思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『ある男』 なにこれ、うまいな!

2022-12-28 18:09:59 | 日記
『ある男』平野啓一郎

この作者の小説、
実は芥川賞最年少受賞(99年、23歳当時)で話題になった
デビュー作しか読んでないんですよね。
旬のものをつまみ食いして、それっきりになっていた状態ですね。
『日蝕』は結構好きだったんだよなあ。

というわけで久しぶりに読んでみようっと。

『ある男』は
弁護士の城戸が関わった奇妙な事件(?)の話。
お、ミステリか?

相談に来た依頼者女性の夫が死んだ。
他所者である夫が名乗っていたのは別人の人生だった。

うん、ミステリっぽいね。
でも、なんというか、読んだ感じは人間文学なんだよな。
愛したひとは何者なのか、彼の実態はどこにあったのか…。
という疑問を突き詰める物語である、というか。

いろいろと考えさせられるのだけど、
とにかく一気に読める文章のうまさである。
城戸さんの人生に対して、私は共感は無いのだけれど
でも「わかる〜!」って思わさせられるんだよな。
うまいわあ。

本文とはあまり関係ないけれど、
導入で、「作者」が「城戸さん」と出会い、
彼の物語を書こうとした理由を語っているのもおもしろい。
主人公は「ある男」ではなく、「城戸さん」なのである、
という宣言でもある。
そして読み終わると納得する。うまいなあ。

『日蝕』以来だったのが惜しいな。
次は『マチネの終わりに』を読んでみようかな。
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【読書メモ】2016年12月 ①居眠り磐音シリーズ

2022-12-13 18:33:45 | 【読書メモ】2016年
<読書メモ 2016年12月 ①>
カッコ内は、2022年現在の補足コメントです。


『紅花ノ邨 居眠り磐音江戸双紙 26』佐伯泰英
元許嫁の窮地を救いに山形へ。
って、数週間もかけて歩いているうちに
手遅れになるものではなかろうか。
そこはのんびり歩いてちゃダメだろ!
とか思ってしまったけど、
そういうつっこみはお呼びではないようで。
藩政に関わる問題なら、一介の浪人が首突っ込んでは
いけない気がするのだけど、
そこもまた良し!ということで。


『石榴ノ蠅 居眠り磐音江戸双紙 27』佐伯泰英
ちょっとした藩の跡継ぎ問題に首突っ込んだり、
将軍の跡取りをうなぎ屋につれていったり、
御用を手伝ったり。
小さい事件があちこちに散らばっている感じ。
大事件の前の繋ぎの巻かな?


(2016年11月の補足で<居眠り磐音>シリーズが
 3冊しかなかったと書いた早々に
 4冊目5冊目あるやんけ!と思いますよね。
 適当で申し訳ない。
 ついでに、あと一冊あった模様(この翌月に読みます)。
 今回読んだのはシリーズ26、27冊目。
 ストーリー的にも序盤の波瀾万丈が落ち着いて
 色々とネタを探っている頃合いかな?
 比較的平和な後半戦かな?なんて思いました。
 が、このシリーズは全51巻もあるそうです。すげ〜。)
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『流浪の月』 うーん、しんどい

2022-12-12 17:58:44 | 日記
『流浪の月』
凪良ゆう

「前科者」というレッテル
「被害者」というレッテルを持つ二人の物語。

世の中的には児童誘拐事件の犯人と被害者だけれど、
その実態は…、という話し。

デジタルタトゥーは怖いよね。
そして知ったふうで意外とわかってない周囲も怖い。
身内こそが敵というのも怖い。

しんどいなあ。
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『エレジーは流れない』 平凡で非凡な青春小説

2022-12-08 16:29:29 | 日記
『エレジーは流れない』
三浦しをん

小説の舞台は餅湯温泉。
って、名前からしてふざけていて良いですよね。
特産品は干物とゆるキャラ「もち湯ちゃん」。
静岡の熱海とかその近辺がモデルかな?
それなりに観光客が来ているような、寂れているような
絶妙な温泉街です。

そんな海と山に囲まれた餅湯温泉商店街で暮らす
真面目で平凡な男子高校生・怜くん(高校2年)のお話しです。

平凡と自称しているけれど、怜くんの周辺はちょっと変である。

まず、商店街で同居している「おふくろ」と、
高級住宅地に住むバリキャリの「お母さん」、
二人の母親がいる。
そして父親はいない。
非凡!

あと周囲の友人がキャラ立ってる!
(ついでにメタ認知までしている。小説のくせに)
周囲の大人は変人ばかり!
非凡!!

高校2年から3年にかけての、
呑気なような小さな事件があるような青春の悩みもあるような、
そんな日々。

10代らしく無駄にぐるぐる悩むところや、
友人に全幅の信頼を寄せた「がっかり」を抱くところなどは
とても良い感じ。
相変わらず三浦しをんはうまいよなあと思います。
進路や家庭や友情などのいろんな思春期的悩みを抱えつつ、
とにかくカラッとしているのはさすがです。

もち湯ちゃんストラップほしい。
いや、いらんけど。
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『塩を食う女たち』 パワー系インタビュー本

2022-12-07 15:51:44 | 日記
『塩を食う女たち 聞書・北米の黒人女性』
藤本和子

著者の藤本さんは、結婚してアメリカで暮らしている翻訳家。
1980年前後アメリカ国内に暮らす黒人女性たちへ取材した
聞き書きのまとめが本書。

「黒人」であり「女性」である彼女たちの生き方を
インタビューした内容そのままに近い状態でまとめています。

初版は1982年。
実際に取材を行ったのはそれ以前なので、
アメリカの社会は変化していると思うけれど、
世事に疎い私には新鮮な衝撃と学びのある本だった。

アトランタ在住104歳のアニーおばあちゃんは、
祖母の奴隷解放宣言(1863年)の経験を語る。
19世紀が地続きのインタビューは、とにかく強い。

彼女たちの声には、いわゆる女々しさが全然なくて
(むしろ男たちより力強いものを感じる)、
いろんな角度から心を打たれる。

著者は学者さんでもないし、聞き書きというスタンスでいるので、
総論みたいなものは無く、わかりやすい結論もないのだけれど
荒削りで強い本だと思う。
ファクトでぶん殴られる感じと言いますか。
めちゃパワー系文学笑

不思議なタイトルの『塩を食う女たち』は、
トニ・ケイド・バンバーラの長編小説のオマージュだそうです。
以下、引用。

塩にたとえられるべき辛苦を経験するものたちのことであると同時に、
塩を食べて傷を癒すものたちでもある。
「蛇の毒」は塩を食って中和する。
「蛇の毒」は黒人を差別し抑圧する社会の毒である。


ちなみに「ゲットー」という言葉が普通に使われていて、
私はナチスの強制収用所のイメージしかなかったので戸惑った。
アメリカの大都市(ニューヨーク、サンフランシスコ)における
黒人密集居住地域を指しているらしい
(言葉としては、マイノリティの密集居住地域を指すので、
黒人居住区という意味ではない)。

他にも現代日本に暮らしていると分かりにくい単語はあったので、
2018年刊行の岩波現代文庫版では
注釈をつけても良かったんじゃなかろうか。
ちょっともったいない。
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