思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

垣根涼介『ワイルド・ソウル』上下巻一気読みできる!

2020-08-31 10:20:18 | 日記
いい!
久しぶりに文字通り一気読みしました。
垣根涼介『ワイルド・ソウル』
(文庫だと上下巻、1000ページ超え。
 でも大丈夫!一気読みできる!!)

戦後のブラジル移民政策の酷さに端を発する物語。
移民生活の過酷さから始まって、
日本国家への復讐(2003年)事件へと繋がります。

導入のブラジル移民問題は、
ものすごく勉強になるので読んだ方がいい。

中盤からの壮大かつ疾走感のある上質エンタメストーリーは、
ものすごくおもしろいので読んだ方がいい。

要するに読むといい!
おもしろい!

登場人物が全員良かった。
松尾くんがんばれ。

蛇足的なことを書くと、
こういう題材って、「問題提起だ!!」と鼻息荒くして
凄惨な描写に終始する作家って多いじゃないですか
(個人の感想です)。

この小説はそうじゃないし、ちゃんと勝利したと思う。
読んだ方がいい。

大藪春彦賞、吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞を同時受賞、
史上初の三冠受賞(2004)だそうです。
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【読書メモ】2013年10月 ①

2020-08-28 16:12:35 | 【読書メモ】2013年
<読書メモ 2013年10月 ①>

『鎌倉河岸捕物控 古町殺し』佐伯泰英
後半は主題の古町殺しが数章つづいて、一気に読めた。
下駄貫の死亡フラグが半端ない。


『英国庭園の謎』有栖川有栖
編集者がアレだったりエッセイストが殺されたり、
文筆家が事件に巻き込まれすぎではなかろうか。
あと、表題作、あんな理由で人を殺さないと思う。


『青い雨傘』丸谷才一
ぶらんこの話しがおもしろかった。
鞦韆、秋干(しゅうせん)とも書くのに、春の季語。
古くは中国の良家の女性が春に乗って遊んだから。
ふらここ、とも言う。
決闘の定番も面白かった。
場所や時間など。早朝にやるものなんだな〜。
犬や猫が原因で決闘して死んだ人もいたとか。
一方で愛憎劇での決闘は少なかったとか。
いいのかそれで。


『対岸の彼女』角田光代
ちっちゃい話をうじうじと…という感想。
結局、家庭環境の恵まれた順に、下から搾取しているとしか思えない。
あと小夜子は何も解決してない。
多分、別れた方がいい。


『鎌倉河岸捕物控 引札屋おもん』佐伯泰英
鎌倉河岸の6。
今回の軸はおもんに惚れこんじゃった清蔵。
おもんが悪女とかでなく、逆に良い女なので困ったもんだ、
という話しだけど、軸にするには弱いのでは。
ぐるっと一周ひねってなにも無い、という感じの巻。


『御手洗潔のダンス』島田荘司
初期の短編集。
浅草や横浜馬車道が舞台だったりして、
<御手洗シリーズ>の世界観に溢れている。
最初に読んだのが『ネジ式ザゼツキー』なので、
元々はこういう設定だったのかー。と。
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『時をきざむ潮』作者が一番の謎である

2020-08-27 16:47:13 | 日記
藤本泉(せん)の『時をきざむ潮』。

梶龍雄の戦史文学『透明な季節』とともに
第23回江戸川乱歩賞を受賞した作品。

舞台となる「白蟹村」は、東北の海沿いにある小村。
よそ者や国家体制を拒否するザ・閉塞的な村。
警官の不審な失踪事件なども起こしている。

藤本泉は、こういった「エゾ共和国」がテーマとなる作品を
全5部作で書いている作家。

この回の乱歩賞は、選考委員から「推理小説」として
厳しい評価が多かったんですが、
選考委員の陳舜臣は、「エゾ共和国」を
「作者の得意とするテーマ」と表現して認めた上で
「これからもあまり『推理』ということを意識せずに書いてほしい」
と書いています。

ある種、乱歩賞の評価軸を放り投げましたね笑

作者の前書きでも書かれていますが、
主人公は「運の悪いまじめ男」で
愚直な捜査を続ける田舎の刑事。
調べるのは、不審死を遂げた都会のエリート青年の事件。
立ちはだかる不気味な「エゾ共和国」。
なんというか、主人公かわいそう。

