思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『ターミナルから荒れ地へ』 アメリカ文学翻訳者のエッセイ

2022-11-30 16:42:48 | 日記
『ターミナルから荒れ地へ
- 「アメリカ」なき時代のアメリカ文学』
藤井光

翻訳者によるエッセイ。
アメリカ文学の古今を網羅したガイドかな?
と思ったら、
作者の翻訳業に軸足をおいたエッセイ集でした。

つまり作者が翻訳に携わった作家が主に語られる。
それはそれでおもしろかったですけど。

読みたいなと思った小説(あるいは作家)はあったけれど、
一冊の中で何回も引用されるので、
全然違う方面からの作品例も教えてほしいな、
と思ってしまった。

とはいえエッセイとしてとても面白かったのでヨシ!

90年代までにアメリカ文学は
「アメリカとは」を語る大仰なものが多く、
なぜか600ページ越えの鈍器みたいな厚さだったとか
「グレート・アメリカ」的なタイトルが多かったとか。

アメリカにおける自分探しの旅は
東から西への横断の旅だ、とか。
(アメリカに行ったことない私ですが、
 アメリカのロードムービーはルート66を走るんだよね!
 という印象というか思い込みというか、があります。
 あと学生時代に『バッファロー66』という映画も流行った。
 ムッチムチのヒロインが可愛かった)

あとは中盤に出てくる
「自称(自称カリスマ講師の略)」の授業レポートが
特に良かった。
翻訳の授業、受けてみたい。

その章の注釈にシレッと書かれていましたが、
「奇想の小説が読みたかったら、
柴田元幸と岸本佐知子の翻訳作品を読めば網羅できる」
というのは言い得て妙だと思いました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『8号室―コムナルカ住民図鑑』 超過密ソ連住宅!

2022-11-29 11:32:07 | 日記
『8号室―コムナルカ住民図鑑』
ゲオルギイ・ワシーリエヴィチ コヴェンチューク
片山ふえ:訳

作者は1933年レニングラード生まれの画家。
愛称は「ガガ」さん。
自由な作風で、旧ソ連時代は冷遇されていたそうです。

ところで、コムナルカ。
旧ソ連時代特有の極狭!な集合住宅のことらしい。
初耳!

ソ連時代の住宅事情が厳しかったという話は
ちょっと聞いたことあったけど、
(『巨匠とマルガリータ』でもアパートの居住権を
 奪い合うエピソードがありましたよね。
 そこそこの地位にいる紳士でも住宅はシェアハウス状態だったし。
 ソ連は心も狭いが、住宅もマジで狭い)
この面積でこんなに大勢が住めるものなの!?
というレベルでびっくりです。

革命政府が国有化したホテルや広めのアパートメントを、
めっちゃ細かく区画化(15平米くらい)した
共同アパートが「コムナルカ」の実態。
トイレと台所は共用、もちろん風呂はない。
一部屋に子持ち家族や、なんなら三世代が住んだりする。
ほげえ〜。
学生時代に下宿生活だった私も真っ青の密度です。

『8号室』は、
1960年代の入居当時に書かれたエッセイと、
引っ越した後に再訪した1990年代のエッセイ、
他数篇が収録されている。

個性的な隣人やおばあちゃんたち、
田舎が嫌で街の憲兵になった若者、
入れ替わる猫、
狭い一室でオシャレに(不自然に)暮らす夫婦など、
それぞれの暮らしの匂いみたいなものが鮮やか。

江戸時代の長屋を想像すると近いのかな。
いや、過密〜!!って思うけど。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【読書メモ】2016年11月 ③ アメリカ小説

2022-11-28 15:46:46 | 日記
<読書メモ 2016年11月 ③>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『奪回指令』ジョゼフ・ガーバー
熊谷千寿:訳。
主人公チャーリーは元CIA工作員で
連邦刑務所から出所したばかり。なにやったんだよ。
で、ロシアのスパイに奪われた新兵器の奪回を
指令されるという、いわゆる「冒険アクション小説」。
映像化を意識しているのか、飛行機跳んだり爆発したり、
とってもハリウッドっぽい。
美人ロシアスパイとか、設定がベタかよ!と思ったけど、
長男の嫁になるというオチは良かった。

