思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『モスクワの伯爵』上半期ベスト!

2021-06-29 10:22:58 | 日記
『モスクワの伯爵』
エイモア・トールズ
宇佐川晶子 訳

ブラボーと言うほかない!上半期のベストが来た!凄い良い!解説の結びは本文の表現を借りて「ブラボーと言えば充分」ですが、もうね、言わざるを得ない。追加してエレガント!チャーミング!とか、色々言いたい。ホント、よかった。始まりは1922年。共産主義者が帝政に対して革命を起こし、皇帝の処刑までしちゃう修羅の国ロシア。マジおそロシア。貴族も財産没収特権剥奪追放処刑等々。主人公のロマノフ伯爵は若い頃に書いた民衆鼓舞系ポエムのおかげで助命されるが、滞在中の高級ホテル・メトロポールから一歩でも出たら銃殺。つまり一生軟禁。32歳。まだ若いのに・・・。そんな伯爵のホテルライフです。でもぜんぜん陰鬱じゃない!さすが貴族かつ紳士。名付け親であるデミドフ大公の言葉「自らの境遇の奴隷となるな」に従い、ホテルの屋根裏部屋暮らしを、胸を張って紳士として日々過ごす。気負いもなければ意地もなく、自然に「紳士」なんだな。伯爵かっこいい。共産主義者は本当に貧乏臭くて、年代銘柄それぞれのワインのラベルをはがしたり(ワインの平等だってさ!馬鹿なの?!)、特権階級には「管理タグをつけたから国有財産である」高級家具を下げ渡す(個人財産じゃないから平等だってさ!馬鹿なの?)。本物の動物農場じゃん!貧乏くさいというか、精神が根も髄も満遍なく貧乏!!!と憤っていたけれど、伯爵はぜんぜん紳士。物語後半で貧乏共産主義者に「この特権階級が!」的な貧乏精神論爆発の暴言を吐かれるんだけど、伯爵はきょとんとしちゃうんだよね。その貧しく捻くれた感情が伯爵の世界には無いから。そして私は貧乏共産主義者と同じレベルでキーキー喚いていたのが恥ずかしくなるわけです。私は貴族にはなれない。無念です。でも伯爵が紳士でいてくれるから、もうそれでいい。ところで最後はあれで良かったのかな。女優から足がついたりしないかな。それでも伯爵的に良いのなら、私はもちろん賛成します!できればソフィアともう一度会えるといいのだけど。クソったれソ連の崩壊まで伯爵は生きていられるかなあ。でも、総じて、1ページ目から最後のページまで、良い読書時間だった。伯爵がチャーミングでエレガントだから。でも共産主義はクソ
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『灯台守の話』海辺を旅したくなる物語

2021-06-25 11:54:37 | 日記
『灯台守の話』
ジャネット・ウィンターソン
岸本佐知子 訳

崖に刺さった斜めの家(これだけでもおもしろいな!)で育ち、
10歳で孤児になった女の子シルバーの物語。

ハーネスをつけていないと崖に落ちる斜めの家。
って、導入から魅力的で引き込まれる。
傾いているので、パンケーキをひっくり返すのに最適らしい。
ポジティブ!

とはいえシルバーはあっという間に孤児になってしまい、
灯台守で盲目のピューに引き取られます。

「光のお世話をする」ことと「物語を語る」ことを
ピューに教わる、幸せな(振り返らないと気づけない類いの幸せで、
切なさもあるけれども)数年間。

ピューは、100年前に街に住んだ偏屈宣教師
バベル・ダークの物語を語ってくれる。
物語には、『種の起源』のダーウィンや
『ジキル博士とハイド氏』で有名なスティーブンスン
(祖父は灯台建築専門の技師。史実)も登場します。

灯台を追われ、いつの間にか海辺の街を渡り歩き
成長したシルバーが「愛するあなた」に出会うくだりは、
ちょっと不思議というか難解というか。

とはいえ、良い物語。
ダークは水底に沈んでしまったけれど
(深海がお似合いな男なのである)、
シルバーは愛と人生を肯定できたと思える。
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【読書メモ】2015年6月 ④

2021-06-24 10:42:35 | 【読書メモ】2015年
<読書メモ 2015年6月 ④>


『プラチナタウン』楡周平
三井がモデルっぽい「四井商社」を辞めた主人公が
田舎の町長になって老人ホームで町おこしをする話し。
そんなに大きなトラブルとかどんでん返しとかピンチとかなく、
着々とプロジェクトが進んでいくのだけれど、
それでもハラハラしたりスッとしたりする良いエンタメ小説。
結局、貧しい老人はどうなっちゃうのという問題は
提起したままで終了してしまった。
まあ、そういうことじゃないかなとは思う。
それより嫁と息子との関係は大丈夫か。




『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』奥泉光
予想以上にクワコーダメ人間だった…。
奥泉さんは低偏差値学生の会話は
あまりうまくないんじゃないのかな。
なんかバカにされてる感だけがある。
ちょこちょこ使う太字もいらないと思う。
なんというか、面白いのだけど、残念だな、という感じ。
書評ブログとかで散見された「表紙詐欺」は、
読む前はそこまでじゃないだろ、と思ったが、
マジで表紙詐欺。
文芸部女子も美化されすぎだな。
そしてドラマの佐藤隆太は無いな。確かに無い。
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麻耶雄嵩『隻眼の少女』星ひとつ!!!

