雪月花 季節を感じて

2005年~2019年
2019年~Instagramへ移行しました 

ゆっくりと

2010年12月29日 | たまゆら ‥日々是好日(随筆)
 
 漆工芸家の手塚俊明さんから個展来場へのお礼状が届きました。年の瀬に舞いこんだ言の葉に、ふとこころが和みました。

 ‥何事においても結論を急ぐ今の時代、じっくり使い込んでからその本当の良さが表れる漆器は、とても生きにくい時代です。あれもこれも、もっとゆっくり、もっとじっくり‥と思う毎日です。‥

 生きにくいのは漆器だけではないことを、手塚さんは伝えているのでしょう。


 スピーディで画一化された世の中で、あふれる情報を適当にコントロールしたり利用しながら、充実したくらしを送っている。そうおもっていても、じつはその環境や情報にふりまわされていることに気づいていないかもしれません。
 ほんとうにたいせつなものは、くらしの速度をゆるめ、あらゆる情報をシャットダウンしたときにこそ見えてくるはず。にもかかわらず、やはり乗り遅れたら不安になるし、情報を逃してソンをした!とおもってしまうのですよね。

 来年は卯年。だけど、カメさんで生きてゆきたいなぁとおもいます。


 本年もお世話になりました。
 よいお年をお迎えください。
 

メリークリスマス

2010年12月24日 | 季節を感じて ‥一期一会
 

アジアの布(一) インドサリー

2010年12月18日 | きもの日和
 
 気軽に装うときのうそつき襦袢は、色や柄で遊びます。藍の館山唐棧と、泥染めの大島に合わせたのは、インドのサリーの布。この布合わせ、アジアの布がお好きな方ならピンとくるでしょう ^^

 唐棧はインドのサントメ地方より渡来した縞織りの綿布ですから、インドサリーと同郷ですし、大島とサリーは、どちらも南の島に育まれた植物の色で染められた布どうし。相性がよいのは当然かもしれません。インドサリーを合わせますと、きものより襦袢のほうをほめていただきます。

 いつでしたか、大好きな清野恵里子さん(文筆家)が、秋名バラ柄の泥大島に赤茶の柄のインドサリーで仕立てた帯をコーディネートされていました。その記事はコピーして、たいせつにしています。
 

閑かなうつわ

2010年12月13日 | くらしの和
 
 漆工芸家の手塚俊明さんの作品展へ出かけました。

 初夏にはじめて工房を訪ねたときから気になっていた無地のお椀です。「木取り」「荒挽き」「仕上げ挽き」といった木地づくりから、漆を塗り重ねて仕上げるまでの、すべての工程を手塚さんはおひとりでなさいます。

 手塚さんは、漆工芸家で東京芸術大学名誉教授の磯矢阿伎良氏(1904~1987)に師事、現在はパートナーで同じく漆工芸家の戸枝恭子さんとともに創作活動をつづけています。奥多摩の美しい渓谷を望む工房は、ラジオやテレビなどのメディアを一切遮断した環境。ゆたかな緑につつまれ、そこに生息する動物たちの息づかいが聞こえます。

 閑寂なくらしと、作家ご自身の朴訥なお人柄が、そのまま凝り固まってお椀のかたちになったような、しずかなたたずまい。光と親和する色。まるいフォルム。あたたかな手ざわり。使いこむほどにより深く豊かな表情へと変化するという豊穣な時の経過を、これからゆっくりと味わいます。
 

おもいでの味

2010年12月09日 | 小魚庵だより ‥日々の拾遺
 
 出張先のウィーン空港から、「おみやげを買ったよ。なつかしいもの。」と主人から電話がありました。「‥なつかしいもの?」って何かな、と楽しみにしていましたら、ウィーンのインペリアルホテル製のトルテでした。

 四年前のモーツァルト生誕250年の年、主人とオーストリア(ザルツブルクとウィーン)を旅しました。ウィーンのデメル本店でいただいたザッハトルテも、おみやげに持ち帰ったインペリアルトルテも、いまではなつかしいおもいでの味です。

 アーモンドベースのマジパンとビターチョコレートの層の天辺にハプスブルク家の紋章。洋酒のきいた、ざっくりとしたお味です。日本製の洋菓子のように繊細ではないけれど、大味でもなく、複雑で深い味わいです。

 雪景色のウィーン空港からチェコのブルノの街へ入ると、折しもクリスマスのフェスティバル中だったとか。まるでおとぎ話のような美しい街のようすに感動したようです。

主人の出張先から美しいチェコの写真集をいただきました。石造りの街並にクリスマス・イルミネーションが映えます。ブルノは首都プラハに次ぐ第二の都市。機会があれば、ボヘミアやモラヴィア地方の文化にたっぷり触れてみたいな。

 

柚子ジャムづくり

2010年12月03日 | 季節の膳 ‥旬をいただく
 
 小春日和の昼下がり、主人の実家の庭から収穫した1キロの柚子を炊きました。もちろん完全無農薬‥いえいえ、毎年実のなるまま、ほったらかしの柚子です。

 1キロ分の柚子をしぼり、皮を千切りするのはひと苦労。でも、大鍋にたっぷりの柚子ジャムを炊く間は、その色も香もごちそうです。

レモンイエローの皮(左の写真)が、煮るうちにだんだんときれいな飴色に(右)なってゆきます。柚子の香に充たされて‥また冬が来たんだな、今年も終わりだな‥とおもうひとときです。

 ふふふ~たくさんできました ^^ 味の濃ゆい、上等なジャムに仕上がりました。それぞれの実家と、知人・友人におすそ分けします。



 薄田泣菫の随筆集に柚子の実の一話があります。
 「柚の実は生れながらの孤独好きを語るものに外ならなかった」とあって、こんな文章がつづきます。

 ‥十一月の末頃ともなれば、この青道心のかちかちに頑(かたくな)だった青頭も、いつのまにかふっくりと黄熟する。そして苦みがかった酸味にあるかなきかの甘さが萌して来るが、見逃してならないのは、その舌を刺すやうな風味に、また香気に、しんみりとした一味の侘が感じられることだ。
 その侘こそは、初冬の柚の実に味はれる外には、どの果実にもめったに求めて得られない生命の孤独感なのだ。



 柚子は、孤独を愛する果実。
 なんだかいっそう柚子が好きになりました。