思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『邂逅の森』すごい。

2017-06-30 17:11:34 | 日記
すごいよ『邂逅の森』(熊谷達也 著)、すごい。

山の神様を尊び、自然と生きる、マタギの人生を描いた物語。
主人公の松橋富治は、秋田の小さな村・打当(うっとう)の
マタギの家の次男。

彼の人生を通して、山の掟や東北の厳しい冬の様子、
大正初期の庶民の風俗が細やかに描かれています。
小説としても出色の一品ですが、
民俗学的にも価値があるんじゃないかってくらい。

マタギに代々伝わる独特の掟も興味深いですが
(山の神様は嫉妬深い女性だから、山に入る前は女断ちするとか)
個人的には、鉱山で働く男たちの間にも
組織的な人の繋がりやルール、プライドがしっかりあったことに
失礼ながらちょっと驚きました。
もっと、猥雑で雑多で無秩序な世界かと思っていました。

全編を通して、富治の「働く」ことへの真摯な姿勢が
すごく清々しくて、もうね、神々しい。
こんな風にまっすぐに、「生きる糧を得る」という行為と
向き合って生きていきたいです。
私もオフィスの神様の存在を感じたい。
そんでもって1対1でガチンコしたい。
多分負けるけど。

なにはともあれ、すごい。すごい物語。

と言っても壮大すぎるとか、とっつきにくいとかありません。
読みやすいですし、私はあと300ページくらい
おかわりしたくらいでした。

ちなみに2004年に山本周五郎賞と直木賞をダブル 受賞作品。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

松井今朝子『銀座開化おもかげ草紙』

2017-06-27 13:49:18 | 日記
松井今朝子『銀座開化おもかげ草紙』を読了。

幕府瓦解後数年の、銀座の、市井の人々。

明治初期の新しい時代の物語というと、
司馬遼太郎の『坂の上の雲』に代表されるような
政治や軍の「上層部」視点で描かれることが多い
イメージがありました。

主人公を始めとする、銀座界隈の「住民」たちが
新時代に戸惑ったり適応したり翻弄されたりする
人々の暮らしの描写が、すごく新鮮でした。

まあ、市井の人々と言いつつ、
それなりにやんごとない人物がたくさん出ていますが。
そこはそれとして。

主人公の宗八郎は、武家の次男坊。
三十路にして世捨て人のような生活をしていたものの、
兄に言われて銀座に住むことになり、
様々な出来事や人々に触れ、自身も変わっていくというお話しです。

すでに自分のことを「若くない」と自覚しているので
明治の新しい価値観や風物に苦々しい気持ちになったり
受け入れられない自分に歯噛みしたり。
それらは、ほんのちょっと生まれる時代がずれていたら
関係なかったり、悩むほどでもなかったりすることで。

時代を担う立場でも世代でもないし、
かといって、江戸に殉ずるほど前時代を生きたわけでもない。

会社で「中堅」と言われる私なぞは他人事とは思えず、
ああああ~なんか、もぞもぞする!つらいっ!!!
と、ごろごろ転げまわってしまいます。

若くない。さりとて、そこまで老けてない。
という世代にボディーブローをキメるような悶々が満載です。

それはさておき、いきなり文明開化しちゃった
明治の日本の描写が細やかで、おもしろいです。

銀座で初めてのガス灯が灯った瞬間の、
「意外と頼りない明るさ」とか、なるほどなあ、と。
社会の授業では、その事実の歴史的な価値しか習わないから
エレクトリカルパレードくらい強烈な瞬間を想像していましたが、
いきなりそんなにピカピカしないか、とか思って
偉そうにうなずく自分に苦笑です。

東京に突如現れた煉瓦造建築の、
「隣人が何をやってるかわからない」という
江戸よりも現代のマンション事情に近い状況に
いきなり放り込まれる感じとかも、おもしろいなと。
隣室で女郎屋まがいのことをやっていても気づかないなんて、
江戸の長屋では有りえない状況ですよね。

「ウサギ」の値段が高騰して破産者が大量に出たとか、
まったく知りませんでした。
オランダのチューリップ・バブルみたいなことが
ウサギチャンであったとは。もふもふ。

この作品、主人公の周辺の人々に実在の人物がいるようで、
そういうのをちょこちょこ調べるのもおもしろいです。
元与力の原胤昭や戸田の若様や高島の叔父さん。
読んだ際、ちょっと人物設定の描写が唐突な気もしたのですが、
実際のプロフィールだということで、なるほどと。

宗八郎の初出は幕末が舞台の『幕末あどれさん』で、
この『銀座開化おもかげ草紙』は明治期を描いた
三部作になっているそうです。
明治9年から西南戦争まで。

おもしろそうだし、読みたいと思いつつ。
なんか、思わぬ角度で悶絶しそうで
ちょっと時間をおこうかなと思案中。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ハイペリオンの没落』読了しました。

2017-06-20 16:27:25 | 日記
『ハイペリオン』の続編である
『ハイペリオンの没落』を、無事、読了しました。

それなりに楽しく読みましたが、
ひと月前の私に時間の墓標を開いてメッセージを送れるなら
「読んでも良いけど、読まなくても良い」と伝えようかと。

以下、ネタバレも込みの感想です。





なんと言ったらいいのかわからないのですが、
『ハイペリオンの没落』は、
ザ・SF小説ですね、という印象です。

ほんとに個人的な感想&表現ですが。
私がSFというジャンルに疎いからでしょうか。
宇宙戦争とか人工知能の謀略とか未来における神性とか、
グッと来ない。

逆に、生粋のSFファンや元科学少年には
楽しい要素しかない!って感じなのかもしれません。

あと、そういうジャンルの素地が無いので、
謎解き部分で理解できないこともありまして。
三位一体とか「共感」の話しがわからないのは、
キリスト教的な知識の足りなさの方が大きいと思いますが。

