思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『夜よ鼠たちのために』腹持ちの良い短編集

2021-02-26 15:57:51 | 日記
ミステリ界のレジェンド連城三紀彦の短編集。
『このミステリーがすごい!2014年版』の
「復刊希望!幻の名作ベストテン」にて1位を獲り、
見事に復刻された一冊だそうです。

9篇の短編ミステリが収録されているんですが、
とにかく密度が濃い!
文章もうまいし、プロットも凝っているし、
読み応え特盛りです。
ひとつの短編でお腹いっぱいです。
レジェンド、気前良すぎ!!

退職した若手刑事から先輩への手紙
(という形式は『戻り川心中』でもあったような)で
誘拐事件を振り返る『過去からの手紙』と、
ハードボイルド風な探偵が金持ち夫婦いいいように
翻弄される『奇妙な依頼』が好きです。

あとは、なんとなくこいつ怪しいなあ〜ってのは
分かるのだけど、トリックはまったく予想つかなかった
『二つの顔』も楽しかったです。

どれもこれも奇抜なトリックと、
最後のどんでん返しで全回収するダイナミックさが
見事と言うしかないんですが、
それよりも濃密な文章が腹持ちいいなあ〜って感心します。

短編なのに、一作を読み終えるとちょっと疲れるというか笑
密度が凄い。

あと、小姑みたいなメモですが、
宝島社の復刻版、194ページに脱字があった。
(こういうの見つけるとうれしいタイプです)
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東山彰良『僕が殺した人と僕を殺した人』

2021-02-19 12:27:43 | 日記
直木賞受賞作でもある『流』がすごくおもしろくて
注目していた東山彰良氏。
次は何を読もうかなあと思っていたのですが、
ブクログやアマゾンで評価が高めだったので
『僕が殺した人と僕を殺した人』を手に取りました。

タイトルだけだと、東野圭吾の作品にありそうですね。
そういう王道本格ミステリではないです。
素晴らしい東山ワールドでした。

冒頭、いきなりアメリカで連続殺人犯逮捕。
その犯人サックマンの過去とは、という導入から始まる、
1984年の夏、台湾、13歳の少年3人の物語。

もう、いきなり凄い引きである。
アメリカのロードサイドのピザショップから
突然の80年代台湾である。
ちょっと待っておいてかないで!
って感じでぐいぐい読んでしまった。

舞台となるのは『流』の9年後の台湾でもあるので、
共通の登場人物や聴き慣れた(読み慣れた)地名も出ます。
李爺爺(りじいさん)と郭爺爺(グオじいさん)、
廣州街、阿九(あじょう)の果物トラック、
胖子(パンズ)のファイヤーバード。
東山ファンはにやつくところではなかろうか。
(私はまだ二作目だけどファイヤーバードはうれしかった)

1984年ということで、オーウェル『1984』の話題もちょっと出る。
アガンの牛肉麺屋の名前が英語だとビッグブラザーになるのは
気が利いていて好きです。

不穏ではあるけれど、13歳なりの喧嘩や遊びや家庭問題に
向き合っている姿から目が離せず、
青春小説みたいに読み進めていたところで、
後半への転換点が来る。

え?あれ?そうなの?と思ってまた引き込まれます。
そうだった、サックマンの過去だった、
そして現在に至るのだった、いやちょっと待っておいてかないで!

結局、一気読みですよ。
おもしろかった!
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中村文則『去年の冬、きみと別れ』

2021-02-16 11:21:22 | 日記
中村文則作品、何か読もうかな〜何を読もうかな〜と
ふんわりしたテンションで探していたのですが、
詩的なタイトルが頭に残っていたので読んでみました。
『去年の冬、きみと別れ』

女性ふたりを殺害した死刑囚、それを取材するライター、
犯人の姉、謎の人形師、
拘置所からの手紙、資料という名の章。

なんだか不思議な登場人物と、
不思議な語りが重なって話を紡いでいく。

ミステリっぽい評価も得ているようだけれど、
やっぱり中村文則文学だなと思います。

多くないページ数だし文章もうまいのでするんっと読める。
とはいえ、ちょっとドロっとした湿度高めの印象。
『掏摸』の乾燥したトーンの方が好きかなあ。

次は何を読もうかな〜。
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【読書メモ】2014年10月 ④ 当月のトップツー

