大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

音に聞く高師浜のあだ波は・24『視聴覚教室の掃除当番・2』

2019-10-15 06:23:38 | ライトノベルベスト
音に聞く高師浜のあだ波は・24
『視聴覚教室の掃除当番・2』
         高師浜駅



 

 スカートが短いからや!

 こういう怒り方は理不尽やと思う。でも、あたしが地雷を踏んだからや。


 今日は、今学期二回目の視聴覚教室の掃除当番。
 で、今日は午後から使った授業も無くて、前回と違って冷蔵庫の中のように冷え切っておりました。
 で、こんな日に限って、視聴覚教室は汚れまくり。
「もー、なんで視聴覚教室にジュースのこぼれたあとがあるんよ!」 
 
 ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ ゴシゴシ

 すみれがむくれながらモップをかけてる。
 ジュースだけやない、視聴覚教室の床は紙屑やら花吹雪のカスやらクラッカーのカスやら花びらやらでゴミ箱をぶちまけたみたいになってる。
「これは三年生やなあ」
 あたしは推論を述べる。
「え、なんで三年生なんですか?」
 姫乃が丁寧な言葉で聞いてくる。姫乃が怒ったら言葉遣いが丁寧になるのを発見したけど、今の事態には関係ないのでスルー。
「三年生て、もうほとんど授業終わりやんか。授業によっては、お別れパーティーみたいになってるのもあるらしいよ」
「そうなんですか、でも、一応は授業なんだから、宴会グッズやら飲食物の持ち込みはいかがなものなんでしょうね……」

 ボキ!

 姫乃のモップの柄が折れた。御立腹マックスの様子。
「ジュース汚れは、コツがあるんよ」
 すみれは、モップをボトボトに濡らして駆けつけた。
「そんなに濡らして大丈夫?」
「こうやってね、とりあえずは汚れをビチャビチャにしとく」
 なんや見てると、すみれも頭にきてるように見える。汚れを拭いてるんやなくて、やけくそで水浸しにしてるだけに見えるねんもん。
「ほんなら、端の方から堅絞りのモップで拭いていって!」
 視聴覚教室の最前列で、すみれが叫ぶ。
「こんなんで……」
「あ、嘘みたい!」
 姫乃の声のトーンが変わった。コテコテやったジュース汚れが一拭きできれいになっていくではないか!
「ジュースは水溶性やから、水でふやかしてからやると楽にやれるんよ」
「なんで、こんな賢いこと知ってるんよさ!」
「弓道部やってると、いろんなことが身に付くんよ」

 すみれのお蔭で、なんとか十五分ほどで掃除は終わった。
 
 で、事件はここから。

 掃除を終えて、三人で下足室に向かった。
 下足室へは五十メートルほどの直線の廊下。
 ここは、隣のクラスが掃除の担当で、まだ掃除の真っ最中。四人の生徒がモップがけをしている。
 やっぱり汚れがひどいようで悪戦苦闘してる。あたしらは、邪魔にならないように、そろりと歩く。

「「「キャー!」」」

 三人仲良く悲鳴を上げてひっくり返る。
 普通に歩いていた廊下が急にヌルヌルになって、スッテンコロリンになってしもた。
 悲劇はそれだけでは無かった。
「ウワーー!」
 すみれがバケツを蹴倒してしまい、あたしらが転んだところを中心に水浸しになってしまった。
「わーー、ごめんなさい!」
 掃除してた子らは謝ってくれたけど、あたしら三人はお尻を中心としてビッチャビチャ。
 普通やったら怒るんやけど、あたしらもジュース汚れで苦労してきたところなんで「ドンマイドンマイ」と引きつりながら下足室へ。

「ちょっと、これは風邪ひくでえ、クシュン!」

 校舎の中にいてもこの寒さ。濡れたままで帰ったら、確実に肺炎や。
「これは体操服にでも着替えて帰るしかないなあ」
「でも、それだと異装になるから怒られるんじゃない?」
 うちの学校、制服の着こなしには、あまりうるさいことは言わないけど、制服ではないものを着用していることにはうるさい。たとえ校門を無事に出ても、駅とかでは下校指導の先生がいたりする。あんな一般ピープルが大勢いてる中で怒られるのは願い下げや。
「事情言うて異装許可もらおか」
 
 で、三人揃って生活指導室へ向かった。

「スカートが短いからじゃ!」
 生活指導部長の真田先生に怒鳴られた。
 状況を的確に表現しよと思て「パンツまでビショビショなんです」と言うたことへのご返答。
 どうやら真田先生は、制服の乱れに思うところがあったようで、あたしは地雷を踏んでしもたみたいや。
「でも、ふざけたわけやなし、この子らも災難やったんですから……」
 居合わせた学年主任の畑中先生がとりなしてくれる。

「ジャージ一枚いうのは、スースーするなあ」

 とりあえず異装許可をもらって家路につく。
 ジャージ姿というのは目立つ上に寒い。いちおうマフラーやら手袋の装備は身に付けてるんやけど、この季節にはどうもね。
「ね、いっそランニングしよか」
 すみれが提案。
「ジャージ姿やねんから、元気に走った方が目立てへんで」
 さすがは弓道部、日ごろの部活から出たアイデアや。

 いち、いちに、そーれ!

 掛け声も勇ましく三人は走り出した。
 しかし、五百メートルほどは景気がええねんけど、運動部ではない姫乃とあたしはアゴが出てくる。
 へたりながら走ってると、これまた目立つ。
「ジャージにローファーいうのんもなあ……」
 足まで痛くなってきた。

 プップー

 横一列やったのが迷惑やったのか、後ろでクラクションを鳴らされた。
「「「すみなせーん」」」
 と、恭順の意を示すと「「「あ?」」」という声になった。

「お祖母ちゃん!?」

 なんと、見たこともないワンボックスカーの運転席でお祖母ちゃんがニコニコしてるやおまへんか!
「いやーー助かったわ!」
 いそいそと三人で三列シートに収まって安堵のため息。
「えと、そやけど、この車どないしたん?」
 いつもの軽ではないことの疑問をぶつける。

「アハハ、ちょっとワケありでなあ~」

 お祖母ちゃんは不敵に笑うのでありました……。

 
  
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