思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

三浦しをん『木暮荘物語』を読みながら

2017-10-30 17:44:30 | 日記
三浦しをんという作家に、
なんだか複雑な感情を抱いています。

多分、好きなんだろうけど、
全作品を全面的に肯定できない
なんかモヤッとしたものがあるというか。

好きな作品は、好きなんです。
『格闘するものに○』とか(就活の苦労が他人事じゃない)
『風が強く吹いている』とか(万引きは良くない)
『神去なあなあ日常』とか(私は一日体験林業で挫折した)
『仏果を得ず』は、だいぶ好きです。
(『白蛇島』とか『むかしのはなし』とかはそうでもない)
(『まほろ駅前多田便利軒』は、
なにもこれで直木賞あげなくてもと思った)

でも、この作者のなにが一番好きかと聞かれると、
エッセーなのかなと。
どこが好きかと聞かれたら、
エッセーから滲み出る作者のキャラなのかなと。

20歳の頃に書いたエッセー(『妄想炸裂』)を読むと
感性が豊かで語彙も豊富な人だなあと思うし、
書評エッセー(『三四郎はそれから門を出た』)を読めば
本とガチで向き合いすぎ!かっこいい!ってな気もちになるし、
文楽のエッセー(『あやつられ文楽鑑賞』)読むと
私も大人のはしくれなら文楽を鑑賞すべきかと思えるし、
あと、それぞれのエッセーから垣間見える氏の私生活が
飲んだくれてたり良い友だちがいたり家族との葛藤があったり
なんというか、チャーミングだ。

そんなこんなで、エッセーの類いは全部読んだと思います。
そんな「作者」というキャラに愛着が湧きすぎて、
なんというか、「あなた、そういうキャラだっけ…」的な
シリアスな作品を冷静に読めないというか(失礼)。
恋愛ものとかも、やはり、「そういうキャラでしたっけ…」
と思ってしまう私がいるのです(失礼)。
どうしたものか。

で、最近だと『木暮荘物語』を読んでるのですが、
20代男女のイマドキな恋愛を描いた
『シンプリーヘブン』という一篇とか、
あの恋愛下手キャラの作者が書いているのか、
と思うと集中できません(失礼)。

一転して、『心身』というタイトルの、
老いらくのセックスについて
無駄にマジメに考察する大家さんのお話しは
俗っぽいことも高尚に語る作者の真骨頂というか
面目躍如というか、さすがですというか、
好きな一篇です。

あと、犬の描写が可愛い。

いろいろ失礼なことしか書いてない気がしますが、
この作家さん、私のなかでの分類だと、
「作者のキャラが好き、故に、気が散って読みにくい」
という稀有なジャンルです。

他にもいるかな。
阿川佐和子…はちょっとちがうな。
高峰秀子…は作家じゃないしエッセーしかない。
うーん…、ジャンルと言てみたものの、他にいない。
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朝倉かすみ『コマドリさんのこと』他人事じゃない

2017-10-27 11:53:56 | 日記
朝倉かすみの『コマドリさんのこと』を読みました。
すごいものを読んでしまった……。

内容だけさくっと書くと、痛い話しっぽいんですが、
そういう話しではないのです。

肝心の内容(さくっ)は、
主人公は、40歳になるまで男性との交際も触れ合いもなく、
それでも恋愛や結婚や出産に夢をみがちな女性。
そんな「コマドリさん」の半生と現在を入り交えた
中篇小説。

って書くと、もうね、痛い!居たたまれない!
って感じですが、
実際に読んでも、ある種の居たたまれなさが凄いです。

でもね!それがね!良いんです!!
その居たたまれなさが、フシギと気もち良いし
愛らしいし可笑しいし、笑える。
何よりも「他人事じゃない」感がすごい。
私の中の「コマドリさん」が小説のあちこちに垣間見えて
笑ってる場合じゃないと思う。でも笑っちゃう。

私が「見つけた」と思ったホンダくんが自分を「見つけない」ことに
業を煮やして告白して大空振りするコマドリさん。
新入社員時代に「いい嫁になる」とオジサンたちに言われて
幸福な予感で胸がいっぱいになるコマドリさん。
結婚式では新郎新婦の趣味の紹介があると知り、
着付けとフラワーアレンジメントを習っちゃうコマドリさん。

恋愛経験も交際経験も皆無なのに地味な挫折を重ね、
それでも現実を考察したり自分を鼓舞したりして
「選ばれたい」「見つけたい」「恋人ではなく花嫁になりたい」
と意志を持って行動しつづけるコマドリさん。

痛いし愛しいし、もうね、私の中のコマドリさんが喧しい。

コマドリさんの妹が姉に向けて放つ罵声
「乙女と年増が一番どんくさい配合でミックスされてる」
には、もう笑うしかない。
私に向けて言っているのか、妹よ。

『コマドリさんのこと』は『肝、焼ける』という
著者のデビュー短編集に収録されています。
私的には、コマドリさんがぶっちぎりすぎて
他の作品もそれぞれ良いんですが、まあね、という感想。
いや、表題作は結構良かったですが。

余談ですが、
津村記久子『君は永遠にそいつらより若い』を読んだときも
主人公ホリガイの、自分を「女童貞」と捉える複雑な自意識の中に、
絶妙な「笑える&他人事じゃない」のバランスがあって
この作者に夢中になった記憶があります。

朝倉かすみ氏は、数年前に『田村はまだか』を
読んでいたものの、あまり印象に残っていなかったんですよね。
もう少し他の作品も読んでおこうかな。
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『文車日記』からの、主人公の名前

2017-10-26 15:39:01 | 日記
引き続き、田辺聖子『文車日記』の話しですが。
「あけぼの・くれない」という章で
文学に出てくる女性たちの名前の美しさを取り上げています。

