大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・87「美晴のブレイクファースト」

2020-04-01 06:25:44 | 小説・2

オフステージ(こちら空堀高校演劇部)87

『美晴のブレイクファースト』        



 美晴んちで朝ごはんを頂くことになった。

 電話をすると「これから朝ごはん、ミリーもおいでよ!」と誘ってきたから。


 どっちかっていうと――よかった、ぜひ来てちょうだい!――という響きがあった。
 これは『まずは胃袋から、男を虜にするレシピ百選』でこさえた料理の数々が居候の誤解をいっそう進めてしまったんだなと思う。
 だからミッキーと二人きりの朝食は気が重く、わたしの電話は渡りに船だったんだ。

「いやー、めんごめんご、近所まで走ってきたらパンクしちゃってさー(^▽^)/」

「パンクなら任せてよ、幸いミハルんちにリペアキットがあるから直してあげるよ。自転車屋で直したら8ドルもするって言うじゃないか」
「最寄りの自転車屋さんまで二キロもあるしね」
「朝ごはんは先に食べててよ、待ってたら冷めてしまうからね」
 そう言うとリペアキットを持って外に出るミッキー。

 基本的には気のいいやつなんだ、ミッキーは。

「なるほど、ベーコンエッグはイッチョマエだ!」
 食卓に着くと直ぐにブレイクファースト二人前が出てきた。電話した時には、もう取り掛かっていたみたい。
 お皿は湯せんしてあり、乗っかってるベーコンエッグは頃合いだ。
 アメリカ人向けに黄身までしっかり火を通してあるけど硬すぎるということは無い。ベーコンはあらかじめ切ってあってフォーク一つで食べられる。
「お、これは」
 一口食べるとフワっとしている。水の量と蒸らしている時間がちょうどいい……だけでなく、ベーコンと玉子の間にチーズが挟んである。これがフワフワの種なんだろう。
 トーストは、食卓に着く直前にトースターに入れ、コーンスープを少し頂いたころに焼き上がる。
 バターはあらかじめ湯せんして溶かしバターになっていて、トーストに塗る時のストレスが無い。
 サラダも『レタスとクルトンのバルサミコ酢合え』になっていて、シンプルでさっぱりしたしつらえ。
「わたし、朝食しかできないから……」
 恥ずかしそうにしている美春だけど、これは立派なもんだ。料理慣れした人間が――いつものブレイクファーストを作りました!――という感じだ。この調子でランチやディナーを作ったら結構ナイスなのを作るだろうと思わしめるものがある。
「もう正直に言っちゃえば?」
「これしか出来ないわよって?」
「うん、ずっとホームステイさせるんだったら、その方がいいと思うわよ」
「二つの理由でダメ」
「二つ?」
「ここへきて料理ベタと思われるのはシャクよ。それに、料理ベタっていうのは……案外……逆効果にならないかなって……」
「逆効果?」
 どうも分かりにくい女だ。
「えと……わたしって、いろいろできちゃうから。玉に瑕の料理ベタっていうのは案外萌え属性で……ラノベとかであるでしょ」
「ああ、なーる……」

 ラノベとかアニメは、いまや世界的なスタンダードになりつつあり、美晴の心配はうなずける。

「で、美晴がお料理名人だと思われてしまったキッカケっていうのはどんなの?」
「それはだね……」

 それは、美晴の見栄とちょっとした単語の間違いが原因と知れた。わたし的にはもう一つ原因があるんだけど、事態をややこしくするだけなので指摘はしなかった。
 だけど、ご近所でパンクしたのは運命のように思われて、修理を終えて戻って来た居候にこう言ってやった。

「ちゃんと直ったか確認したいから、朝食食べたら試運転に付いて来て」


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