梅雨のはしりのような空模様のつづく東京です。散歩の道に、蛍袋、金糸梅、鉄砲百合が咲き、紫陽花はすこしずつ色づいて大きくなっています。でも、降雨量がすくないので水不足が心配ですね。雨の季節に、全国の水瓶が十分に水をたくわえてくれるとよいのですけど。
「君影草(きみかげそう)」と聞いて、何の花だか分かりますか? そう、初夏に咲く鈴蘭のことですね。信州の高原や北海道に自生しますが、鑑賞用としてお花屋さんの店先にも並びます。蘭といってもラン科でなくユリ科の植物で、英語では「谷間の姫百合」、フランスは「聖母マリアの涙」、ドイツは「五月の小さな鐘」の美称で呼ばれ、世界中の人々から愛されている花なのに、なんと毒草なのだとか。先々週まで、住まいのそばの花壇で鈴蘭がたくさん花をつけていたのですけれども、暑い日がつづいたせいか、いまではすっかりドライフラワーの様相になっていて、なんだかかわいそう。美しき五月の栞として、俳画にしておきました。
「君影草」という呼称は、山下景子さんの『美人の日本語』という本で知りました。それにつづく『美人のいろは』ともにこのブログでご紹介してまいりましたが、第三弾の『花の日本語』が今年の三月に出版されています。(三冊とも幻冬舎から ※) この本には、身近な花の和名がたくさん紹介されていて、花にまつわるエピソードや物語、花を詠みこんだ詩文が添えられています。でも、花の和名の異称って、案外知られていないのではないでしょうか。
たとえば、次は何の草花だかお分かりになりますか?
花一華(はないちげ)
懐草(なつかしぐさ)
三味線草(しゃみせんぐさ)
玉章(たまずさ)
山下草(やましたぐさ)
有実(ありのみ)
夏雪草(なつゆきそう)
上から、アネモネ、撫子、なずな、からすうり、荻、梨、卯の花(空木)です。撫子は、「撫でいつくしむ子どものようにかわいい花」の意味で、異称の「懐草」の「懐かしい」も、「なつく(こころ惹かれ、馴れ親しみたい気持ち)」が変化した語だそうですから、和歌では目に入れても痛くないほど愛する人にたとえられました。梨は「無し」に通じるのを嫌って「有実」と呼んだそうですが、ずいぶん慎重な言葉使いですよね。そして、春に舞う雪が桜なら、夏に降る雪は卯の花です。
撫子が花見るごとに少女(をとめ)らが笑まひのにほひ思ほゆるかも
(『万葉集』 大伴家持)
をきかへし露ばかりなる梨なれど千代ありのみと人はいふなり
(『相模集』)
卯の花のよそめなりけり山里の垣根ばかりに降れる白雪
(『千載和歌集』 賀茂政平)
美しい和名にこめられた先人たちの思いが伝わってくるようです。
いまベストセラーになっている『女性の品格』(坂東真理子著、PHP研究所刊)という本に、品格ある女性の条件のひとつとして「花の名まえを知っている」が挙げられていますけれども、一般に知られている花名だけでなく、和名の異称とその由来まで知っていると、さらにワンランク上の女性になれそうです。 ‥あ、女性だけでなく、男性のみなさまも『花の日本語』をぜひどうぞ。あなたのご家族やたいせつな人に「この花の別名はね‥」なんて、ちょっと花物語をすれば、一目置かれますよ、きっと ^^
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一筆箋
※ さくら書房 で山下景子さんの『花の日本語』・『美人の日本語』・『美人のいろは』を
紹介しています。