ことしの六月に亡くなられた作家、高橋治氏の代表作『星の衣』(吉川英治文学賞受賞作品)を十数年ぶりに再読しました。
舞台は染織品の宝庫・沖縄。首里織と八重山上布を織る女性ふたりの生きざまを軸に、染織にたずさわる沖縄の女たちの葛藤、琉球文化と沖縄人(うちなんちゅ)の誇り、戦時中の沖縄でいったい何があったのかが丁寧に描かれ、作家が知るかぎりの沖縄のすべてがこの小説に結実したとおもわれる作品です。読みすすむほど何か見えない重いテーマがのしかかり、琉球の染織品と戦争、内地(日本本土)との複雑な関わり合いをふかく考えさせられます。沖縄のきものを着ることは、覚悟がいることかもしれません。
それでも、小説の中で首里織の汀子も、八重山上布の尚子にも、古きよき琉球染織へのリスペクトがあり、本流から逸れない仕事をしていること、そして、一流の染織家をめざす彼女たちを厳しくもつよく育て、温かく見守る人たちがつねに存在することにすくわれます。(もちろん、高橋氏もそのひとりだったのでしょう) 沖縄だけでなく日本各地の布も、その風土と切り離しては考えられないし、彼女たちの織る布のように、古いものへのリスペクトがあるものにふれたいというおもいは、ますますつよくなりました。(そういったものが、いまでは“民芸調”という言葉でひとくくりにされて、まるで古めかしいむかしの遺物のように扱われたりするのは、ずいぶん浅はかなことで、かなしい)
わたしの好きな椿の花が、物語が展開する上でのひとつのキーになっていることと、講談社文庫版は誤植が多くて、高橋氏もさぞこころ残りだろうなとおもったことも、書き留めておきます。