🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!
29『ポンプ室爆発!』
ネット入り石鹸の半分が、学校から消えていた。
ネット入り石鹸とは、洗面所などで蛇口からぶら下げてあるやつで、学校の衛生管理のベーシックアイテム。
無くなったのは、主に男子トイレのそれで、気づく者はそんなに多くは無い。
なぜって? 男で、石鹸つかって手を洗う者はほとんどいないからだ。
ルリカたちもデブの会も、そのへんのとこを分かっていて、ネット入り石鹸を使った。
結果は歴然だ。デブの会の面々はシラっとしているが、ルリカたちは、あちこちを摩りながら授業を受けている。
リンチやケンカのアイテムとしては、ネット入り石鹸というのは、かなり有効であることが実証された。
「もう少し大きな声で喋ってくれないか!」
島田大輔といっしょに、グラウンドの隅にあるポンプ室に居る。
オレは、デブの会の野呂たちに守られて、ルリカたちのリンチは免れたが待ち伏せしていた大輔にやられた。
「紀香の胸さわって! 変なことしやがって! 紀香を苦しめやがって!」
と叫んでいたので、こいつは人知れず三好紀香に思いを寄せていたんだろうと、痛い頭を押えながら「明日、ゆっくり話合おう」となだめた。
で、ポンプ室に居る。
旧演劇部の部室でもよかったんだけど、こじれて大声が出たりすると、せっかくの隠れ家がばれてしまうので、大輔の提案でポンプ室になった。グラウンドの隅なので人に気づかれる心配はないが、ポンプが古いので騒音が半端じゃない。
「三好のことが好きなんだったら、もう少し気にかけてやれよ。救けてやったの二回ともオレだぜ!」
「分からなかったんだ! 百戸みたいなストーカーじゃないからな!」
「ストーカーじゃねえって! 二回ともたまたまだ!」
「信じられるか、そんなこと! お前は紀香を狙っていたんだ! それで、持久走で、ちょっとだけ具合の悪くなった紀香を言葉巧みに救けて恩を着せて、それで下足室で紀香の胸に触ったんだ! お前はゲスで変態のデブだ!」
「触ってねえよ!」
「触りもしないで、紀香が悲鳴あげるもんか!」
「悲鳴じゃねえ!『デ……デブなんか嫌いだ!』って、言ったんだ!」
「同じだ! 嫌いだ!って言ったのは、お前が変なことをしたからだろう!」
「そんなんじゃねえ!」
あの時は、下足室の外にルリカたちがいた。ルリカたちが見ている前で礼なんか言ったら、三好はハミゴに、場合によってはデブに頭を下げたということで、イジメの対象にもなる。ルリカたちの陰湿さは、オレをリンチにかけようとしたことでもはっきりしている。
でも、それを島田に言うわけにはいかない。この単細胞に言ったら、きっとクラス中に知られてしまう。
「とにかくなあ、三好の事が好きなら、きっかけぐらいは作ってやるから、いっぺん自分でアタックしてみろ!」
「やかましい!」
「オレの事も、三好本人から聞いたらいいだろ!」
「変態の指図はうけねえ!」
「島田あ!」
「百戸オ!!」
やっぱりポンプ室で話したのは間違いだった。
大きな声で喋るので、言葉が激しくなって、必要以上の怒鳴り合いになる。
オレと島田は取っ組み合いになってしまい、取っ組み合いの衝撃だろうか、電動ポンプが断末魔のような唸りをあげて激しく振動し始めた。
「「おい、ちょっとヤバいぞ!」」
オレと島田は同時に叫んで、ポンプ室を飛び出した。
直後、ドッカーンと音を立ててポンプが壊れ、外れたバルブから激しく水が噴き出した!