雪月花 季節を感じて

2005年~2019年
2019年~Instagramへ移行しました 

春愁

2010年03月19日 | 季節を感じて ‥一期一会
 
 墓参をかねて主人の里へ帰省するため、今日はぼたもち(牡丹餅)づくり。できのよいふたつを選び、友人が分けてくれた春のお花といっしょに神棚にお供えしました。異動や卒業など、周囲はお別れの多い季節をむかえているけれど、わが家はしずかな春です。


 お彼岸入りの日、般若心経の掛け物を拝見してお茶を二服いただき、貝母百合の咲く竹林の庵で語らいました。ふと、ご亭主がぽつりと「‥さみしいですね」とおっしゃったとき、数十億年前から地球上の森羅万象が永々とつづいてきた営みや繰り返し、先人が苦労をして大事にしてきたことどもを、安易に止めてしまってはいけないのだ、この世にあるかぎり、それらをつづけ、つなげてゆく義務を負っているのだろう、という重たいおもいが、落ちてきました。

 さまざまなつながりや流れを切って生きていることを省みるきっかけというのは、いつも不意にやってきて、この季節特有のアンニュイな気分をもたらしました。
 

八丈の絹

2010年03月15日 | きもの日和
 
 大島への旅の記念品のひとつ、“糸巻き”の根付けです。セブンアイランド(伊豆七島)の特産品を販売するお店で見つけたもの。糸巻きの中にちいさな鈴が入っていて、ゆらすとちりりん‥ と鳴ります。


 糸巻きに巻かれた布は、かつて「八丈の絹」と呼ばれた黄八丈です。セブンアイランドのひとつ、八丈島は、むかしは沖島といいました。そこで織られていた「八丈の絹」が日本全国に広まり、いつしか島の名となったのです。八丈島の産するコブナ草(黄色)・タブの木の生皮(樺色)・シイの木の皮(黒色)で染めた糸で織るつややかな黄八丈は、江戸後期に爆発的な人気となり、町中の裕福な商人の娘たちが黒衿をかけて競って着たのだとか。NHKの大河ドラマ「龍馬伝」では、龍馬の修行先であった江戸の千葉道場の鬼小町・おさな(貫地谷しほりさん)が、鮮やかな黄に格子の黄八丈を着てたびたび登場します。


 糸巻きに巻かれているのは、昨年十二月に他界された 山下八百子さん(やましたやおこ、東京都無形文化財技術保持者) による黄八丈です。山下さんは、染織の師でもあったお母さまの名を付けた「め由工房」で、江戸期から幕府貢納布として山下家が織り継いできた黄八丈の技法を忠実に守りつつ、90歳まで織りつづけました。

 おりとのをはき清め
 しめひきわたして、
 みつきものゝはたおる。
 うやまひ、つゝしむ事、
 いとまめやかなり

 (根付けに添付されていたしおりから引用)

 手のひらにのるちいさな糸巻きにも、山下さんの黄八丈への深いおもいと祈りがこもっています。


 ご冥福をお祈りいたします。
 

椿の島

2010年03月08日 | 季節を感じて ‥一期一会
 
 東京湾からジェット船で南へおよそ120km、母といっしょに(伊豆)大島の椿まつりへ出かけました。

 「大島」と言うものの、島一周道路を車でひとめぐりしても二時間足らずのちいさな島です。雨上がりの道路をゆけば、まるで紅色の雨の降ったごとく、つらつら咲きのやぶ椿の落花でいっぱい。まさに“椿ロード”です。日曜日の昼下がり、前方も後方も車は無し、島を終日借り切ったような静けさ。レンタカーに乗りこんだ母とわたしは、時速30km/hの速度でゆるゆると旅しました。椿のトンネルを入ったり出たりの繰り返し、ところどころ、すでに花の盛りをすぎつつある大島桜が、さわやかな緑葉を見せながら明るさを添えていました。


大島公園内にある椿園は、およそ450種、8,700本の椿を管理しています。係の方が、毎日園内の落椿をていねいに集め資料室にも飾っています。母は愛媛出身ですが、愛媛の霊峰・石鎚山(いしづちやま)にちなんだ「石鎚」という名の特大(!)の紅椿を見つけ、大喜び。もちろん、そこで記念撮影をしました。

園内の石碑にあった句です。

受けとめる大地のありて椿落つ

毎春大地にこぼれる数えきれないほどの椿が、やがて土に還り、大島そのものを形成しているのではないかしら‥ とおもえます。大島は、まさに椿の島。



 島の中央にそびえ、いまも活動をつづける三原山を、島の人たちは畏怖の念をこめて「御神火(ごじんか)さま」と呼びます。山頂口から火口まで徒歩で一時間足らずの山ですが、24年前の噴火の爪あとはいまも生々しく残っており、山すそから海まで島全体をつつむように咲き乱れる紅椿の群落は、荒らぶる山の神の鎮守の森なのでしょう。椿まつりの期間中、島の人たちは毎夜「御神火太鼓」を打ち鳴らし、あんこさん(島の女性たち)がしっとりと舞を奉納して、わたしたち観光客の旅の無事を祈ってくださるのです。

 温泉につかり、鮮魚と加工魚、島の野菜、乳製品、豆腐、椿油をつかった料理などなど、きびしくもゆたかな島の大自然のもたらす幸を、たくさんいただきました。心身ともに、ひと足早い春を満喫してまいりました ^^

運転中に見つけた洋菓子店「シャロン」の「大島桜かすてら」。春の香がふんわり、大島桜の葉をたっぷり入れた焼菓子です ^^(ご存知とおもいますが、桜餅をつつむ桜の塩蔵葉は大島桜の葉なんですよ)「あしたばかすてら」やプリンも買いたかったな~。


 母が「大島の椿、大島の椿。」と言うのを聞いて、ようやく気づいたのです‥ わたしの椿好きは、母ゆずりだったのだと。数日間留守しただけなのに、出立の日は満開だった自宅そばの梅林が散りそめていました。


 3月10日は、桜と椿の花道家・安達瞳子さんの命日です。
 

紙雛

2010年03月03日 | 筆すさび ‥俳画
 
 二月の画題は毎年「おひなさま」です。
 今年は紙雛。赤紫、朱、臙脂、黄、黄土、黄草、青草、金、墨‥ たくさんの色をすこしずつ使って、みやびで愛らしいおひなさまになりました ^^


 先日、あるお宅の床の間に飾られていたおひなさまとお道具の数々を拝見したとたん、はっとして息をのみました。わたしのおひなさまとまったく同じではありませんか。実家に置きざりのわたしのおひなさまたちが「取りに来て、おうちに飾って。もう暗い納戸の中はいや‥」と、無言で語りかけてきたようにおもえて、しばらくその場を離れられませんでした。