雪月花 季節を感じて

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手とこころの仕事

2008年11月26日 | 雪月花のつぼ ‥美との邂逅
 
 先だって「小魚庵だより」でご案内しました祇園の三人展を主催された、截金師の齋藤一陽さん古典絵画を手がける鶴田朋文さんのおふたりに、東京でお目にかかることができました。一陽さんと朋文さんはご一緒にお仕事をされることもあり、ふだんからとても仲のよいおふたり。来秋には、朋文さんの仏画に一陽さんが截金をほどこす御作を京都で見ることができるそうで、いまから楽しみです ^^


 「はじめまして」のごあいさつの後、おふたりからすてきなプレゼントをいただきました。


 左は一陽さんの截金のガラスワークで、幾層にも重ねたガラスの中に、繊細な截金が花模様のごとくはめこまれています。截金は、仏像や仏画などを装飾するため、厚さ1ミリにも満たない金箔を切り出し、貼り合わせてゆくじつに細やかで根気のいる手仕事です。一陽さんは、截金の魅力をもっとたくさんの人に知ってもらいたいという願いから、こうしたガラスワークを考案されました。
 右は朋文さんの仏画の文香。こちらもまた、手描きとはおもえないほど繊細かつ柔らかな線で描かれています。仏さまのお顔がとてもおだやかで‥ きっと、朋文さんのふだんのご信心とお心ばえから生まれる絵なのでしょうね。篆刻もとてもすてきなので、俳画用の雅印をいくつか彫ってくださいね、とお願いしています。

 さっそく、こんなふうに使っています。


 ガラスワークはお気に入りの懐中時計の根付けに、文香はオーガンジーの巾着に入れて匂い袋に。ガラスの色は好きな緑ですし、匂い袋の中には仏さまがいらっしゃる‥ うふふ、まるでお守りです ^^ どちらも、きものでお出かけのときに帯にしのばせます。


 当日はお天気にめぐまれて、銀座で会食後、おふたりの案内で銀座~日比谷のギャラリーめぐりをしました。おふたりのお知り合いだったり、ご縁のあるお方の展示会ばかりだったため、ゆく先々でお話がはずみました。中でも、もっとも注目しましたのは、染織家の麻田光子さんの紬織物(@銀座「ギャラリー無境」)です。


 「どうぞ、触れてみてください」とのご好意に甘えて、そっと触れてみましたところ、まぁなんとやわらかで軽いこと、まるで羽衣のよう。きものにしてまとえば、身につけていることを忘れてしまいそう‥ そんな織物です。神さまと自然からの贈りものを有難くいただき、こんなにも美しい色と風合いの布に織り上げる麻田さんのお仕事とお人柄に触れることができ、感激しました。


 一陽さんも朋文さんも、作り手の方々のさまざまな思いに触れて触発されたようです。でも、日本の伝統工芸の世界は資金不足、人手不足など多くの問題を抱えており、かなり危機的状況だそうです。そんな状況であっても、なんとか力を尽くしたい、一石を投じたい‥というおふたりの気持ちがよく伝わって、今後のさらなるご活躍に期待を寄せずにいられません。


 二年後の奈良平城遷都1300年の記念年をめざし、現在おふたりはすてきなアイデアをお持ちです。わたしは微力にもならないけれど、せいいっぱい、このチャーミングな職人気質の女性ふたりを応援したいとおもいます ^o^/
 

冬日のめぐみ

2008年11月21日 | 季節の膳 ‥旬をいただく
 
 明日から小雪の候。東京はぐっと寒さが増して、寒風に枯葉の舞う冬日がつづいています。朝晩の暖房で室内も乾燥するため、風邪をひかないようこころがけなくてはいけません。


 大家さんが、庭になった大きな花梨の実をふたつ分けてくださいました。「玄関においとけば、いい香りがするから」とすすめてくれたのですが、いただきものを玄関先に並べるわけにゆきませんから、食卓に置き、ほのかだけれど濃厚な甘い香をしばらく楽しみました。

 今日はその花梨をひとつ、はちみつ漬けにしました。


 三週間ほど漬けておくと、花梨のエキスが十分に抽出されるので、お湯やソーダで割って飲めば、疲れやのどの痛みをやわらげてくれるそうです。はじめてつくる花梨のはちみつ漬け。三週間後がとっても楽しみ ^^