こうして振り返ってみると、私は
『ハイペリオン』の御伽噺っぽさが
好みだったんだなと思います。
シュライクの正体とか本当の黒幕とか究極知性とか
細かい理屈はどうでもよくて。
フーリー河をマンタがひっぱる「はしけ」で遡ったりとか、
大叢海(だいそうかい)を蛟(みずち)コワイとか
言いながら風萊船(ふうらいせん)で渡ったりとか、
ハイテクの極みのようでいてアナログの香りもする
不思議な大自然と文明とルールがあって、
その合間にそれぞれの人生が背負ったものを語り合って共有していく
あの感じが、好きだったんだなあと。

それに比べると、
『ハイペリオンの没落』は説明であり補足である
という印象が拭えませんでした。
しかも、文庫2冊に渡って謎解きをしてもらった割に
イマイチ理解できなかったという。申し訳ない。

とはいえ読後感は良かったです。

詩人とレイミアの最終的な関係性とか
ソルとレイチェル問題の解は良かった。

生き残った人たちの、前向きな姿勢も良かった。

ところで素朴な疑問ですが
転移ゲートって「どこでもドア」だと思ってたんですが
デスウォンド装置を「転移網の中」で
タイミング良く爆発させるのって、
あんなに簡単にできるもんなんですかね。

あと、ハントはどうなっちゃったの。
あの叫びで終了ですかね。

気になるハテナが2個残りましたが、
まあ、総じてみると、読んで良かった、と思います。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『吉原手引草』と『花宵道中』

2017-06-15 15:25:19 | 日記
何かの書評で松井今朝子『料理通異聞』が取り上げられていて
八百善の主人の話しとあって、面白そうだと思いました。

この作者さんですが、私のポンコツ脳みそに
「吉原のことを書く人」
とインプットされていました。

んんんんん~~~。
だいぶ昔に読んだ記憶が蘇ってきましたよ。

あれだ、人気の花魁が失踪して、
章ごとに色んな人が語る構成になっていて、
夜中にこっそり道中をして桜の樹の下でまぐわうやつだ。

(いろいろ検索中…)

はい、三行目が違います。

松井今朝子『吉原手引草』と
宮木あや子『花宵道中』がブレンドされていました。

作品の内容が混じってしまったというか、
そもそも両方とも松井今朝子作品だと思ってました。
なるほど、それで私の脳内で松井氏に
「吉原のことを書く人」という検索タグをつけたのですね。
そもそもが、間違ってた…。

今さらですがネットであらすじを読み返していて、
ちょこちょこ記憶が蘇ってきました。

練り物で小指をつくる指切り屋という商売が
印象深かったのを覚えています。
吉原では遊女が愛情の印として起請文を書いたり
小指を切って贈ったりするというのは
知識として知ってはいたのですが。
さらにその先の、「偽物の小指をつくる商売」があるというのは
想像したこともなかったので、面白かったです。

物語の軸は、花魁・葛城の失踪事件なのだけど、
吉原周辺に生きる人々の細やかな生活とか商売とかが
とても興味深くて、勉強になりました。
それぞれの身分での語り口も特徴的で面白かったなあと。

一方の『花宵道中』は、章ごとに主人公(遊女)が変わる構成。
吉原の文化風習に関する難しい話しはそんなに無くて、
大勢の遊女のそれぞれに人生があって、
それぞれに恋やら葛藤があって、それなりに面白かった気がします。
と言いつつ、表題作しか記憶には残ってなかったなあ。
それぞれの章ごとの主人公に相関関係があって、
おまけに時系列も入り乱れていて、ちょっと読みにくかったのも。

こうやって思い返してみると
『吉原手引草』と『花宵道中』は随分と対照的ですね。
なぜ混同したのだろうか。
それは私がポンコツだから。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

体内時計と我が家のマイナールール

2017-06-13 12:26:15 | 日記
春も眠いんですが、初夏も眠い。
眠いです。

人が一日と認識する「体内時計」は
個人差があるそうですが、
平均24時間10分。
24時間よりちょっとだけ長いそうです。

だから、本能のままに生活していると
24時以降の延長戦に突入して
夜更かし型の生活になるのだとか。

学生のころはむやみに徹夜とかして
生活リズムを崩すのが楽しいみたいな感じが
ありますよね。
もうね、今では6時に起きて顔洗って
NHKの朝のラジオ体操するのが理想の朝。
ハンコカード作ったら、
けっこういいペースで貯まる気がします。

それでも眠いんですが。
成長期か?

どうでもいいんですが、
私の母の教えは、朝起きてまず洗顔、
ではなく。
朝起きたらまず歯磨き!
でした。

20代になったばかりの頃、実家で兄嫁と飲んでいて
「兄くんって変な癖があってね、
朝イチで歯磨きするんだよ~」
と言われて、ようやく、
世間一般の朝の習慣ではないのか、と気づきました。
もちろん「珍しいよね~」とか言って兄のことは見捨てました。

我が家はそういうマイナー(ヘンテコ)ルールが多かったので、
兄を踏み台にしながら上手に生きれて良かったと
感謝してます。
ありがとう兄ちゃん。

あー、眠いな。
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする