思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『シンドラーのリスト』 絶版中なの?復刊した方がいいよ!

2024-05-27 12:50:18 | 日記
『シンドラーのリスト』
トマス・キニーリー
幾野宏:訳

スピルバーグ監督の映画『シンドラーズリスト』の原作ですね。
ナチスドイツのホロコースト(組織的大量虐殺)下で
多くのユダヤ人を救ったのがオスカー・シンドラー。
小説の副題が「1200人のユダヤ人を救ったドイツ人」ですから
数人を屋根裏に匿った話とは桁が二つ以上違います。
いや、どうやったん…?

という感じで掴みも強いし、結果も凄いし、
人間的にもおもしろい人なんですよオスカー・シンドラー。

その割に知名度低い気はしますよね。
(日本人の外交官で、ユダヤ人にビザを発行しまくってあげた
 杉原千畝も知名度低いですよね。なんで?)

と言いつつ私も長らく積読にしてしまっていました。
ポッドキャスト「コテンラジオ」でシンドラー回を聴いて、
そういえば本棚にあるぞ…っ!!となって読んだ次第。
最近この流れが多い。

原作は1982年初版。
邦訳は1988年。

50人を超える「シンドラーの生き残り組」の証言を
作者が丹念に集めて、丁寧かつ慎重に描写しているのが
感じられる一冊。
変にノベライズしたり脚色したりせずに、
わからない部分はわからないと留保しているのが良い。

シンドラーは戦中も戦後も、自分のやったことを
自慢するタイプの人ではなかったようなので
彼が何を考えて行動していたのかわからない部分も多い。
少し前までは、そういう曖昧な部分を白黒つけたり
万人向けの理屈をつけて納得させたがるムーブが大きかった気がします。
(もしくは私の脳内がそのような未熟な状態だったのかもしれない)
それゆえ、シンドラーみたいな人はラベリングしづらくて
知名度が低かったのかなあと思ったり。

今は良くも悪くも「自分で考えろ」という段階かと。
しんどいなあと思う部分も多かったし
もやもやしている部分も多々あるのだけれど
人が人を助けるということについて
しばらく考えてみようと思います。

コテンラジオで紹介されていた
「シンドラーの生き残り組」の一人である
レオン少年の回想録『シンドラーに救われた少年』
(レオン・レイソン)はこれから読むつもりですが、
私の読書メモ内だと以下2冊が相乗効果で胸に来ます。

そこに僕らは居合わせた』グードルン・パウゼヴァング
夜と霧』ヴィクトール・E・フランクル

ところで『シンドラーに救われた少年』はアマゾンにあるんですが、
肝心の『シンドラーのリスト』は絶版中ぽいですよ。
なんでやねん!!!
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『謎の独立国家ソマリランド』 最強辺境ライターの出世作

2024-05-23 16:02:46 | 日記
『謎の独立国家ソマリランド
そして海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア』
高野秀行

最強辺境ライターの高野氏とソマリ人文化の出会いの書。
第35回講談社ノンフィクション賞受賞作(2013年)。

旧ソマリアはアフリカの東端「アフリカの角(つの)」
と呼ばれている場所にあった国。
アラビア半島の先っちょ、紅海の出入り口に近い場所。

かれこれ20年以上「崩壊」していて、
旧ソマリアと呼ばれる国は
「ソマリランド」(北部、平和)
「プントランド」(東部、海賊国家)
「ソマリア」(南部、とにかく危険)
の3エリアに分かれています。

そんなソマリ人の国に出会っちゃった高野さんの
2009年ソマリランドとのファーストコンタクト
2011年おかわり&危険地帯周遊取材
のルポ。

私は続編の『恋するソマリア』を先に読んでしまったのですが、
こちらの「出会い編」もなかなかの濃厚さです。

前半のファーストコンタクト篇を読む限りでは、
「ソマリ人には二度と関わりたくないな!私ならね!」
と思っちゃいます。
でも高野さんはそうじゃないんだよなあ。
なんでやねん!

そして2011年に再訪、どんどん深部に行っちゃう。
どんどんカモネギされるし、
どんどん危険地帯だし、
なんか軟禁されてるし。
大丈夫か?
(大丈夫だったけど大丈夫じゃなかった)

あと、カートで便秘にも悩まされているし。
って、すでにだったのか笑
(『恋するソマリア』でもエライ目に遭ってる。
 立派な中毒者である)

ソマリの歴史を説明する際は、
日本の源平&藤原氏に例えていて
最初は「要らんくない?」と思ったのですが
途中からは「清盛ね!バールね!」とか
「ハウィエ源氏のあの人ね、義経!(ハバル・ギディル)」と
見事に通称で呼んでいました。
カタカナ名覚えるの、ぜんぜん無理。

いやもうほんと凄い。
どうしたら良いのかよくわからないけど
ソマリランド系の募金があったらするし
『恋するソマリア』をもう一回読み直すこととします。
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『古代メソポタミア全史』 有名人が多い!

