高橋秀実さんの『からくり民主主義』(草思社)の第4章「みんなのエコロジー」で諫早湾干拓問題について読んだ時、初めて地図で諫早湾とそれに続く有明海の立地条件の複雑さを認識した。長崎県の森山町の農民、佐賀県、福岡県、熊本県の有明海でノリ養殖に携わる漁民、行政担当者の生の声を拾いながらの取材で、この問題の複雑さに読んでいて頭の中がこんがらがった。複数の利害の対立で身動きとれないのだということだけはわかった。反対派、賛成派の環境を盾にとっての主張は水掛け論になってしまう。構想から50年以上、農民と漁民が車のアクセルとブレーキのようになり推進と休止を繰り返して来た。その矛盾の極みが今回の「国の制裁金義務確定」となったのではないか。
開聞しても、しなくても制裁金を科せられるというまさに現代版の『矛盾』である。もつれた糸を解きほぐす糸口になればと願う。高橋さんの目で、もう一度、今の現地を取材してくれないかなとも思う。

