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思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『麦酒主義の構造とその応用胃学』 シーナの脳汁濃いめの妄想エッセイ

2025-03-31 15:35:40 | 日記
『麦酒主義の構造とその応用胃学』
椎名誠

ご本人も書いていますが、
書かなきゃいけない締切に追われて
書きまくった感のあるエッセイたち。

これはこれで良い。
追い込まれて妄想を書き殴る感じとか、
窓から眺めた風景から無理くり捻り出した妄想とか。

飛行機の中で原稿用紙(白紙)を睨みながら
CAさん(存在しない仮名女性)とのやりとりを
妄想したかと思えば、
行きつけの店で友人・目黒孝二(仮名かと思ったら
実名。『本の雑誌』創刊の人ね)と飲んだ後に
夜の公園の謎を妄想したり。

7割くらい妄想を綴ったエッセイです。

書くべきことが山盛りの紀行エッセイとは一転して、
書かなきゃいけないテーマもないからこそ
椎名さんの脳汁が濃い感じがします笑
こういう思考回路なんだなあ、って。

ところで私、去年の夏の旅行中に
<あやしい探検隊>シリーズの一冊を読んでいたのですが、
読み途中で紛失したままだから
読書メモから取りこぼしているんだよなあ。
それとも夢だったかな。
(無人島に行くシリーズ。
現在のDASH島が登場していたと記憶してますが…)

『中国文明の歴史』 多民族と多言語の中華

2025-03-24 09:06:58 | 日記
『中国文明の歴史』
岡田英弘

講談社現代新書。
中国の歴史を3つに分けて論じている一冊。

第一期:
秦の統一から三国時代を経て五胡十六国まで
第二期:
隋の統一から唐、五代十国、南宋滅亡まで
第三期:
元による統一から日清戦争終結まで

「中国文明」の歴史ということで、
民族(昔の漢人と今の漢人は違うよね)や
言語、宗教、人口動態にも触れられています。
おもしろい。

中国の始まりといえば五帝本紀→夏王朝。
漢族の遠祖と言えるのが、華山(陝西省の南にある山)に住んだ
「中華(諸夏、華夏)」という人々だそうです。
人の集団を表す言葉だったのか、中華。

で、中華「じゃない」人々を表すのが「四夷(しい)」。
「南蛮」焼畑農耕民、「東夷」低地に住む人、
「西戎」遊牧民、「北狄」狩猟民の
「蛮夷戎狄(ばんいじゅうてき)」が、四夷。
有史前から「俺か、俺以外か」なんだな。

そんな夏王朝が「中華」を名乗った直後の殷王朝、
高祖母神が北狄の娘さんらしいです。
もう「俺以外」だ笑

秦の始皇帝で有名なのは焚書ですが、
篆書(てんしょ、漢字の字体統一)への後押し
という一面もあるのでは、と。
そういう見方もできるのかあ。勉強になる。

後漢で儒教が国教化した後、
太平道ブーム(前5年頃)から黄巾の乱を経て道教の時代へ。
184年五斗米道で終末論ブーム。
モンゴル族の元(1276年統一)は朱子学(新儒教)採用、
1351年紅巾の乱は白蓮教(ゾロアスター教系列)。
時代の節目には、何かと思想や宗教が出てくるものなんですね。

隋(589年統一)は鮮卑系王朝。
標準発音『切韻』をつくったり、
漢字を共通教養語として科挙に取り入れたり。
元が筆記用のパクパ文字を開発させたり(普及はせず)。
多民族・多言語国家の苦労が偲ばれます。

そう、多民族なんだよ。
漢民族って何…?

ちなみに現代中国では、少数民族「じゃない」人は
全員「漢族」らしいです。
(岡田先生は中国文化圏に参加する人々が「中国人」であると
表現している)

ちなみに岡田先生は女真族ではなく「女直族」と書く。
民族が多すぎて、別の人々かと思ってしまった笑

というか、女真族(後の満州族)はツングース系。
モンゴル系、トルコ系とは別人種。
むう、ごっちゃになってた。

モンゴル系:蒙古、オイラト、ケレイト
トルコ系:タタル部族、突厥
ツングース系:女真族(女直族)、満州族
じゃない系:漢族

ちょっとずつだけど解像度が上がってる?か?