 先週末は、主人の里の畑と庭から収穫した野菜と柚子をたくさん持ち帰りました。昨年からつきはじめた柚子の実が、今年は20個くらいなりました。半分分けてもらって、念願の柚子ジャムを炊きました。待った甲斐がありました ^^♪

 果汁をしぼり、たねを丁寧に除き、二、三度ゆでこぼして煮た皮をきざんで、果汁とともにたっぷりの砂糖でクツクツ‥とジャム状になるまで煮こみます。その間、ずーっと柚子の香につつまれるんですよ。みなさまも、ぜひつくってみてくださいね。
 花梨のはちみつ漬けも、柚子ジャムも、レシピは 飛田和緒さんの本 にあります。

 きれいな飴色の柚子ジャムが、大きなビン一本分できました。

 炊きたてのジャムで、さっそく柚子茶を‥ おこたで柚子茶をいただいて、身もこころもぽっかぽか ^^


 花梨も柚子もビタミンたっぷりだから、わが家の風邪予防は万全です ^^v


 花梨も柚子も、冬の日の光を精一杯あつめてできた宝石のよう。どちらも、ちょっと触れただけでずいぶん長い間その香が手に残ります。冬至に向かい、弱まりつつあるように感じられるお日さまですけど、わたしたちがおもっているよりもずっと強くてゆたかなエネルギーを届けてくれているのかもしれませんね。

 木守りの柚子さむざむと里の庭 (雪月花)
 

良寛遺墨展

2008年11月16日 | 雪月花のつぼ ‥美との邂逅
 
 12日まで、新宿住友ビル内の住友ホールにて「良寛 生誕250年記念遺墨展」が開催されました。ときおり時雨のぱらつくあいにくのお天気でしたが、良寛さんの生誕の地である越後出雲崎の冬の空もこんなかしら‥とおもいつつ、サラリーマンのひしめくオフィスビルの地階へ、良寛さんにお目にかかるべく向かいました。あまり大きく宣伝されなかったためか、混雑もなくゆっくりと貴重な墨跡や遺品に触れることができました。


 書家の方々が口をそろえて「良寛さん、良寛さん」と慕うのを聞いても、なぜあの書がよいのか、これまでさっぱり分かりませんでした。疑問におもい、理由をたずねても、納得する答えは得られませんでした。

 外国人がはじめて漢字を書く練習をしているかのような楷書、半紙の上にたくさんのミミズがはっているような、ほわっと肩の力の抜けた草書。けして上手とはいえない良寛さんの書をながめるうち、副都心の高層ビル郡のまん中にいることをすっかり忘れて、越後山中のささやかな庵で「良寛さん、寒いですね」などといいながら、良寛さんと向き合い、いっしょに冷めたお茶をすすっているような気持ちになってくるのです。

 もちろん、漢学を能くし、書は王羲之の行草書を学んだという良寛さんだから、ひと文字ひと文字、真剣に綴っていたのにちがいないし、自在に筆を運ぶことができたのでしょう。でも、良寛さんの書をいくら見つめても、そこから“おもいのまま”というような傲慢さは微塵も感じられません。自然と子どもを慈しみ、道元禅師の書物を読んでは感涙していたという良寛さんが、ひっそりとそこにたたずんでいるのを感じるだけなのです。



 良寛さんの書は、良寛さんの慈悲深い人となりそのまま‥ 名跡といわれる所以は、じつはそんなところにあるのかもしれません。

 焚くほどは風が持てくる落ち葉かな
 裏を見せ表を見せて散るもみぢ

 (良寛)


 16日(日)の朝、NHK総合テレビの「小さな旅」で良寛さんの生誕地・出雲崎が紹介されました。見逃した方は、再放送でぜひご覧くださいね。再放送の予定日時は こちら です。
  

神在月(かみありづき)

2008年11月12日 | たまゆら ‥日々是好日(随筆)
 
 八雲立つ出雲八重垣妻籠みに八重垣作るその八重垣を
 (『古事記』より)


 今回は、前回お話しました“亥の日の火入れ”につきまして、すてきなおたよりと句をいただきましたのでご紹介します。

 「亥の子さん」の話題につい懐かしくメールを差し上げています。もう「亥の子さん」の日におこたを出す人も少なくなったと思って、今朝も知人と話をしていたところです。叔父はおこたを出すのはいつも「亥の子さん」の日と決めていました。それまではどんなに寒くても火鉢だけで過ごしていました。‥‥
 (出雲の小川さまより)

