雪月花 季節を感じて

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文様印(15) 流れ菊

2008年10月03日 | 和楽印 めだか工房
 
 十月七日は旧暦の九月九日、重陽の節会(せちえ)を迎えます。新暦の九月九日は「救急の日」としてすっかり定着していますから、旧暦で菊の節句におもいをはせましょう。

 菊花は、長寿と若返りの象徴として季節を問わず用いられる意匠です。菊水、菊慈童、着せ綿など物語として伝えられたり、水、露、酒と結びついて、神秘的な力をもつものとして古くから尊ばれてきました。「菊水」の家紋や皇室の紋章である十六花弁の菊文は、みなさまも目にしたことがあるでしょう。流水に菊をあしらった「流れ菊」は、時のうつろいをも表現した情緒的な文様です。


菊水紋

 「流れ菊」のカレンダーは こちら です。


 源氏物語展を開催中の横浜美術館にて、源氏研究家で歌人の尾崎左永子先生の講演を聴いてまいりました。テーマは「王朝びとの恋」。『源氏物語』においても、菊花が重要な役割を果たしていることを教えていただきました。

深き秋のあはれまさりゆく風の音、身にしみけるかなと、ならはぬ御ひとり寝に明かしかねたまへる朝ぼらけの霧りわたりけるに、菊のけしきばめたる枝に、濃き青鈍の紙なる文つけて、さし置きて去にけり。今めかしうもとて、見たまへば、御息所の御手なり。
「聞こえぬほどは、おぼし知るらむや。

 人の世をあはれときくも露けきにおくるる袖を思ひこそやれ

ただ今の空に思ひたまへあまりてなむ。」とあり。

(『源氏物語』 「葵」 より)

菊のけしきばめたる(枝に)‥」というのは、白菊がしおれて紫色に変わりつつある状態をいうそうで、そんな菊のひと枝に添えた六条御息所の文にある歌にも、「あはれときく(聞く、の意に「菊」をかけている)も露けきに‥」とあり、露にうつろう菊花が詠みこまれています。

 『源氏物語』は、花も人のこころも、そのうつろいをもっとも大事にした物語なのですね。


 時折主人がとらやさんで生菓子を買ってきてくれます。うす紅色の菊の花弁がみごとなこのお菓子、銘を聞くのを忘れてしまったそうです。おめでたい気分をこめて「菊寿」としました ^^

 重陽は秋の収穫の時期にあたるため、「栗の節句」ともいわれます。とらやさんでは、この菊のお菓子といっしょに「栗鹿の子」も販売しています。