2021-06-22 09:50:54 | 日記
麻耶雄嵩(まやゆたか)『隻眼の少女』
第64回日本推理作家協会賞(2011)、
第11回本格ミステリ大賞をダブル受賞。
あらすごい。

と言いつつ、トータルの感想は星ひとつ!!!
お見事!!!

最終的な読了感は「一本取られたな〜」となる。
それだけを求めるなら良いと思う。

けどね、
「読書時間」の観点で、とにかく苦痛の出来。
『イニシエーションラブ』かよ!!!

特に前半が苦痛。
ぶっちゃけてしまうと、全体構成が
ミステリとしてのヒントが無いというか
ヒントを信用できない仕立てになっています。
そしてそれはなんとなく、前提としてわかってるんだけど。
だったら、さっさと後半に行けば良いのに、無駄に長い。
あと、設定がいろいろとダサい。
主人公の意味無し衣装とか、
最後に意味ある風に語るけど、無いよ、意味。
ダサい。

あと表紙もダサい(実写版)。

ちなみに本格推理作家協会賞は『折れた竜骨』とダブル受賞。
どちらも、ミステリの「大仕掛け」として見たら
悪くない作品なのかもしれないし
ミステリ関連の賞に値いするのかもしれないけれど、
読者に対して誠実じゃないっていうか、
読書時間そのものを馬鹿にしていると思う。

この前年の『乱反射』もそいういう傾向あるし、
この2年だけ審査員やった赤川次郎がセンス古いんじゃないか?
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『山魔の如き嗤うもの』今日の読書メモ

2021-06-21 10:03:50 | 日記
一年ちかく前に読んだ本の感想を
おもむろに更新したのはなぜかというと、
三津田信三『山魔の如き嗤うもの』を読んだからです。

ホラーと民俗学とミステリ融合型(もしくは横溝正史型)の
<刀城言耶(とうじょうげんや)>シリーズ第4長編。
ちなみにご本人は「横溝正史ですよね」と言われるのは
不本意らしい。
どう読んでも、現代の横溝正史です。
胸張ったらいいじゃないですか。

今作は、
奥多摩にある神戸(ごうど)地方の忌み山である
乎山(かなやま)が舞台。
山魔(やまんま)伝説や棄老伝説、金鉱にまつわる過去の事件、
何かと失踪する大人たち&こどもたち、等々。

ことの発端は、隣の山村である初戸(はど)の風習
“成人参り”で、乎山に迷い込んだ人物の体験記。

前作の『首無の如き〜』がほとんど作中作で
主人公であるはずの探偵役・刀城言耶の出番がほぼ無かったのに対して、
こちらは探偵が前半から山村に出動して連続殺人に巻き込まれて、
見事な王道である。

テンポ良く進むし伏線っぽい描写もふんだんで
読んでいておもしろい。
犯人はお前だ!と思ったら当たった。
やったー。

一家消失も大体は思った通りだったけど、
その事情や、そもそもの一家の秘密は驚いた。
読んでる間じゅう楽しめた!!

最終的な動機は「心狭すぎじゃろがい!!!」と思ったけど。

舞台は前作の媛首村のすぐ近くなのかな?
事件は、多分、1954年かと。
作中で武田泰淳の『ひかりごけ』(1954初出)の話もあるし。

前作『首無の如き〜』では、
1953年(昭和28年)秋の
言耶と阿武隈川烏先輩がちょっとだけ登場します。
ふたりで媛首村を目指していたところ、
滑万尾(かつまお)駅へ向かう列車の中で
山魔の話を聞いて急遽予定変更、奥戸(くまど)へ向かうという。
ここで、今回の前段に繋がる、と。
『首無〜』を読んだ際は、
「この人、主人公なの?どこ行くの?何やってんの?」
と大いに戸惑いましたが…。

<本格ミステリ・ベスト10>2009年(国内部門)1位、
<ミステリが読みたい! 2009年版>(国内編)2位

強面の鬼無瀬(きなせ)警部や、編集者の祖父江偲の反応が
ちょこちょこ漫画っぽいのは気になったな。
「ややっ!」とか。
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