(この読書メモがすべてなんですが、
 ベタベタなアクションミステリ設定なのに
 きちんと読み切らせるおもしろさがあるんですよ!
 ちゃんとおもしろかった!
 意外と凄いことかもしれません)


『高い窓』レイモンド・チャンドラー
もちろん村上春樹:訳。
「大いなる眠り」「さよなら、愛しい女」に続く
長編3作目。
前2作よりもプロットや謎解きがしっかりしている反面、
疾走感は控えめ、というのが一般の評価らしい。
そういえばあまりアクションとか
美女にぶんぶん振り回されるシーンとか
少なかったかな。
淡々と展開したというか。
まあ、でも、やっぱりマーロウかっこいいけどね!!
黒髪のリンダはもうちょっと活躍しても良かった。

(マーロウが、偏屈な老女の依頼を受けるところから始まります。
 息子の嫁を探してくれ、と。
 義娘が、大変高価な金貨を盗んだという理由だけれど、
 依頼内容もその周辺もキナ臭いことばかり。
 という、安定の不穏な幕開け!
 今日もマーロウはかっこいい。!
 ところで、村上春樹翻訳シリーズの文庫は、
 表紙のデザインがタイポグラフィでできていておしゃれです。
 『リトルシスター』が一番可愛いと思ってますが、
 この『高い窓』のタイポがスッキリしていて一番好き。)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『猫だって夢を見る』丸谷才一

2022-11-25 15:59:10 | 日記
久しぶりに丸谷才一氏のエッセイを読み返した。
相変わらずうんちく含有量が高いなあ〜。
よくもまあこんな軽やかにに知識から知識へと
逍遥できるものだなあと、感動する。

『猫だって夢を見る』は、
雑誌「オール讀物」に1988年から1989年にかけて
掲載されたエッセイをまとめたもの。

以下、メモ

毛沢東はローマ字論者
 知らなかった。
 でも、ローマ字表記がないとパスポートとか大変だよね。

「英雄、色を好む」のルーツ
 古代中国に「英雄、人を欺く」があり、
 (英雄のはかりごとは奇想天外だ、くらいの意)
 ここから多分「英雄、酒を好む」ができた。
 中国にあるかどうかはさておき、歌舞伎には出る。
 その後「英雄、色を好む」になったのでは。
 という丸谷説はおもしろいけれど、
 それよりも吉川英治への悪口がおもしろい笑

「ポトラッチ」
 チヌーク語で「食物を供給する」「消費する」の意。
 これが展開して「ふたつの部族が相互に敬意を表し合う」
 「そのため浪費を競争する」という意味合いになった。
 浪費を感謝やおもてなしと考えるか、虚礼ととるか。

ジャージー島
 イギリスの端っこの島で、むしろフランスの方が近い。
 戦略的意義は高くないものの1940年から5年間、ドイツが占領&死守した。
 ヒトラーがイギリス本土を占領しているという言葉の響きにこだわったため。
 ジャージー牛乳は美味い。

サラダ記念日は7月6日
 七夕の逢瀬の前日。
 文月や 六日も常の 夜には似ず  芭蕉

「鶴の一声」
 というからには、鶴の鳴き声は一声二声と数える。
 鈴虫の声は一振り、二振りと数える。鈴だから。
 と、噺家の三遊亭金馬師匠の随筆にあるらしい。
 ちなみに兜は一刎(ひとはね)、二刎
 薙刀は一枝(ひとえだ)、二枝

アンディ・ウォーホルの遺産
 収集癖があったのでガラクタが多数の遺品競売を
 サザビーが行ったという「芸術新潮」の記事。
 ミッキーの腕時計は2700ドル(35万円)
 クッキー缶と塩胡椒入れが23100ドル。
 ウォーホルだからこそガラクタに芸術価値(?)がついて売れたのでは?的な。

