思惟石

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【読書メモ】2015年11月 ③ 『ZOKU』森博嗣

2021-12-16 18:42:10 | 【読書メモ】2015年
<読書メモ 2015年11月 ③>
カッコ内は、2021年現在の補足コメントです。


『ZOKU』森博嗣
すごく久しぶりの森博嗣(2010年のスカイクロラ以来だった)。
文学的教養がある文章の上手い作家が
本気でふざけた物語を書いている可笑しみがある。
京極の「どすこい」とか奥泉の「クワコー」みたいな
(後者はいまいち好きじゃないけど)。
私は、ののちゃんよりロミ品川だな。
だいぶ年増扱いされてたけど。

(ヘンテコな悪の組織「ZOKU」と、
 ヘナチョコな正義の組織「TAI」の闘いを描く
 連作短編集です。
 なんだそれ笑

 『スカイクロラ』から間をおかずに『ZOKU』を読んだとしたら
 高低差で耳がキーンってやつになりますね。

 「ZOKU」は”犯罪未満の壮大な悪戯を目的とする”非営利団体。
 非営利なのかよ笑

 京極氏や奥泉氏の「書いてる自分が楽しい」系作品も連想するけれど、
 何よりも、吉田戦車『サマータンク』が思い出されるな。
 「暑いの嫌いだからすべての季節を冬にしたい」悪の組織みたいな笑
 『ちくちくウニウニ』では甘党の悪党が海に砂糖入れてましたよね。
 悪の組織って、意外と地味なことやってるし、
 やることが「金持ちの道楽」っぽいんだよなあいいなあうらやましいです!!
 私も不労所得でZOKUみたいな組織のボスになりたいです!!)
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『マカン・マラン』働くって何だろね。

2021-12-15 17:47:39 | 日記
コロナでリモート勤務になって以来、
良いことも多々あるんですが(2時間の通勤時間が
無くなったのは大きい!やっほう!!)、
よろしくないこともあり。

なんつうか、仕事へのモチベーションを維持するのが
結構大変というか。
企画書を「こんなもんかな」という平均レベルで納めてしまうとか
リモート会議での議論へのコミット感が薄いとか。

日々の雑談や社内の様子(誰がどんな仕事してるかとか、気になるし、
負けるもんかってなるじゃないですか)は、面倒くさい面もあるけれど、
仕事で走り続けるためのガソリンでもあるよなあ。

と、そんなことを思い悩む今日この頃。

『マカン・マラン』という小説を読んだ次第です。

仕事に疲れた人々が不思議な隠れ家カフェで癒される系のやつ。
(余談ですけど、ここ数年、こういうフォーマット多くない?)

カフェの主人はドラァグクイーンの40代シャール姐さん。
4つの章の癒され人は、大手広告代理店独身40代女性、メタボな中学教師、
下請けライターの20代女性、元ヤン女装家のジャダと地上げ屋男性。

それぞれが、夜食カフェ「マカン・マラン」をきっかけに、
人生を立ち止まってみたり何か考えてみたり。
はい、とっても良い話しですね〜!

と言いつつ、良くなかった。
代理店の女性も、ライターの子も、なんというか
自分の仕事になんの肯定感も持てていなくて。
彼女達を通して描かれる職場の人間模様も尽く「働く喜び」が無いんです。
会社に勤めるって、そんなに救いのないことですかい…。
なんてこった…。
ライター女子は、大手企業の女性社員が「良い服」を着ているだけで、
自分には価値がないようなヒガミ方をしていて、なんか悲しい。

彼女たちは心がぽっきり行く、ちょうどその時だったとしか思えない。
カフェは関係ないというか、まあ、きっかけというか。

漢方系の料理はおいしそうだし、季節や夜空の描写も悪くなかったけれど、
とにかく「職場」というものへの忌避感をすごく感じた。
作者は何か辛い職場にいたんだろうか。
それとも、私の心もぽっきり行く手前なのだろうか。

おいおい、どうすりゃいいんだよ…。
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『彼方の友へ』すごく良いお仕事小説&成長物語

2021-12-14 11:40:47 | 日記
『彼方の友へ』伊吹有喜

昭和の少女雑誌『乙女の友』の編集部を中心に、
開戦から終戦までの数年間を描く。

基本は主人公・ハツちゃんの成長物語。

開戦に向けての世の中の不穏な空気や
終戦前の不安な暮らしが良く描かれているのだけれど、
それと対照的とも言っていいくらい、
ハツちゃんの成長と、周囲の人々が良い。

良き師匠である有賀主筆も良いし、
理想主義だけど応援したくなる(というか心配になる)
画家の純司先生も良い。
なによりも、貧乏小使いとしてあとからやってきたハツちゃんを
素直に受け入れるお嬢さんの史絵里ちゃんがすごく良い。

解説にもあったのだけど、普通の小説だと嫉妬したり嫌がらせしたり、
つまんない展開にしがちじゃないですか。
育ちも頭も良い史絵里嬢はそんなことはしないんだよ凄く良い。

ところで、本のタイトルから、勝手に別れ離れになった友情エピソードが
メインなのかな?と思っていたけれど、
そんな浅いタイトルではなかった。良いですね!

