大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・9『駅の改札の前まで来た』

2018-03-02 06:55:37 | 小説3

通学道中膝栗毛・9

『駅の改札の前まで来た』        

 呪われてると思ったんだから!

 あたしが息巻いたのは、駅の手前の交差点。
 信号待ちをしていたら、右手の方から自転車がやってきて、交差点の真ん中で停まってしまい、小父さんは転んで、あちこち痛そう。
 でも、乗っていた小父さんは痛いよりも、なんだか恐れおののいている。
 急に、後ろの荷台に幽霊か化け物が現れて自転車を停めたように感じたんだ。
 小父さんは、目をまん丸にして――ノワーー!――という感じで顔を引きつらせていた。
 信号が赤になって、小父さんは交差点に取り残される。交通整理をしていた女性警官が駆けてきて、安全を確保しながら歩道へ誘導した。そして自転車を調べると「突然」「勝手に」「初期不良」「悪霊かなんか」「整備不良」とかの断片が聞こえてくる。
 どうやら、ブレーキだか車軸だかが急におかしくなって立ち往生してしまったようだ。

「じつは、昨日ね……」

 あたしは語り始める。
「アハハハ、それってマンガじゃん!」
 遠慮なく笑う鈴夏。
 
 昨日の夕方、自転車で近所のコンビニに行った。
 コンビニの誘惑に負けて、無駄なお菓子などをいっぱい買いこんで帰路に就くと、急にペダルが重くなって自転車が停まってしまった。
 さっきの小父さんのように、幽霊か化け物に停められたような気がしてパニックになりかけた。

 え、え、え、なんで? なんで!?

 サドルに乗ったまま愛車をうかがうが。異常なところは、パッと見わからない。
 怖くなって、お尻がムズムズしてきたころにゾッとした。
 縞模様の蛇が後のタイヤと、そのスポークに絡みついて自転車を停めていたのだ。

 キャーーー!       

 叫んで、自転車を放り出すようにして逃げ出した。
 道行く人たちが、何事かと振り返る。

 で、気が付いた。

 荷台に括りつけていたゴムロープが解けてスポークに絡みついていたのだ。
「笑わないでよ、逢魔が時だったし、本当に怖かったんだから」
 スマホの写メを見せながら「こんな感じだったら、そう思っちゃうでしょ!」と力説する。
 なるほど、ロケーションは十分怖い。人通りのない二車線の道に信号だけが明らかだ。
「朝に三毛猫見たから、いいことが起こるはずだったのに」
「それ、運が良かったんだよ」
「どうしてよ!」
「お茶屋のお婆さん、言ってたじゃないの」
「だって」
「猫に会っていなかったら、あの小父さんみたいに、いや、もっとひどい怪我とかしていたんだよ」
「え、え、そうかなあ」
「きっとそうだよ。でもさ、さっきの小父さんと言い、こないだの自転車泥棒と言い、あ、栞のもね、自転車に欠陥があるのかもしれないわよ」
「そっかなー」
「ネットで出てたけど、そういうのって自爆自転車とか言って、いま問題になってるらしいよ」

 ちょうどそこで、駅の改札の前まで来た。

 改札を通るといい匂い。
「あ、駅中にホットドッグのお店ができたんだ!」
 ぼんやり女子高生の二人は、昨日まで気が付いていなかった。
「おーし、帰りに寄ってみるか!」

 自転車のことはどこかに行ってしまって、ファストフードの話ばかりになってしまった。


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