2024-05-17 15:56:13 | 日記
『古代メソポタミア全史
―シュメル、バビロニアからサーサーン朝ペルシアまで』
小林登志子

中公新書から2020年のコロナ真っ盛り期に出版された
メソポタミア全史。
作者の小林登志子先生は御年71歳にして
編集さんとも対面せずのリモート出版だったようです。
なんか、いろいろと、すごいな。

メソポタミアって、高校の授業で習うものの
「世界最古の文明」ってことしか印象ない…。

というわけで読んだら、新鮮なこともあるし
なんか聞いたことある〜ってこともある。
すごいよマサルさんの不思議生命体じゃなかったんだな、メソ!

紀元前8000年頃には天水農耕をしていたみたいですが、
紀元前3500年頃に成立したウルク文化期をもって
メソポタミア史は始まるそうです。
メインはシュメル人。
(昔、シュメル人が女子高生やってる漫画あったな…
 と思って検索したら『サディスティック19』という
 少女漫画でした。少女漫画…?)

『シュメル王朝史』に載っているけれど
実在を証明できない王様のひとりが、ギルガメシュ。
めちゃ有名なのに、実在したかどうか確定されていないのか。
有名なのは、後代の『ギルガメシュ叙事詩』のおかげ。
90年代深夜番組のおかげでもあるかもしれない。

メソポタミア史はざっくり、北部アッシリアと南部バビロニアの
並走したり併合したり分解したりの繰り返し。

古バビロニア時代の有名人はハンムラビ王(BC1792-1750)
『ハンムラビ法典』ですよね。
この頃、バビロン市の都市神マルドゥクがメソポタミアの
「偉大なる神々」の一員になったそうです。
あと、バビロニアが負けると王様の身柄と一緒に
マルドゥク神像も捕囚されがち。

新バビロニア王国時代だと、ネブカドネザル2世(BC604-562)。
古代ギリシアの旅人兼数学者フィロン(BC260-180)の記録にある
“バビロンの空中庭園”で有名らしい。
あと、聖書では先代が犯人にされているそうですが
ユダヤ人のバビロニア捕囚の人であり、
バベルの塔のモデルになる建築物をつくった人でもある。
おお!
ギルガメシュとは逆で、こちらはただの伝説だと思ってました!
史実なんだ〜!

あとはアッシリアのサルゴン2世(BC721-705)時代に
アナトリアのムシュキ王国ミタ王という人が登場。
これ、ギリシア神話でおなじみ「黄金の手」のミダス王と
言われている人だそうです。
有名人きた!!
(王様の耳はロバの耳でもある)

エサルハドン(BC680-669)は、日食・月食の際に
「身代わり王」「擬似王」を立てたという記録があるらしく、
小林先生は『金枝篇』に言及していました。
私が持っている『図説金枝篇』(編集されている)だと
バビロニアのマルドゥク神信仰での事例ばかりで
アッシリアの事例はなかったようだけど。
ファクト的には、『金枝篇』よりも2020年出版のこちらの方が
太いよなあと思っている。

いろいろと「あんたもメソポタミアか!」的な話があって
とてもおもしろい。
最後はアケメネス朝ペルシア帝国キュロス2世(BC559-530)が
新バビロニアを滅ぼして、メソポタミア史は終了!
そんなアケメネス朝を200年後に滅ぼすのがアレクサンドロス大王
また有名人がきた!!!
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『ダンジョン飯』冒険者バイブル&ラクガキ本

2024-05-14 17:40:40 | 日記
『ダンジョン飯』冒険者バイブル&ラクガキ本

あんまり漫画は読んでないのですが、
ここ数年で読んだ中では『ゴールデンカムイ』と『ダンジョン飯』が
とてもとてもとても好きです。
食べる絵が好きなのかな。

『ダンジョン飯』も無事完結したので、
『冒険者バイブル』と『ラクガキ本デイドリーム・アワー』
を買って、コンプリート完了です。

いや〜、やばいよね。
絵が上手いのよね。

10年以上前にちょっと仕事を休んでいた頃、
イースト・プレスのWEBメディア『マトグロッソ』で
九井諒子さんの『ひきだしにテラリウム』を
初めて見たのです。

(ちなみに当時は森見登美彦『熱帯』が連載されていた)