さらにどうでも良い話しですが、
大正ロマンっぽい話し言葉がすごく好きです
(呼びかけが「君」とか、「〜したまえよ」「〜いたしません」みたいな語尾、
良いよね)!

大和之興業社『乙女の友』のモデルは、実業之日本社『少女の友』。
実際に紙製のこだわりが詰まった付録があったり、
新進気鋭の文筆家を採用したり、愛読者の会があったりしたようです。
石川啄木が寄稿していたのには、複雑な顔になってしまった笑。

第158回直木賞候補作ですが、
私的には受賞ですおめでとうございます!!
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『アエネーイス』補足

2021-12-10 15:31:52 | 日記
『アエネーイス』の旅程



水色がトロイア戦争後にアエネーアスが放浪した
旅程です。

カルタゴって、もっとエジプトの方かと思ってました…。

元々、トロイア人はギリシャ系ですが、
放浪の末にラテン人(ラウィーニア達)が住むイタリアで
落ち着きました。
で、後のローマの礎を築いたと言われています。

という伝説を詩人ウェルギリウスにまとめさせたのが、
古代ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスです。
だからラテン語で書かれてるんですね〜なるほど。

『ラウィーニア』でも、毎度おなじみな神々の名前や
地名・登場人物はラテン語系の読み方で記載されています。

アエネーアスの母は愛と美の女神ウェヌスですが、
これ、ギリシャ語読みだとヴィーナス。
ローマ神話の主神でもあるユピテルは
ギリシャ神話のゼウスと同一視されている存在。
ローマ神話で最高位の女神ユーノはギリシャ神話のヘラ。
うん、ぜんぜん覚えられない笑

ここ数年で、塩野七生を読んだり
オスマン帝国の歴史を学んだりしてますが
歴史っておもしろいですよねえ。
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『ラウィーニア』星5つ!

2021-12-09 16:56:16 | 日記
『ラウィーニア』
アーシュラ・K・ル=グウィン
谷垣暁美:訳

詩人ウェルギリウスの『アエネーイス』を、
登場人物の一人であるラウィーニア視点で紡ぎ直した作品。

『ゲド戦記』でも有名なル=グウィンの最後の長編小説です。
(2008年刊行)



原典でもある『アエネーイス』は、
ラテン語教養の必須科目。
要するに、『アエネーイス』の内容は、
長い歴史に於いて教養人と呼ばれる人たちの
共通認識だったということです。

現代では「必須感」は薄れていますが、
ナントカ神話とかナントカ文庫とかゲームやファンタジー作品なんかで
よく見かける内容が多々。
トロイア戦争とか、カルタゴ女王ディードとか、地獄巡りとか、
人間を振り回す神々ウェヌス(ヴィーナス)やユピテル(ゼウス)やら、
古代ローマの礎になるであろう都市や王の物語とか。

で、この作品の主人公は、古代イタリア・ラティウムの王女ラウィーニア。
『アエネーイス』では、ラティウム王の資格を得るためだけに存在する
「ザ・トロフィーガール」のラウィーニアに
人格と思考を与えた物語でもある。
その視座の変え方だけでも、めちゃおもしろい。

ラウィーニアはこの作中で、『アエネーイス』作者である
ウェルギリウスの霊と時空を超えて会話するんだけど
(って突然言われて着いてこれる人はどれだけいるだろうか笑、
でも文字通りなんだよ)、
「男が勝手に戦争する」という本質的な感想をずばり言う。
誠に現代的な感覚の人間像である。
これはル=グウィン好みの性格だと思うけれど
古代ラテン系(ラウィーニアたちイタリア系の人々)と
ギリシャ系(アエネーアスたちトロイア人も含む、異国人たち)の
文化の違いとも語られている。そうかもしれない。

歴史としての整合性がどの程度かはわからないけれど、
読んでいるこちらとしては共感しやすいし、おもしろい。

ちなみにラウィーニアは紀元前1700年〜1200年のどこか。
『アエネーイス』を書いた悪斬りウスは紀元前1世紀の人。
ル=グウィンの『ラウィーニア』が2008年です。
(作中の小ネタで出てくる『神曲』は13世紀ですね。
 作中の詩人は、時を超えたネタをぶっこみまくる)
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