霜降の候となりました。週明けの東京に冷たい雨が降り、パソコンに向かうわたしのひざに毛織物のひざかけがのりました。冬どなりの季節もまぢかですね。
10月27日から読書週間が始まります。いま、みなさまはどんな本を読んでいらっしゃいますか。
夫もわたしも本が好きで、大きめの本棚はいつもいっぱいです。先日、ふたりで九ヶ月ぶりに本棚を整理して、二十冊くらいの本を古書店に持ちこんだばかり。できるだけ図書館を利用しなくては‥と反省するのですけれども、その古書店に売った本のお金で、夫が池波正太郎の『真田太平記』全十二巻を購入してしまう始末です‥
義父は家の床が沈むほど本をもっていて、わたしの父もまた読書家でした。父は貧しくて大学に行くお金がありませんでした。高校卒業後の大阪での仕事が決まったとき、唯一の財産だった蔵書を断腸の思いで売り払い、四国から大阪までの交通費と仕度金を捻出しました。そんな父が、ようやく本棚を置くことのできる一軒家を建てたとき、かつて売った本をとり戻すように、世界や日本の文学全集を買い集めました。病に倒れたのちも、病床でいつも本をひらいていた父の姿が忘れられません。
学生のとき、とつぜん中学時代の恩師から重い段ボール箱が届きました。中には古書がいっぱい詰まっていて、ジャンルは実用書が多かったように思います。送り主は、中学三年のときに父を亡くしたわたしにいちばん同情を寄せてくれていた理科のO先生でした。ご高齢で、段ボール箱が届いた後あまり時を経ないうちに他界されましたから、形見分けのおつもりだったのかもしれません。卒業後も一生徒のことを思っていてくださったO先生のお気持ちが有難く、忘れられない出来事になりました。
この夏、ホームページを介した数年間のおつきあいの中で、たくさんの貴重なコメントを寄せてくださったSさんが亡くなりました。とつぜんのことで、にわかに信じられませんでした。一度だけお目にかかる機会があり、その折に「雪月花さんは京都がお好きだし、これなら旅にも携帯できるから」と、京都市観光協会が平安建都1200年を機に発行した『観光小辞典 京都』というポケットサイズの本をいただきました。これがSさんとの思い出を語るものになるとは思いもよらず、淋しい気持ちでいっぱいです。
本ひらく手もとに光とどきゐて 秋はみじかくすぎてゆきたり
人生のときどきにたいせつなことを教えてくれ、深い愛情を本というカタチで残していった人たちのことを思いますと、いまわたしが手にしている本もまた一期一会のものと思われて、おろそかにできません。悲喜こもごも‥、人と本の出合いは、人と人とのゆたかな出会いを演出してくれるのですね。今後の本とのめぐりあわせにも、喜怒哀楽があるでしょう。
財政の厳しい福島県の矢祭町では、図書館がほしいという町民の願いを実現するため、全国に呼びかけて古書を送ってもらったところ、なんと三ヶ月で23万冊(!)が集まったそうです。いま地元のボランティアが仕分け作業をしていて、来年一月にはついに町の図書館を開館する運びとなり、町長は「本屋もなかった町を、本の町に変える」とはりきっているそうです。(10月22日付、朝日新聞朝刊「天声人語」より)
27日から11月1日まで、東京神田にて古本市が開催されます。一年に一度の百万冊もの古書の大バーゲンに、全国の本好きが集まります。この古本市に、もしかすると、かつて父やO先生、Sさんが手にした本が並ぶかもしれない‥ そんな気がして、時間があれば夫と神田まで出かけようと思っています。
‥そうそう、今回の絵のメガネは老眼鏡ではありません。念のため。
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※ みなさまの思い出の本、おすすめの本などを雪月花にご紹介ください。
記事に無関係のものでも、本のご紹介でしたらいつでも受け付けます。