前の記事「ひきざんのくらし」に、みなさまからたくさんのご感想と「秋も深まってきました」という季節のおたよりをいただきました。有難うございました。東京は、台風20号があわただしく過ぎ去った後、木々の葉の色づきと落葉がすすんでいます。夏の猛暑と秋になっての朝晩の急な冷えこみという、美しい紅葉をもたらす条件がそろったようですから、これからの錦秋が楽しみです。とはいうものの、霜月になると同時に年賀状の販売が始まり、日は足早にすぎてゆくでしょうから、そろそろ新年の準備を始めなくてはいけませんね。
先日、図書館から折形の本を数冊借りてきまして、手もちの半紙で箸袋やぽち袋などを折り、おめでたい柄の消しゴムはんこでデザインしてみることにしました。スタンプカーニバルが終わるまで、作品をつくるために毎日のように和紙にはんこを押す作業の繰り返しでしたから、最近は新作のはんこを彫るのが楽しくてしかたありません ^^
そこで、久しぶりに新作文様印のご紹介です。新年の準備を兼ねまして、おめでたい柄のひとつ、「姫小松」という若松を意匠化した繊細な文様を。はがきとぽち袋をそれぞれ和紙の色を変えてつくってみました。さらに箸袋も作成中です。
スタンプカーニバルでもお話させていただいたのですけど、同じ柄でも、組み合わせる和紙とスタンプインクの色によって表情がガラリと変わります。上の画像は明色ばかりの組合せですけれども、思いきって黒や深緑などの暗色の和紙に、金や銀のインクで柄をのせてみますと、とてもモダンな印象になります。地色とインクの色を変えることで、はんこを押すという単純な作業が何倍も楽しくなります ^^
この夏、姫小松の柄の江戸からかみを張りまわしたちいさな行灯(左上の写真)を購入しまして、夜になると枕もとに置いて灯を入れ、その明かりで読書をいたします。白の手漉き和紙に金の姫小松の散らし模様は、行灯に灯を入れていないときは目立たないのですけど、卵色の灯がともりますと、金色の姫小松がぽぅっと浮かび上がって、それはそれは美しいのです。あまりきれいなので、本を読むことを忘れてその灯りに見入ってしまうこともしばしば。むかしの人が、ほのかなろうそくの灯りの中で、金泥銀泥に彩られた屏風絵や金糸銀糸を織りこんだ衣裳が闇に浮かぶのをうっとりと見つめたり、漆器にほどこされた蒔絵がにぶい光を放つのを愛でた気持ちが分かるような気がするのです。谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』(※)を読み返したくなるのも、こんなひととき。
美と云うものは常に生活の実際から発達するもので、暗い部屋に住むことを余儀なくされたわれわれの先祖は、いつしか陰翳のうちに美を発見し、やがては美の目的に添うように陰翳を利用するに至った。‥‥ 諸君はまたそう云う大きな建物の、奥の奥の部屋へ行くと、もう全く外の光が届かなくなった暗がりの中にある金襖や金屏風が、幾間を隔てた遠い遠い庭の明りの穂先を捉えて、ぽうっと夢のように照り返しているのを見たことはないか。その照り返しは、夕暮れの地平線のように、あたりの闇へ実に弱々しい金色の明りを投げかけているのであるが、私は黄金と云うものがあれほど沈痛な美しさを見せる時はないと思う。‥‥長く輝きを失わないで室内の闇を照らす黄金と云うものが、異様に貴ばれたであろう理由を会得することが出来る。私は前に、蒔絵と云うものは暗い所で見て貰うように作られていることを云ったが、こうしてみると、ただに蒔絵ばかりではない、織物などでも昔のものに金銀の糸がふんだんに使ってあるのは、同じ理由に基づくことが知れる。‥‥ (『陰翳礼賛』 より) |
江戸からかみを張っただけの単純な行灯は、もし和紙がいたんでしまったら別の柄のからかみに張り替えてもらえますし、畳の間の片隅に置いておくだけですてきなインテリアにもなります。ゆったりと夜をすごすのに最適な和小物です。
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※ 『陰翳礼讃』 は さくら書房 で紹介しています。