雪月花 季節を感じて

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水をめぐる旅

2012年12月15日 | 本の森
 
 十月初旬に三泊四日で主人と伊勢神宮~琵琶湖半周の旅をしました。全日おだやかな晴天にめぐまれ、ゆく先々で無数の神さま仏さまを拝ませていただきました。ほんとうに有難いことでした。

 旅の直前まで読んでいたのは白洲正子さんの紀行文でしたが、旅のあと手にしたのは、竹西寛子さんの『五十鈴川の鴨』と清野恵里子さんの『樋口可南子のいいものを、すこし。その2』の二冊です。


 『五十鈴川の鴨』の舞台は、伊勢神宮境内をうるおす清流、五十鈴川。淡い仲だけれども確かな信頼関係のある壮年期の男性ふたりが、ふとしたきっかけで足を踏み入れた神域の川のほとりのできごとが、のちに忘れがたい一場面となって描かれます。
 五十鈴川のさらさらと流れる水とこの物語から想起するのは、『方丈記』の冒頭「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとゞまりたるためしなし。世中にある人と栖(すみか)と、又かくのごとし」と、わたしの好きな荘子のことば「君子の交わりは淡きこと水のごとし」です。『五十鈴川の鴨』は、誰もが日々積み重ねている人と人との淡くはかない交わりに光をあてると同時に、放射能という得体のしれない恐怖に不幸にもさらされてしまったこの国の未来をも映し出します。


中古からの歌枕・五十鈴川

 淀みしもまた立ちかへる五十鈴川ながれの末は神のまにまに
 (『風雅集』 光厳院)


 『樋口可南子のいいものを、すこし。その2』は発刊直後にぐうぜん書店で見つけ、開いてみると「湖西、湖北の、水をめぐる物語」と題した項から、わたしたちとまったく同じルートと目的で、著者の清野さんと可南子さんが琵琶湖を旅していたことを知りました。わたしがこの旅でもっともお会いしたかった石道寺(木之本町)の十一面観音さま(国宝)のみずみずしい慈顔にも再会でき、わたしをふたたび静謐な湖北の観音路へと連れもどしてくれた本です。


 水をめぐる旅はこれからもつづきそうです。


奥琵琶湖・海津大崎にて