先月から長期の仕事をしています。昨年と同じHさんのお仕事のお手伝いなのですが、昨年とちがうことがひとつあります。それは、もうHさんが会社にいないこと。
なにかと気の合うHさんでした。語り合うたびに同種の趣味や嗜好を感じて、話がはずみました。といっても、Hさんは常勤、わたしは非常勤ですから、けして多くはなかった機会の中で、いくらか深いところで響き合えたことがうれしかったし、Hさんも忙しい仕事の合間をぬってわたしに声をかけてくれました。
ところが、六月にひと月ぶりに出社すると、Hさんの退職が決まっていたのです。驚いている間もなく送別会へのお誘いがあり、引き継ぎで大いそがしのHさんに声をかけることができないままその日を迎えました。
直接退職の理由を聞くこともできず、同僚の友人に後日聞いてみようとおもいながら、六月末にHさんは退職。七月がすぎ、八月になりました。わたしはHさんの残された仕事のお手伝いをしながら、Hさんがいまどうしているのか、新しい仕事はもう決まったかしらと、時おり考えます。
お別れのしるしに‥とHさんがくださったのは、わたしが十数年愛用しているものと同じバーニーズのハンカチーフでした。やっぱり、趣味が似ていますねと、別れがたいきもちで立ち話をしていたところへ、Hさん宛に仕事の電話が入り、最後の会話は途切れてしまいました。
Hさんとわたしは、ここちよい距離をたもちながら、ついに交わらなかった二本の線みたいだけれど、不思議にあたたかなきもちが残っています。
夏、空と海の青に純白の雲が浮かぶ横浜のバーニーズにて。わたしは、一枚のリネンのハンカチーフを買います。ほんとうはHさんに差し上げたかったオレンジシャーベット色の一枚が、わたしのコレクションに加わりました。
| イニシャル入りがHさんからいただいたもの。十数年を経ても型くずれしないバーニーズニューヨークのリネンは、以前は麻100%だったけれど、いつからか綿麻になっています。色はきれいな中間色がそろっているので和装にもおすすめ。贈りものにも。 |