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樫本大進:バッハ無伴奏全曲演奏会(2/28) @サントリーホール

2010-03-01 | コンサートの感想
チリ大地震の影響による大津波警報や津波警報が出されている中、昨日はバッハの無伴奏ヴァイオリン全曲演奏会を聴きに行ってきました。

<日時>2010年2月28日(日)
■第1部(無伴奏ソナタ1番・2番、無伴奏パルティータ第1番):13時開演
■第2部(無伴奏パルティータ2番・3番、無伴奏ソナタ第3番):18時開演
<会場>サントリーホール
<曲目>バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ・パルティータ(全曲)
<演奏>樫本大進(ヴァイオリン)

この日素晴らしいバッハを聴かせてくれたのは、ベルリンフィルの若きコンサートマスターとなった樫本大進さん。
一日でバッハの無伴奏を全曲演奏するなんて、精神的も肉体的にも物凄いこと。
トリプルアクセルをフリーで2回成功させた真央ちゃんと同じくらいの大偉業だと思う。
樫本さんの演奏を聴いていて、いつも感じることがある。
それは、自分の世界に聴衆を引き込むのが、ほんとに上手だということ。
「いい音楽だなぁ」「素敵な演奏だなぁ」と自然に思わせてしまう。
「自分の世界に・・・」なんていうと、デフォルメした表現・自分流に解釈した演奏スタイルを想像されるかもしれないが、もちろん彼の場合は全く違う。
むしろ正反対で、アプローチはきわめて誠実かつ作曲家へのリスペクトの念に溢れている。
強弱・表情・音色・アーティキュレーション、そのいずれをとっても、作品への敬慕の念がすべてのベースになっていることが、彼の演奏を通してびんびん伝わってくる。
しかし、それでいて生み出される音楽は、紛れもない「ダイシンズワールド」になっているところが凄い。
少々ミスがあっても、音程がときに危なくなったとしても、全体は微動だにしないのだ。
このいい意味での図太さが、彼の真骨頂だと思う。

今日のバッハもそうだった。
ミスもあった。(チューニングに苦しんでいた影響からか)音程のあやしいところもあった。音が鳴り切らない箇所もあった。
でも、本当に感動的なバッハを聴かせてもらったという思いだけが、一日たっても鮮烈に残っている。
不思議な感覚。
でも、これこそが「ダイシンズワールド」なのだ。

マチネで素晴らしかったのが、ソナタ第2番。
あのフーガのあと奏でられたアンダンテでは、リズムがまるで心臓の拍動のように息づいていて大きな感銘を与えてくれた。
しかし、今日のハイライトは、やはり何と言ってもソワレのシャコンヌだろう。
ジーグの後かなり間をとって、決然とニ短調の主題が弾き始められた。
信念に溢れた実にいい音だ。
そして鳥肌がたつほど素晴らしかったのが、山あり谷ありの難しいスケールのあと登場する長大なアルペッジョ。
静謐感に満ちたひんやりとした空気の中、32分音符の分散和音が始まる。
緊張感を伴いながら音楽は暖かみを帯び始め、次第に高揚していく。
気がつくと、見事なまでのクライマックスが築かれていた。
うーん、本当に素晴らしい・・・
また、再び短調に転じたあとのカンパネラの部分も忘れられない。
それは、怒涛のカンパネラとでも呼びたくなるような凄味をもった表現だった。
ブラーヴォ ブラーヴォ!

よきライバルそしてよき仲間となることを運命づけられた天才が、同じ年にこの世に生を受けることがある。
たとえば、今年生誕200年を迎えるショパンとシューマンがそうだ。
そしてプロ野球の世界では、松阪世代と呼ばれる超一流の選手たちがいる。
先日バンクーバーで歴史に残る素晴らしい演技を見せてくれた浅田真央さんとキム・ヨナ選手は、ともに1990年生まれだ。
そしてヴァイオリンの世界でも、1979年に二人の天才が生を受けた。
それが樫本大進さんと、私のアイドルであるヒラリー・ハーン。
ヒラリーの素晴らしさは、何度もブログで取り上げさせてもらったので改めては書かないが、十年に一人の天才だと私は信じて疑わない。
樫本大進さんの場合は、その音楽に対する誠実さと、いい意味での図太さが、コンサートマスターとしての資質の大きさを感じさせてくれる。
加えて、愛器グァルネリから紡ぎだされる豊かで伸びやかな音色も魅力的だ。
決してナーヴァスな表現に陥らないところがいい。
ベルリンフィルのコンマスとして、きっとマエストロ・ラトルにも気に入られることだろう。
今後、この二人の天才ヴァイオリニストがどんな風にさらなる成長を遂げるか、楽しみでならない。

それから、この日はソワレの休憩後にサプライズがあった。
美智子皇后がご臨席されたのだ。
病み上がりときいていたが、お元気そうで何よりだ。
最後まで熱心に聴いてらしたのが印象的。
その気品のあるお姿は、日本の良心のような気がする。
いつまでもお元気でいてください。
コメント (4)
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