『謎のアジア納豆 そして帰ってきた日本納豆』

2025-03-19 19:12:23 | 日記
『謎のアジア納豆 そして帰ってきた日本納豆』
高野秀行

納豆が好きで、
しょっちゅう食べている。
あまりにも身近すぎて、
「納豆の話しを今更読んでもな〜」
なんて思っていました。
すみません。

アジアの納豆である。
おもしろいわ…。

プロローグで掴みばっちりなのですが。
タイのチェンマイで食べた納豆スープ。
納豆を煎餅状に乾燥させ、杵で粉々にして
スープの味付けに使うらしい。

ん?
この話し、最近読んだよね。
なんと、西アフリカにある豆発酵調味料「ダダワ」と同じじゃないか。
アジアにもあるんかーい。

こういう読書の邂逅は最高ですね。

結論としては、アジア納豆は「辺境食」、と。
肉や魚が摂れるエリアはタンパク質が足りているので
大豆を積極的に摂取しなくていい。
調味料で言うならば、沿岸部は魚醤、
内陸牧畜エリアは乳製品、ついでにインドはカレーが
幅を利かせている。
というわけで辺境に住む「山の民」が食べる調味料が
アジア納豆である、と言えそう。

そんな納豆辺境エリアは西南シルクロード沿いに
分布しているそうです。
北ルートを探検した張騫が
「南ルートもある?のかな?」と言ってた
マニアックルート。

高野さんも驚いていましたが、
納豆菌ってそこらへんの葉っぱにいるらしい。
日本人だと「稲藁」にしかいないと思いがちですが、
イチジクの葉やシダの葉でも納豆がつくれることを
実証していました。
さすが行動の人。

北タイ族は納豆をフタバガキ科ショレア属の木の葉でつくる。
これは平家物語の沙羅双樹の仲間。
花の色は盛者必衰の理を表し、
葉は納豆を発酵させるそうです。
って、高野さん、ファクトもおもしろいけど
文章もめちゃくちゃおもしろいんだよなあ。
うらやましい。

ミャンマーの山奥に住むパオ族は、
頭にバスタオルみたいなでかい布を巻いていますが、
山岳民で風呂に入る習慣はない。とか。
説明やら例えやらがいちいちおもしろいのよ。

ブータンのネパール人迫害問題なんかは全然知らなかったな。
幸福の国じゃないじゃん。
ネパールの本も読まなくちゃ。

エピローグでは西アフリカの「ダワダワ」に言及しています。
「ダダワ」のことでしょうね。
アフリカ納豆編もあるらしいので、それも読まなくちゃ。
いそがしいですね笑

『地球行商人 味の素グリーンベレー』

2025-03-17 13:27:15 | 日記
『地球行商人 味の素グリーンベレー』
黒木亮

1960年代から2000年代くらいまでの
味の素の海外販路開拓ノンフィクション。

主な登場人物は
営業畑の宇治弘晃氏と、
海外向け商品開発の小林健一氏。

1960年から1990年にかけてのアジア市場開拓は
もうね、泥臭く汗臭く「行商」だなあ、と。
味の素なんてザ・世界ブランドのイメージだったので、
意外でした。

家庭で1日に使うくらいのサシェ(小袋)にして
市場の小売店に現金売り。
途上国のユーザーは「その日使う分」しか買えないから。
その小袋をカレンダー(4連くらいにつながってるやつ)
にしたものを、毎日、売り歩くのである。
大変じゃあ…。

宇治氏は30代でベトナム全国行脚して
海外営業キャリアスタート。
その後はインド、エジプト、ガーナへ。
どの国も、社会情勢や人柄がぜんぜん違う。
大変じゃあ…。

小林氏の商品開発エピソードはまたちょっと毛色が違う。
ペルーの粉末調味料やインスタント麺の改良は
その国の食文化を学ぶところから始まる。
具体的におもしろかったのは、
砂糖を抜いたら売れたという話し。
ペルーって料理にお砂糖をぜんぜん使わないらしいのです。
日本人開発者の舌の「おいしい」ではなく、
現地人の味覚にアジャストしないといけないんですね。
しかしまあ、それなりの期間を住み込んで
生活に溶け込まないとわからないよなあ。
大変な仕事じゃあ…。

小林氏はペルーでドニャグスタという粉末調味料をつくり、
インドではハピマというカレー味の調味料をつくり、
ナイジェリアではデリダワという豆発酵調味料をつくっている。
うまみ調味料職人!!