 「亥の子さん」、とさん付けで呼ぶのは、やはり亥の子を神格化しているからなのでしょう。そういえば、京都御所の西に位置する護王神社は、別名「いのしし神社」といって、主祭神である和気清麻呂を守護したと伝わるイノシシがシンボルになっており、拝殿前には狛犬ならぬ狛イノシシが建っていたのをおもいだしました。

 ぬけぬけと風習忘れ亥の子の日
 (京都の道草さん作)


 ご存知のとおり、旧暦神無月(十月)は出雲では神在月(かみありづき)。お国のことは留守神にまかせ、出雲大社(いずもおおやしろ)に集結した全国の神々が、一週間の会議で来年は誰と誰を縁付けるのかを話し合うのだ‥と聞いたことがあります。神さまは、この一年のわたしたちの行いをどこかでちゃんと見ていらして、評価されるのでしょう。そうおもえば、悪いことはできませんね。いま神さまがお留守だからといって、羽をのばさないようにいたしましょう(笑

 主人も出雲の歴史にたいへん興味をもっており、大和朝廷と出雲の確執、出雲大社宮司の出雲氏が千家家と北島家に分かれた歴史、出雲大社の参拝の仕方が二拝“四拍手”一拝であること、また、神楽殿の大注連縄の綯い方が一般の神社と逆向きであること‥などを話してくれました。


瑞雲(消しゴムはんこ)


 おたよりのつづきです。

 出雲大社は千家さんと北島さんと二つあって、地元の方は北島さんの方が古いと言われます。神殿は北島さんのほうがずっとこじんまりとしているのですが、私は北島さんの神殿の奥の、人が立ち入ってはいけない森がすごく神秘的に感じます。今でも宮司さんは「お殿様」、奥様は「姫君さま」と呼ばれています。‥‥
 
 人が立ち入ってはいけない森‥ そこは結界のむこう側、神域なのでしょうか。

 出雲は今夜(11月7日の夜)全国の神様がいらっしゃる「神迎え」です。夜、稲佐の浜で神事が行われ竜神様とともにお社へ入られ一週間の会議を始められます。出雲では「お忌みさん」と呼びます。「お忌みさん」の頃は不思議と北風が吹き、雨やあられが降ります。お帰りの時は「神立さん(からさでさん)」と言ってやはり荒れた天気になります。そして、冬がきます。‥‥
 今は出雲地方の神社を主人とのんびり散策するのが楽しみです。


 不思議なことに、七日の夜は東京にも北風が吹き荒れました。神が出雲へ出立されたせいでしょうか。本格的な冬は、もうそこまできているのですね。



 おたよりを拝見して、国引き神話の生きつづける出雲国におもいを馳せました。主人とぜひ訪ねてみたいです。出雲の小川さま、貴重なお話を有難うございました。
 

立冬

2008年11月07日 | 季節を感じて ‥一期一会
 
 立冬の候をむかえた今日は、朝からしずかな雨が降っています。ちょうど亥の月の亥の日にあたりますので、わが家のおこたに火を入れました。
 今朝はあまり冷えこまなかったので、おこたは必要なさそうだったのですが、暑かろうと寒かろうと、節目節目を大事にしきたりを守ってすごすのが江戸の粋なのだとか。


 むかしから旧暦十月の亥の日には亥の子餅を食べ、無病息災・子孫繁栄を祈りました。亥の子餅は、小豆、胡麻、栗などを混ぜたまぁるいお餅で、ぼたもちの原型だそうです。また、亥の子は田の神さまと結びついて、今年の収穫が無事に済み、そろそろ田の神さまがお帰りになるころに亥の子餅をお供えするという意味もあるようです。

 わが家も亥の子餅をつくり、朝食後におこたで温もりながら食べました。黒胡麻を散らしたあん入りのおもちを亥の子のかたちにして。時間が経ってすこしおもちがかたくなっても、焼くとまたおいしそう‥


 足もとからぬくぬく、お腹はほっこり‥ 温かな冬のはじまりです ^^

 つくづくともののはじまる火燵(こたつ)かな (上島鬼貫)