2021-02-15 10:42:27 | 【読書メモ】2014年
<読書メモ 2014年10月 ④>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。
なんの気まぐれか、星をつけていますが、
来月には飽きる予定です。


『村上海賊の娘』和田竜
☆☆☆☆
おもしろい。
おもしろいのだけど、
この人はこういうエンタメ作品の人なのかなとも思う。
映画原案者になるか、作家としての立ち位置を確保するか、
そろそろ岐路に立つころではないかと。
あと、人の思考についての説明が多いように思う。
キャラクターへの愛が大きくて、
すべての人物の「考え方」の正当性を描きたいのかな。

(もともと脚本家志望の方なんですよね。
 2013年の今作以降、小説は出ていないみたい。
 なんだかんだで読んで楽しいから、新作待ってます)


『光圀伝』冲方丁
☆☆☆☆☆
自分に忠実に生き抜いた男の一生は面白いなあ。
和田竜の対極にあるイメージ。
光圀公はかっこいい。
『天地明察』の人物造詣とぶれてないのだけど、
前作書いているうちから光圀の話を書こうとしていたのかな。

(水戸黄門でおなじみすぎて旅するおじいちゃんのイメージしかない
 水戸藩主・徳川光圀公の一生を描いた小説です。
 光圀が若い頃は傾奇者だったこととか、
 『大日本史』の編纂に尽力したこととか、
 全く知らなかった。
 新鮮な驚きと学びがあって、とにかくおもしろかったです。
 冲方丁の時代小説出世作でもある『天地明察』と時代が重なっているので
 共通の登場人物もちょこちょこっと出てきますね。
 ちなみに単行本は0.7キョーゴクの重量。
 (1キョーゴク=1000ページという、私的単位です)
 単行本で読んだので腕がぷるぷるしましたが、
 長すぎるとは全然思わなかった。おもしろかった!)
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深緑野分『ベルリンは晴れているか』

2021-02-14 11:55:10 | 日記
深緑野分は『戦場のコックたち』がすごく良かったので
注目していたのでした。
ようやく読めた!

前作はアメリカの若者が主人公で、
合衆国兵士として終戦間際のヨーロッパ戦線が舞台。

今作『ベルリンは晴れているか』は、
敗戦直後のベルリン。
主人公は、ナチス政権下に共産党民の父のもとで育った
17歳の少女アウグステ。

ベルリンは、ソヴィエト赤軍・アメリカ軍・イギリス軍が
それぞれ占領地域を分割して常駐している状況下。
ドイツ政府というものは存在しないなかで
ベルリン市民としては毎日が不透明というか頼りないというか、
なかなか明日が見えない状況だったと思います。

帯には「歴史ミステリー」とか書いてあるけれど、
ミステリーとしてよりも、
その歴史的状況下でのベルリン市民の暮らしが読みどころかと。

さくさく読めるストーリーでも描写でもないのだけれど
歴史的ファクトは凄くよく書き込まれていて、
読み応えがある一冊とも言える。
ものすごくたくさん取材して時間をかけて書いたのだろうと思います。

このミスで1位になるミステリかというと、そういうことじゃないし、
本屋大賞で1位になるようなエンタメかというと、
そういうことでもない。
一言で表しにくい魅力をたくさん持っているので、
これぞという賞はとっていないものの、
各所で話題にせずにはいられない作品なのかもしれません。
個人的には運営スタッフのクセが強そうな
Twitter文学賞を受賞しているところを評価したい笑

とはいえ、
ストーリー部分の進行や会話は
もっとレベル上げできるんじゃないかとは思ってしまった。
これからにさらに期待。

参考文献に佐藤亜紀『スウィングしなけりゃ意味がない』と
皆川博子『双頭のバビロン』があがっていたのは、
私的に100万点です。
とはいえ皆川博子作品で挙げるなら『死の泉』じゃないかな。
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