デリダワの元ネタは、西アフリカで昔から日常的に
使われている「ダダワ」という食品。
イナゴ豆を納豆っぽく発酵させ、煎餅型に乾燥させる。
料理に使う際は砕いて調味料っぽくつかう。
ナイジェリア・マリ・セネガルにかけてが
「納豆ベルト地帯」だそうです。
食べてみたい〜。

その国・その時代の情勢なんかも分かりやすくて
ありがたかった。
著者の取材によるのかな?
ベトナムは多民族国家だが大半は少数民族とか
(人口の85%は中国起源のキン族)。
エジプトのイスラム政権とISを取り巻く情勢とか。

小ネタですが、
ペルーの貧困層が多いエリアだと
住宅に税がかかるので屋根のない家が多い(未完成!)とか。
ナイジェリア南部の海岸沿いは大航海時代から西洋文化が
上陸しているからマギーブイヨンのシェアが大きいとか。

世界って広いし、味の素ってすごいな…。

『天路の旅人』沢木耕太郎

2025-03-14 13:52:19 | 日記
『天路の旅人』沢木耕太郎

Amazonの解説抜粋は以下。

第二次大戦末期、敵国の中国大陸の奥深くまで
「密偵」として潜入した若者・西川一三(にしかわかずみ)。
敗戦後もラマ僧に扮したまま、幾度も死線をさまよいながらも、
未知なる世界への歩みを止められなかった。


というわけで元祖秘境探検家のドキュメンタリーです。

西川一三は満州鉄道への就職で中国に渡り、
その後、大陸に対応した情報要員養成所の
興亜義塾に入塾。
吉田松陰の書に親しんでいたそうで、
ちょっと熱めの思想と愛国精神を持っていたようですが、
まだ見ぬ西北への憧れも相当に強かった人じゃないかと思います。

蒙古出身のラマ僧(チベット仏教)ロブサン・サンボー
として振る舞うために
各地の廟(僧が集団生活している寺みたいなところ)に
住み込むんですが、
そこでの修行や生活を楽しんでいる(無口だけど)様子。

「密偵」という単語よりは、
秘境探索請負人みたいなイメージだなあ。

印象はさておき、
内蒙古(第二次対戦中の日本の勢力範囲内)から
ゴビ砂漠を超えて寧夏に行くと、もう中国勢力圏内。
ラクダをひいてテントを張り、
ラクダの糞を燃料に湯を沸かして暖をとる旅。
大変そう。

ラマ僧仲間と移動したり、
時には隊商にラクダ引きとして雇われたりしながら
青海湖を抜け、シャンを抜け、ラサで終戦を知ります。
が、帰らない。
チベット行ったりネパール行ったりインドに入ったりした後、
仏陀にまつわる名所巡りをしています。
それ、「密偵」じゃないよなあ。

いや、それで良いと思いますが。

モンゴル・チベットの旅の必需品として磚茶(たんちゃ)という
茶葉をこっちこちに固めたものがあり、
砕いて煮込んでバター茶にして飲む描写がよく出ます。
温まるしカロリーも摂れるし、なによりおいしそう。
この磚茶の存在、『茶の世界史』で読んで全然ピンと来なかったですが、
旅を通じて読んだらめちゃくちゃ解像度が上がりました。

西川一三は日本に戻った後は国外に行くことなく
黙々と小さな商店で働いていたそうです。
同時期にモンゴルを旅した木村肥佐夫という
対照的な人物がいたこともあり、
なんだかしみじみする生き方である。
凄い人生を読んだ気持ちになる一冊。

あと、すごく平易な感想を書きますが、
「沢木耕太郎すごいわ」と思った。