ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

マリインスキー劇場 ボロディン:『イーゴリ公』

2008-02-05 | オペラの感想
マリインスキーの「イーゴリ公」を観てきました。
モニター券をゲットできた上に、席は3階Lの1列目。
この席の素晴らしさは、一度経験すると病みつきになります。

「イーゴリ公」というオペラは、有名な「だったん人の踊り」を除いてあまり知られていません。
日本での上演も、極めて少ないのではないかしら。
確かに派手さや泣かせる部分は少ない上に、もともと未完のオペラということもあって、ドラマの展開としては少々退屈な部分もありますね。でも、音楽だけをとってみればとても美しいし、私は「さすがボロディン!」と言いたくなります。
先程「未完のオペラ」と書きましたが、リムスキー=コルサコフとグラズノフによって完成され陽の目をみたので、その版が一般的です。しかし、この日の版は最終的にゲルギエフの手によって改訂されたものでした。
最大の違いは、リムスキー=コルサコフ&グラズノフ版の第1幕が、ゲルギエフ版ではそっくり最後の第4幕に来ます。
こうなると、さすがに随分印象が変わりますね。

さて、この日、ゲルギエフは例の爪楊枝みたいな指揮棒ではなく、普通の長さのものを使っていました。
そして、まずオケの音を聴いて驚きました。実に多彩で表情豊かなのです。弦は良く歌うし、輝かしいブラスと炸裂するティンパニはとにかく強烈!
昨秋ヨーロッパの名門歌劇場をたて続けに聴いてしまったので、正直比べてはいけないかなと思っていたところ、どうしてどうして・・・。
恐れ入りました。
舞台そのものも、派手さはないけど、オペラの特徴をとてもよく引き出したと思います。第1幕で本物の馬が2頭登場してきたのには少々驚きましたが・・・(笑)

この日のハイライトは、やはり「だったん人の踊り」。
バレエ団のプリンシパルが登場したダンスも素晴らしかったし、音楽の高揚感も抜群でした。
でも、私が見ていて興味深かったのは、ゲルギエフの指揮。音楽がどんどん熱を帯びながら高揚していくにつれて、逆に指揮の動きが小さくなっていくのです。
これは見ものでした。あのコンパクトな棒さばきで、あれだけのクライマックスを作れるわけですから、何かゲルギエフの指揮の秘密の一端を垣間見たような気がします。
それともう一つ。
「だったん人の踊り」をオペラの展開の中でみると、「あー綺麗だ。素晴らしい迫力!」だけではなく、音楽そのものが俄かに生命を宿したかのように感じるのです。
この踊りは、敵将ながらイーゴリ公に尊敬と敬愛の念をもっていたコンチャーク汗が、囚われの身となったイーゴリ公を励まそうとして贈ったプレゼントでした。
しかし、誇り高いイーゴリ公が、捕虜となっている自らの境遇で祖国のことを思い描きながら、コンチャーク汗のもてなしをどういう気持ちで受けとめたのか。
おそらく複雑な心中だったことでしょう。そう考えると、あのエキゾチックなメロディが、ますます心に迫ってくるのです。

マリインスキー劇場の公演は、合唱も素晴らしかったし、歌手達もいわゆるビッグネームはいませんが、総じてレベルの高い歌唱を聴かせてくれました。
ただ、イーゴリ公の妻ヤロスラーヴナだけは、声質も歌い方もあまりに私のイメージとかけ離れており、コメントを差し控えます。

また、「イーゴリ公」とは全然関係ありませんが、昨秋「バレンボイムのトリスタン」を同じNHKホールのこの席で観れたら、どんなに素晴らしかったでしょうか・・・。
この日のオペラを観ながら、ふと思ってしまいました。

<日時>2008年2月2日(土) 18:00開演
<会場>NHKホール
<出演>
■イーゴリ公:セルゲイ・ムルザーエフ
■ヤロスラーヴナ:ラリーサ・ゴゴレフスカヤ
■ウラジーミル:エフゲニー・アキーモフ
■ガリツキー公:アレクセイ・タノヴィツキー
■コンチャーク汗:セルゲイ・アレクサーシキン
■コンチャコーヴナ:ナターリア・エフスタフィーエワ
ほか
<演奏>
■指 揮:ワレリー・ゲルギエフ
■管弦楽:マリインスキー劇場管弦楽団
■合 唱:マリインスキー合唱団
<演出>
■エフゲニー・ソコヴニン

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2 コメント

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踊りがいいですね (よし)
2008-02-09 09:01:37
ご無沙汰です
こういうダイナミックな踊りのある舞台はいいですね。
>音楽がどんどん熱を帯びながら高揚していくにつれて、逆に指揮の動きが小さくなっていくのです。
これは良く分かります。火が点いたら後はオケをコントロ-ルすることに神経を集中するのだとおもいます。
>あのコンパクトな棒さばきで、あれだけのクライマックスを作れるわけですから、
これも私の好きなライナーと一緒です。というか長いオペラで暴れまわっていたら体力持たないですよね(笑)。
すばらしい公演のお話を読むと自分も体験したような気になります。ありがとうございます。
>よしさま (romani)
2008-02-09 19:00:30
こんばんは。

いつもありがとうございます。
あまり上演機会のないオペラですが、なかなか味わい深い作品だと改めて感じました。
とくに、今回は「だったん人の踊り」をマリインスキーのプリンシパルが踊ってくれたのですが、やはりさすがですねぇ。華やかで素晴らしかったです。

>これも私の好きなライナーと一緒です。
よしさんも、そう思われましたか。実はこの日まったく同じ思いで観ていました。(笑)
そういえば、ライナーもメトではオペラの名人として活躍していましたよね。あの指揮法は、オペラで身につけたものかもしれません。



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