとか、無茶言うな。
自由すぎである。
読んでいて惚れ惚れする。

私は料理がぜんぜんダメなので真似できないけど、
檀先生なら軽やかにおいしくつくるんだろうなあ、
とワクワクする中国やロシアの地方料理もたくさん出てきます。

檀ふみの「料理一等兵として手伝った記憶」的な
エッセイも思い出されて、さらに良い感じです。
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