幻の久留米絣

2013年05月23日 | きもの日和
 
 町のギャラリーでお会いしたご婦人がすてきだったので、許可を得て撮影させていただきました。十字絣の久留米絣に刺しこぎんの八寸名古屋帯というあこがれの取り合わせで、さらりと着こなしておられました。うかがえばご近所にお住まいのお茶の先生とのこと。お祖父さまの羽織を仕立てなおし、「もう何度も手洗いをしたからクタクタなのよ」というめずらしい十字絣のおきものは、久留米絣の人間国宝・森山虎雄氏の作品で、今ではもう織ることのできない逸品。何度も水をくぐり、長い時間をかけて育まれた紺絣は、冴えた藍の地に絣の白がはっとするほど際だっており、お目にかけたとたん「いったい何をお召しなのかしら!?」と目が離せなくなってしまったのでした。木綿とはおもえないほどしなやかで肌になじむ風合いに、日本人が古くから野良着として日常親しんできた紺絣とは、こういうものなのか‥と教えられた気がします。 

人間国宝の競演

2013年05月13日 | 雪月花のつぼ ‥美との邂逅
 
 喜多流能シテ方人間国宝・友枝昭世氏と、大蔵流狂言師人間国宝・山本東次郎氏による能楽の舞台を鑑賞する機会に恵まれました。演目は狂言「木六駄」、能「羽衣」。山本氏の情感あふれる太郎冠者、友枝氏の中空を漂うかのごとくかろがろとした天女の美しい舞に、極上の週末を満喫。この日の解説者には歌人であり能楽にも造詣の深い馬場あき子氏、舞台後は三氏によるフリートークというほんとうに有難い企画で、演者の素顔に触れることができたこともしあわせでした。馬場氏のナビにより明らかにされた、型の連続の中に太郎冠者のこころの移ろいを表現することのむつかしさや、羽衣の色に白でなく紫を選んだことの真意等々、人間国宝おふたりのご苦労や工夫がとても勉強になりました。

小島悳次郎の型染めの世界

2013年05月07日 | 雪月花のつぼ ‥美との邂逅
 
 五月初旬にシルクラブにて催された「小島悳次郎(こじまとくじろう)の型染めの世界」展へ出かけました。心待ちにしていた展観だったし、小島氏のご次男夫妻の親切な案内にも恵まれて、わたしも友人らも興奮気味に半日をすごしました。小島悳次郎の型染め、と聞いてすぐに思い出すのは、清野恵里子さんの『きもの熱』で和久傳の若女将、桑村祐子さんが結城縮のお単衣に合わせていた藍地の帯「唐草鳥獣紋」。さまざまな動物や植物が色彩ゆたかに並び、まるで音楽を奏でるような楽しいモチーフは、洋楽をこよなく愛した小島氏ならではの作品ですが、清野さん所蔵のその帯も、樋口可南子さん所蔵のどんぐりの帯も、久しぶりのお里帰りをよろこんでいるかのように、たくさんの愛おしい遺品たちの中に溶けこんでいました。