藤本泉は、ミステリアスな作家というか、
特異なテーマ性に加えて
エッジーなエピソードを多数持ち、
さらに最終的に海外で謎の失踪をしている人で。

私が読んだ『江戸川乱歩賞全集』の
巻末エッセイは、藤本泉ファンの篠田節子が書いており、
なかなかに面白い内容です。

曰く、
90年代に藤本泉に興味を持ち、
年配の作家や編集者に彼女のことを聞いてまわった。
「ある地域を舞台にする小説を書くときには、その場所に数か月滞在する」
「取材で村に入ったら最後、郵便は局留で、家族にさえ居所を教えない」
「東欧に単身で入ったまま、行方不明」
等々の奇矯なエピソードを収集し、親和性を強めていったそうな。
篠田作品『聖域』のヒロイン“泉”は藤本に敬意を表して命名。

乱歩賞受賞作は文春ミステリのベストテンにも入るものらしいが、
これは入っていない(梶龍雄は5位に入りました)が、
「大いに名誉なことである」と言っている。
もう、推理小説じゃないけど藤本泉だからオールオッケー
文句あんの?というスタンス。

というか同時収録されている梶龍雄にはほとんど触れず、
ほぼほぼ藤本トークでした笑

『江戸川乱歩賞全集11』の初版は2001年。
1977年当時の選評も作品と一緒に収録されていますが、
その後ろにある解説(香山二三郎)と巻末エッセイ(篠田節子)は
2001年のものかな?
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『海松』海沿いの小さな家が欲しい!

2020-08-26 14:04:55 | 日記
稲葉真弓『海松(みる)』。
「海松」、「光の沼」、「桟橋」、「指の上の深海」
4つの短編が収録されています。
表題作と「光の沼」は同じ主人公のお話し。
後半ふたつは、ダメ恋愛女子の自分語りなので、一段落ちますが、
前ふたつが最高に良い。すごく良い。

東京でずっと暮らしていた40代独身女性が、
「オスの雉がぽつねんと歩いているのを見た」
ことがきっかけで、半島の崖沿いの土地を買い、
家を建てる。

それまでは、地元愛知を出て、東京のマンションでひとり
働き、暮らす。20年間。

いつの間にか「わんさといた友人たち」は
海外勤務やら結婚やら病気やらでいなくなり、
死に別れた友人も少なくなく。
主人公は東京の暮らしに行き詰まるというか、
息が詰まっちゃったというか。
いきつけのバーで泥酔したり
独り帰ったマンションでクチナシの苦しい夢を見たり。

わかる。
私はすでに東京を離脱してしまったけれど、すごくわかる。
24時間ぜんぶ自分のもので、
働くのも遊ぶのも食べるのも好きにできて
ものすごく自由で、ふとした瞬間に、ものすごく孤独なんだよな。

ただ、人生で過去にちょっとだけ戻れる魔法が使えるなら、
私は、こども時代でも青春時代でもなく、
20代に東京で一人暮らしして
好き放題にワーカホリックして呑んだくれて
狭いマンションで生きていたあの頃に戻ります。
まあ、一泊二日くらいで十分です!おねしゃす!

そんな感じで、私は東京の暮らしが好きだった。
仕事も好きだった。
多分、主人公の女性も同じで。
その先が見当たらなくて行き詰まって。

主人公は40代で志摩半島の家を買った。
東京と行き来する暮らしが日々のモチベーションになった。
一歩踏み出した。

とはいえ数年経つと、やっぱり半島での暮らしも
ちょっとずつ変わるようで。
不変なんてない。

「あしたお天気さえよければね」と言いながら
行かないままの灯台に行って、時間との折り合いをつけねば。
わかる。

私もそんな小さな家がほしい。

『海松』もいいけど、『光の沼』も最高に良い。
表題作で、第34回川端康成文学賞(2008)受賞。
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鮎川哲也『黒いトランク』

2020-08-25 15:04:44 | 日記
そういや鮎川哲也って読んだことなかったなあ〜
と思って。

『黒いトランク』は、氏のデビュー作。

初版(『書下し長篇探偵小説全集』昭和30年講談社刊に収録)と
新版(『現代推理小説大系』昭和47年講談社刊)で
だいぶ違うらしいのを、
編集さんと作者で擦り合わせて
決定版とも言える創元推理文庫版をつくったとのこと。

創元推理文庫は2002年。

東京から九州やら四国やらあちこちに行くので、
舞台である1949年当時の旅模様などもおもしろかった。

しかしトランクを2個使う意味が
最後までよくわからなかったな。
複雑すぎて…。

馬場番太郎(BB)や膳所善三(ZZ)などの名前遊びが良い。
あと、警部も警部補も文学中年で、良い。
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