絵がうまいというか、デッサンが秀逸というか、
とにかく線も良いのだけれど
設定と構図がすごいな、と思いました。
あと、高野文子の系譜を感じる!!!と思いました。
私の勝手な印象ですけど。

そんな九井諒子さんですよ。
ダンジョン飯は本編もすごくおもしろかったけれど、
冒険者バイブルやラクガキ本から溢れ出る
設定と書き込みへの熱量!
あちちち。

これくらい没入して、脳内世界を拡げ深め解像度を上げないと
あんな世界観は描けないんだなあ〜と。
もう、こっちは逆にね、単細胞レベルで「すげ〜」って言うだけです笑

あと、食べ物が本当に美味しそうなんですよねえ。
(料理を扱う手のデッサンも最高にうまい)

食べ物がおいしそうって、いいな!と思い、
連休の旅行で食べたごはんをちょっと描いてみた。
下手すぎて後悔しました笑
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『茶の世界史』 『砂糖の世界史』の先生!

2024-05-13 11:01:04 | 日記
『茶の世界史』
角山栄

なんだか見たことあるタイトルですが、
こちらの角山栄先生は、
私が万人にオススメしている『砂糖の世界史』
川北稔先生の先生なのである。

というわけで読む順番が前後してしまいましたが、
この『茶の世界史』(1980年初版)があってからの
『砂糖の世界史』(1996年初版)なのだった。

というわけで「茶」の世界史です。
ヨーロッパ人が「茶」の存在を意識したのは
実は16世紀の大航海時代。

え、そうなの?
遅くない?

シルクロード時代から存在は知っていたものの、
飲もうと思わなかったみたいです。
マルコ・ポーロの『東方見聞録』(13世紀)にも
お茶の話しは出ない。マジか。

16世紀から17世紀にかけては、世界が一気に繋がった時代。
いや、ヨーロッパが強引にやって来ただけか。
とにかく当時のヨーロッパは欲しいものだらけ。
香料、絹、銅、茶が欲しくてたまらないのに、
一方のアジア(主に中国)は
ヨーロッパから欲しいものなんかない。
佐藤先生の「豊かな国は外へ出ない説」を思い出すね。

というわけで物々交換は成立せず。銀貨払いするしかない。
スペインはメキシコ・ペルーから銀を運び、
ポルトガルは日本から銀を輸入したと見られています。
(当時の日本は石見や生野から銀が算出していた)

ちなみに16世紀ヨーロッパ、
まだ食事も手づかみ、グラスも回し飲みの時代。
「最後の晩餐(15世紀)」もよく見るとフォークやスプーンがない(!)。
中国料理に接して、箸や磁器の存在に驚いたそうです。
そもそも料理が美味しいことに驚いたという記録もあるので、
そりゃ香辛料が必要だな、持って帰りな(銀貨払って)、と思う。

そんなこんなで大航海時代にヨーロッパへ
三大舶来物のチョコレート・コーヒー・紅茶がやってきた。

後の紅茶大国イギリスにお茶をもたらしたのは、
チャールズ2世妃、ポルトガル出身のキャサリン(1662年)。
持参金として貴重な砂糖も持ち込んだことで
お茶にはお砂糖という文化も完成。
つまり、エリザベス1世の時代(1600年前後)のイギリスに
紅茶はない、ということ。
ええ〜。朝から飲んでそうだけど、飲んでないの〜。
(エリザベス時代の朝食は肉だったらしい。肉!)

ここらへんから砂糖の需要が増え、
植民地の大規模プランテーション化&奴隷貿易という
『砂糖の世界史』の主題へとつながっていく。

18世紀から19世紀にかけては
中国の(望まぬ)貿易自由化から、茶葉の大量輸出。
4月の新茶の季節には、どの船がイギリスに一番乗りするか
ティ・レースが盛んだったそうです。
江戸時代の初物みたいですね。
イギリスが満を辞してつくった最新型快速船カティ・サーク号は
浸水の6日後にスエズ運河開通により
一度もティ・レースに勝利できなかったと。
どんまい。

そんなこんなで、『砂糖の世界史』同様に
帝国主義的ムーヴも関わってきて悲劇的な面も見える
お茶の世界史ではありますが、
総じて学びになるしおもしろいですよね。
砂糖同様に、小ネタもおもしろかった。
角山先生、川北先生、良い師弟である。
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