 ぬくぬくと居てぬけ難し朝火燵 (雪月花)


 この週末は西高東低の冬型で寒くなるようです。みなさまも温かくしておすごしくださいね。
 

紅玉のアップルパイ

2008年11月04日 | 季節の膳 ‥旬をいただく
 
 りんごのおいしい季節は、母の手製のりんごジャムをこころ待ちにしていました。今年は自分でつくって母に届けようとおもい、紅玉の葉とらずりんごでフィリング用のジャムをたっぷりつくりました。
 紅玉特有の酸味と苦みが大好きです ^^ ジャムにしますと、お口にさわやかな甘みがひろがります。学生時代に夏の青森を旅しましたとき、地元の紅玉100%ジュースばかり飲んでいました。


 アップルパイに、なつかしい思い出があります。
 会社の近くに、「チェンバロ」という名のちいさなティールームがありました。住宅の一階部分を改築した喫茶室に、若奥さまが大事にされているチェンバロが一台、置いてありました。時折お邪魔して、大奥さまと若奥さまの手づくりの軽食やお菓子、ご主人がいれてくださるお茶をいただくのが楽しみでした。
 そのティールームの、紅玉を使ったアップルパイが絶品だったのです。わたしがあまりよろこぶので、紅玉の出まわる季節には、「アップルパイが焼けました。帰りにお寄りください」とお電話をくださるようになりました。ある年のクリスマス・イブの日、お電話をいただいて立ち寄りますと、「どうぞ」と手渡されたのは、ホールごとの紅玉のアップルパイ。こころのこもったクリスマス・プレゼントに大感激しました。

 ご主人も大奥さまもお茶をたしなまれ、ご一緒にきものを着てお出かけなさるようなご夫婦でした。あるとき、「お出かけですか」と声をかけますと、奥さまがはにかみながら「虫干しですのよ」とおっしゃったお姿が忘れられません。


 わが家の紅玉のアップルパイが焼けました ^^



 「チェンバロ」のみなさまは変わらずお元気でしょうか。久しぶりに訪ねたくなりました。甘酸っぱくてあたたかなアップルパイのお味も、きっと変わらないことでしょう。


 焼きたてのアップルパイには紅茶を ^^
 紅茶が好きで、20代のころはティーカップ&ソーサーのコレクションをしていました。いま手もとに残っているのは、英国のウェジウッドや大倉陶苑のような丈夫で使いやすいものばかりですが、写真はそのうちのひとつ、米国ホワイトハウス御用達・レノックス社製の「オータム」。肌があたたかなクリーム色で、秋冬にふさわしい紅茶碗です。

 

文様印(16) 龍田川

2008年11月01日 | 和楽印 めだか工房
 
 ちはやぶる神世もきかず たつた川から紅に水くくるとは
 (『古今集』 在原業平)

 紅葉前線がすこしずつ日本の野山を染め上げながら南下しています。今年は各地とも色づきが鮮やかできれいですね。これからしばらくの間、竜田姫の織りなす錦の絵巻を楽しみましょう。


 今月のカレンダーは「龍田川」。先月と同じ流水文に、楓の紅葉を散らしました。春は桜で「花筏」、夏は千鳥、秋は菊で「流れ菊」、紅葉なら「龍田川」‥と、流水文との組み合わせで季節のうつろいを表現できます。流水文をはがき大くらいでつくっておくと、いろいろと使えて便利です。


 毎朝主人と楽しみに見ている「日めくり万葉集」で、先日こんなすてきな歌が紹介されました。

 経(たて)もなく緯(ぬき)も定めず
      娘子(をとめ)らが織れるもみぢに霜なふりそね

 (『万葉集』 大津皇子)

 たて糸もよこ糸も定めないまま、娘たちが織る紅葉に、どうか霜よ、降らないでおくれ。 ‥天武天皇の崩御後、謀反の疑いで捕らえられ、24歳の若さで自害した大津皇子。のこされた四首の万葉歌にふれますと、皇子の繊細でやさしい御心が伝わります。



吹きよせ


 年賀はがきの販売が始まっています。めだか工房にも、賀状用の消しゴムはんこのご注文をいただいています。もう新年の準備を始める方もいらっしゃるのですね。何ごとも、早め早めが日本的なのかもしれません ^^