なぜ%は%と書くのか
 100を崩して%にした(丸谷説)
 Per cent のcpが%になったのでは(オール讀物・薬師氏)
 などと侃侃諤諤やってる。
 丸谷先生の日々は楽しそうだ。

永井荷風『濹東綺譚』
 あれ?最近他の本でも読んだな(『うろん紀行』だな)
 この主人公の名前・大江匡は、永井荷風の先祖に由来していて
 自分の分身としてのネーミング、という話。
 「美濃の系図買い」という言葉で若干の疑義を挟みつつ、
 先祖の一人と言われている大江広元?最近も見たな。
 鎌倉殿の13人だ!という自分周辺のちっちゃな感動が複数あった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』 血生臭く幸福な一代記

2022-11-18 16:11:42 | 日記
『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』
ウェンディ・ムーア
矢野真千子:訳

意外と知られていないけれど、
マニアの中では有名人、という感のある
解剖医ジョン・ハンターの一代記。
(ゆる言語学ラジオの堀元さんが大好きでおなじみ)

皆川博子御大の『開かせていただき光栄です』の
モデルでもあります
(弟子に細密画の天才がいるところとか、貴族趣味の兄と
仲違いしているとか、だいぶ細かく踏襲している)。

世の中的には、『ジキル博士とハイド氏』で有名らしい。
(ハイド氏が、レスター・スクエアのハンター屋敷を、
ハンターの死後に買い取った的な設定。)

18世紀ロンドンの解剖学教室を営む上流志向の兄
ウィリアム・ハンターに呼ばれ、
20歳で田舎から出てきたのがジョン・ハンター。

解剖学への異常な情熱と達見で、外科にとどまらず、
歯科や博物学の分野にも影響を及ぼしまくった人。
20歳まで学業も仕事も大した成果がなかったというのも驚き。

人体の未知に対する探究心に、ただただ頭が下がるというか、
打ちのめされるというか、素直にすげ〜ってなります。

古代ギリシャの文献だの定説(ほぼ迷信)だのを盲信せず、
ひたすら実験と推論を重ねていく姿勢は、
近代科学者の先駆けという感じである。
ガリレオっぽい。

彼の弟子や患者、友人知人は18世紀ロンドンらしく
有名人がわんさかいるのですが。
(詩人のバイロンは赤子のときに診察されている)
弟子のひとりが、天然痘を発見したジェンナーです。
ハンターは、淋病が感染症だと検証するために
自ら淋病になるとかクレイジーエピソード満載ですが、
そんな師匠を尊敬していたジェンナーが
天然痘ワクチンを発見したのも、さもありなんと思う。
感動があるね!
仲良しさんで、しょっちゅう手紙のやりとりをしていたらしい。

当時の歯科治療として生体移植
(貧乏人から健康な歯を抜歯して金持ちに移植する。
数年は持つらしい)があったのは知らなかった。
現代の感覚だと、無理でしょ根付かないでしょ、と思うけど、
一定の間は処置されていた治療法らしい。
エマ・ハミルトン(ネルソン提督の愛人として有名なミューズ)が
貧しいころに前歯を売ろうとして友人に止められたという
挿話も良かった。

クック船長とか、フランス革命とか、
有名な歴史ワードが頻出します。

当時珍しい電気うなぎがロンドンに来た際に、
博物学の名士たちが
「はやく買って確保しないとハンターに解剖されるぞ!」
と焦ったエピソードとか、いいですね。

ハンターの死後、彼の研究や論文を低レベルな剽窃した
義弟ホームは許すまじ!と思うが、
総じてハンターはやりたいことをやりたいだけやって、
良い人に囲まれ幸せに生きたのではなかろうか。

血生臭い『風立ちぬ』っぽさがないですか?
ない?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする