思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『叛逆航路』 7冠SF読んだ

2023-03-27 16:26:22 | 日記
『叛逆航路』
アン・レッキー
赤尾秀子:訳

創元SF文庫。
ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、アーサー・C・クラーク賞、
英国SF協会賞、英国幻想文学大賞、キッチーズ賞の7冠獲得。
なんかよくわからんが、凄いらしい。

ラドチという宇宙帝国を舞台にした三部作。

主人公はAI。
戦艦の人工知能であり、同時に、
「属躰(アンシラリー)」と呼ばれる兵士用ボディを
数十体同時に運用している。
で、母艦も他の属躰も破壊されたあとに
一体だけ残った属躰ブレクが主人公なのです。

人間の体をベースにしているので、
食べるし、眠るし、怪我する。
母艦のAIもないのでデータベース等も限界がある。

自我を持たざるを得ず、自立せざるを得ない、
AIなりにもがきながらがんばる設定ってのは
『マーダー・ボット・ダイアリー』を彷彿とさせますね。
この設定は好きなんだよなあ。
でも本作のブレクより弊機の方が愚痴っぽくてかわいい。

で、この小説は、ブレクの過去と現在が交錯しながら進みます。
ブレクの「個人的な」復讐のために圧倒的支配者である
ラドチ皇帝(数十体もいる)を暗殺しようとする、という話。

ラドチャーイ(ラドチ民)は人々を性別で区別しておらず、
あらゆる人を「彼女」と表現するので
登場人物の外観を想像しずらくてなかなか戸惑う。
これは作者の狙いらしいです。
おもしろいな。

ラドチは超武闘派で併呑併合で一強になった国。
(どうすりゃここまで一強になるんだ?)
なので、併呑された惑星や星系ごとにも
文化や信仰があったり、
ラドチにも独自の社会構造や文化風俗がある。
それがまた、細かく作り込まれているので
良くも悪くも
「正しい日本語なのに、何言ってるんだか1ミリもわからん」
という文章に多々、ぶつかります笑

慣れればおもしろいのかもしらん。
クリエンテラとか、古代ローマ帝国っぽい文化が垣間見える。

セイヴァーデンが前半と後半で別人になってないだろうか、とか
結局ブレクは何がしたかったのかなとか、
ちょっと気になるところはあったけれど
書評通りの壮大なスペースオペラだった。
おもしろいと思います。
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『漢字を楽しむ』 漢字って楽しい〜

2023-03-22 16:00:38 | 日記
『漢字を楽しむ』阿辻哲次

最近なにかと読んでいる講談社現代新書。

漢字の成り立ちとか構造とかテーマがあるわけではなく、
漢字の先生が漢字を楽しんでもらうために
自由自在に書いているイメージの一冊。

おもしろ漢字エピソードもちょこちょこ入っていて、
読んでいて飽きない。

ちなみに私は、音読み・訓読みが混ざっているもの全て
「湯桶読み」だと思っていました。
「音読み+訓読み=重箱読み」
「訓読み+音読み=湯桶読み」だった。
ごちゃ混ぜにおぼえてた〜
(「ぎなた読み」は「弁慶のなぎなた」なのも最近ようやく知った)。

音読みでも漢音、呉音、唐音に加えて慣用音があるって、
説明も丁寧でわかりやすかった。

「環」の下がはねたら学校のテストでバツがつく
というエピソード、結構ページ数が割かれていて
先生の熱い思いが伝わってきます笑

閖上の「閖」エピソードも良かった。
殿様が漢字をつくっちゃった、という笑
武則天の「則天文字」も味わい深い。
いちいちデザインがダサいんだよなあ〜。
山+水+土で「大地」!とか、こどもか。
権力によって爆発的に広がり、
死後の反発によってほぼ絶滅するという流れも味わい深いですね。
(そして光圀公でおなじみの「圀」だけ残る)

個人的には
「当用漢字」は「当座で用いる漢字」なんかーい!!
という驚きがありました。
その後に「常用漢字」がアップデートされてるけど、
「当座」の印象なさすぎ〜。
主張強すぎ〜。
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『KGBの男-冷戦史上最大の二重スパイ』 ドラマチックノンフィクション!

2023-03-15 15:33:47 | 日記
『KGBの男-冷戦史上最大の二重スパイ』
ベン・マッキンタイアー
小林朋則:訳

ソ連KGB職員オレーク・ゴルジエフスキーのノンフィクション。

オレークは父も兄もKGB職員という筋金入りの家で育ち、
ごくごく自然にKGB職員になったものの、
共産主義体制のいびつさに疑問を持つ青年へと成長。
デンマーク赴任中にイギリスMI6にスカウトされて
二重スパイになった人物。

様々な人物へのインタビューを元に構成されているので、
いろんな視点もあって飽きずにおもしろく読める。
作者はイギリス人だし、MI6側に立って書かれているので
KGBの資料や証言は推測の部分が多いけれども、
オレークのソ連時代の親友リュビモフや妻レオナへの
インタビューはたっぷりで、
元同僚や上司の自伝的なものや報道資料もよく集めているなあ、
と思った。

ドラマよりもドラマチックで、おもしろかった。

共産主義どっぷりのソ連で育ち、西側文化の真実に触れ、
プラハの春やベルリンの壁をリアルタイムに体験した
青年期の衝撃が生々しかったなあ。
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『二都物語』 納得の古典名作!

2023-03-13 15:02:21 | 日記
『二都物語』
チャールズ・ディケンズ
池央耿:訳

ディケンズによる1859年の作品。

舞台はフランス革命前後のロンドンとパリ。
ちなみにフランス革命は1789年。

前半がロンドン、後半がパリ、というイメージかな。
革命後、共和制支配下のパリの狂騒が細かく描写されていて、
いやもう、本気で怖いですよ。
恐怖しかない。

なんというか、
政治や戦争など、時代の大きなうねりって
避けようがなくて怖いのだけれど、
そういうのとはちょっと違うんだよな。

パリの「民衆が暴徒化」している日常は、
なんかもう、絶望レベルで怖い。
ギリギリのところで日常が営まれているのだけれど、
いつ何どきに破滅が訪れるかわからないという怖さ。

私が市民だったら、何をやってもギロティーヌ行きになる気がする。
「共和国の味方でないなら、全員敵!死!」という空気感。
ほんと怖い。
「やあ、市民」とか軽々しく言えない。

前半はちょっともたっとした印象があって(そして無駄に暗い)
どこらへんが「古典名作?」と思ってしまったけれど、
後半パリに行ってからの描写からダーネイ再逮捕、
手紙の朗読、クライマックス、おもしろかった〜!!
なるほどこれが古典名作か、と。

最後のカートンの語りが「予言」であると表現されているところに
慰めを見出してしまうくらい、
読後感としては「主人公はカートンでした!」である。

良かった!

『二都物語』は世界中で2億冊刊行されたという
超絶ベストセラーなので、邦訳もたくさん出ています。
私が読んだのは「光文社古典新訳文庫」。
2016年初版、邦訳としては最新版です。
訳者は池央耿(いけ ひろあき)先生。名前が難読〜!!
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『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』 ちょっと腑に落ちない

2023-03-10 17:06:18 | 日記
『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』
ジェスミン・ウォード
石川由美子:訳

2017年の全米図書賞受賞作。
作者は黒人系女性作家で、
今作と『骨を引き上げろ(Salvage the Bones )』(2011 年)の受賞で
全米図書賞を2度受賞した初の女性作家でもある。

『歌え、葬られぬ者たちよ、歌え』は、
アメリカ南部に住む黒人系一家の物語。

主人公のジョジョは13歳、
父は白人で、母方の祖父母と共に暮らす少年。
いたりいなかったり、というかいない方がマシ、
という母親レオニが第二の主人公とも言える。
まったくのダメ女である。

その夫マイケルもダメ男で、しばらく前から刑務所に服役している。

ジョジョは素直に健やかに育っているけれど、
実家は貧しく、ダメ女な母親はダメ男マイケルにぞっこんで薬中で
おまけに母親失格(育児放棄に近い状態)で。
とにかくジョジョが妹ケイラ(3歳くらいか?)の世話と守護もしなければならない状況。

語り手は、そんな苦労人ジョジョ、ダメ女レオニ、そして時々ゴースト。
物語の中心部は、
マイケルが出所するので長距離ドライブでお迎えに行くよ!ドラッグも運ぶよ!
(もちろんジョジョは行きたくない)というロードノベルでもある。

水も食事も準備せずに幼児ケイラを強制連行するあたり、
虐待で完全有罪だと思うけど、
どうもこの小説界隈はそんなツッコミは待っていないらしい。
とにかくアメリカの抱える問題にスポットライトを当て、
みんなで考えなければいけない空気があるよいうか。
(数ページに渡る別刷解説とか、だいぶ大上段に構えているきらいがある)
個人的には、ちょっと、そういう大きな視点で読めなかったな。

訳者解説で、作者の言葉が紹介されていた。
「ジョジョやミケイラを愛し、レオニを嫌うのは簡単だが、
レオニが奪われたものにも思いを馳せてほしい」
まったく賛同できないんですけど…。
仮に、まあ、思いを馳せることは可能だ。うん。
とはいえ、その結果としてのレオニの選択を肯定はできないんだよな。

別に否定したいわけでもないのだけど。
なんだろうな、社会の問題や不幸を描き理解を求めることと、
その結果として共感を求めることは違うんじゃないかな、とか。

うーん、学びはあったといえばあったし、
ジョジョとケイラとリヴの幸せは心から願っているし、
リッチーも安らかなれと思っているのだけれど。

この作品を取り巻く空気が腑に落ちなかったのかな。
難しいな。
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