子供の頃に愛読した少年少女小説の、主人公の名前にはとてもいいのがありました。吉川英治氏の「天平童子」なぞ、字もひびきもいいのです。ことに時代小説の女の子の名前が美しくて私は好きでした。「天兵童子」に出てくる少女は千尋(ちひろ)だったかと思います。千葉省三の「陸奥の嵐」は狭霧(さぎり)でした。・・・汀(みぎわ)は「大陸の若鷹」でしたか。渚、桔梗、露路 彼女たちはみんなきれいな名前を与えられて、心も姿も美しいのです。
(抜粋)


と言った思い出から、昔の奥女中は『源氏物語』の巻名から
とった名前で呼ばれることが多くあったという話しに。

言われてみれば、時代小説とかを読んでいて
身分の低そうな女性の名前にしては随分オシャレだなあ、
と不思議に思った記憶が。
本名ではなく、主人から与えられた呼び名なんですね。
浮船、桐壷、藤壺、夕顔、若紫などなど。
良い響きです。
個人的には、明石や須磨の響きが好きです。
これが源氏名の由来ってわけですね。

小説の登場人物が良い名前だなと思うと、
ちょっと読後感も良くなりますよね。

瀬尾まいこ『図書室の神様』の主人公の女性の名前
清(きよ)は、可愛いなあと思っていました。
『卵の緒』の育生(いくお)くんも良かった。
堀江敏幸『めぐらし屋』の40過ぎの主人公の
蕗子さんという名前も好きです。
文章も「蕗子さんは…」と、さん付けなのが、
全体の雰囲気に合っていて良い感じでした。
川上弘美『センセイの鞄』のツキコさんも良かった。

優しい読み心地の物語に、良い名前がハマってるのが、
私のツボのようです。

あと瀬尾まいこは総じて良い。
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田辺聖子『文車日記』

2017-10-24 12:01:03 | 日記
『文車(ふぐるま)日記』は、
古典文学に造詣の深い田辺聖子氏による
偏愛的エッセー集。

作者が、自分の好きな古典文学を
自由に(しかし的確に)解釈しているので
とても親しみやすい内容です。

扱っているのは
『万葉集』『更級日記』『平家物語』『今昔物語』
『古事記』『徒然草』『源氏物語』『古今和歌集』
ザ・古典文学というものから、
井原西鶴や与謝蕪村などなど……縦横無尽。

もうね、理系の私としては、
古典のテストでムリヤリ暗記して(それでも赤点で)
苦手意識しか持っていない有名作品や句、歌を、
深く読み解いた上で、さらりと読みやすい文章で
供してくださるのです。
大変にありがたい。
なぜ!私が高校生の頃に!出会えなかったのだ!
と、見当違いな恨み節をぶつけるくらい、
ありがたい一冊です。

一篇が数ページと短くて、
作品紹介の順番も時系列ではないので
どこから読んでも良いし、いつ読んでも良い。
ご家庭に是非、一冊。
とおススメしたくなるエッセーです。

個人的には『更級日記』の読書大好き少女の描写がピカイチです。
千年前も、夜中に火を灯して夢中になって読書してたんですね。
ホントに!高校生の頃に!これを読んでいたらっ!!!(恨み節)
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『巨鯨の海』伊東 潤

2017-10-23 15:22:32 | 日記
今春に「読むぞ!」と思ってから、早半年。
秋もすっかり深まりましたね…。

まあ、「読みたい本メモ」に書かれたまま
数年を経ている本も多々ありますから、
たった半年で読んだなんて、私、偉い!
とポジティブに考えるのもひとつの手です。
(マインドコントロール…)

というわけで読みました『巨鯨の海』。
鯨漁を生業とする和歌山県太地(たいじ)の
殷賑を極めた江戸時代中期から、落日の明治まで。
全6編の短編集です。

すべてのお話しが、「太地」という
ひとつの(閉じた)社会を舞台にしていますが、
それぞれバラエティに富んだ物語というか
全く彩りの違う人生が描かれていて、とても面白かったです。

最近では、熊谷 達也『邂逅の森』でも感じましたが、
民俗学的というか、その時代その場所の風俗がリアルで
細やかに描かれているのが、
知識欲が気持ちよく満たされるというか。
勉強になって面白かったです。

鯨漁に関しては、まったく知識がなかったので
江戸時代に確立したという「古式捕鯨」の描写は
「こんなんで獲れるのか…?」という驚きや、
鯨の賢さや生命力への感動や、
一度の漁に200人以上で挑む難しさや矜持や、
果ては、狭い社会で生まれ暮らすことの
葛藤やら安寧やら欲やら諦めやら。

にしても、海なし県で育ったせいか
(それだけが原因ではないけどな)
私が「鯨」から連想するのは
「父母の時代に給食で出ていたらしい」
くらいの乏しいイメージしかなくて。

『恨み鯨』に出てくるように
家族を獲られた鯨の荒れようや
子連れ鯨の絆などのエピソードは、けっこう衝撃的でした。
一方で、それでも鯨を生活の糧として
命のやりとりをし、命をいただく、太地の人々が
鯨を「夷様」と呼んで敬う姿勢とかも印象的です。

収録されているのは以下6編。
『旅刃刺の仁吉 』
『恨み鯨 』
『物言わぬ海 』
『比丘尼殺し 』
『訣別の時 』
『弥惣平の鐘』

『旅刃刺の仁吉 』『訣別の時 』は、
鯨漁への貢献度イコール存在意義である狭い村で
居場所を探している10代の葛藤の物語。

『比丘尼殺し 』はちょっとだけミステリ風味ですが、
核にあるのはやっぱり、閉じた社会のルールや価値観で。

ひとつの村で、様々な人生。

勉強になる一冊でした。
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