ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

「熱狂の日」2009(4) ケフェレック(P) バッハコンサート

2009-05-17 | コンサートの感想
出張続きで小休止してしまいましたが、ようやく大好きなケフェレックのコンサートまでたどり着きました。
よし、書くぞ~。(笑)

ケフェレックのソロコンサートは、今回わずかに3公演だけでした。
そのうち、4日に開催された2公演を聴くことができました。
半分以上曲が重なっていますが、熱狂的なケフェレックファンを自認するわれら3人からしてみれば、「重複してしまっている」のではなく「幸運なことに2回も聴ける」なのです。

まずは昼の部から。
<日時>5月4日(祝)14:45開演
<会場>ホールG409
<曲目>
J.S.バッハ
■コラール前奏曲「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」BWV639(ブゾーニ編)
■前奏曲 第4番 嬰ハ短調 BWV849(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■前奏曲 第22番 変ロ短調 BWV867(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■前奏曲 第8番 変ホ短調 BWV853(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■トッカータ、アダージョ ハ長調 BWV564(ブゾーニ編)
■「イギリス組曲 第2番 イ短調 BWV807」よりサラバンド
■「オーボエ協奏曲 ニ短調」(BWV974)よりアンダンテ
■前奏曲 第14番 嬰ヘ短調 BWV883(平均律クラヴィーア曲集 第2巻より)
■カンタータ BWV147よりコラール「主よ、人の望みの喜びよ」(ヘス編)
■「イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV808」よりサラバンド
■「フルートソナタ 変ホ長調 BWV1031」よりシチリアーナ(ケンプ編)
■コラール前奏曲「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV659(ブゾーニ編)
<演奏>アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

演奏に先立って、通訳を交えてケフェレックさんから簡単なスピーチがありました。
「私はこれから皆さんとバッハの音楽の中に船出します。どんな旅になるか分かりませんが、旅が終わるまで静かに瞑想しながら聴いていただきたいのです。日本には禅とか能という素晴らしい伝統があります。その伝統を受け継いでいる皆さんならきっと理解していただけると思うので、どうかよろしくお願いします。」というような話だったでしょうか。

ブゾーニ編のコラールがオープニングに選ばれていましたが、奇しくもつい1時間ほど前に聴いたエンゲラーとまったく同じです。
しかし違う。まるで違う。
どちらが良いとか悪いとかではなく、まさにスタイルの違い、音楽観の違いだと感じました。
この日も、ケフェレックはひとつひとつの音色・アーティキュレーションを実によく選んで弾いていました。
彼女がコメントしていたとおり静謐な雰囲気がホールの隅々まで漂ってきます。
この素晴らしい時間と空間を共有できたことに、私は深く感動しました。
そして、この日のクライマックスはトッカータとアダージョ。
(プログラムではトッカータとアダージョとフーガから2セクションとなっていましたが、実際はアダージョのみ)
ここで、ケフェレックは祈りにも似た敬虔な表情で弾き始め、徐々に強い感情が溢れだし、やがて今まで聴いたこともないようなもの凄いフォルテを響かせたのです。
音の大きさではなく、強い意志の力をもった持続する音が私を圧倒しました。
私はこの曲の間中、ずっと目を閉じて聴いていたのですが、聴き終わった後、両手を固く握りしめている自分に気づきました。
凄いバッハを聴いた・・・。そのときに、そう実感しました。
こんな感動的なバッハを聴かせてもらって何も言うことはないのですが、唯一不満があるとしたら、それはホールの音響。
とくに高音が、まるでハイカットフィルターを通して聴いているような音だったのです。「ケフェレックの音はこんな音じゃない」と私は心の中で叫んでいました。
夜はホールも変わるので、きっと音も変わるでしょう。いや、変わってくれー!

さて、この昼のコンサートの直前、ロビーで思いがけない方にお目にかかりました。
いつもブログでお世話なっているemiさんです。
「何とかケフェレックの演奏を聴きたい」と来場されたのですが、当日券の販売もなかったようで、残念ながらお聴きになれなかったそうです。
こんなに素晴らしいバッハのコンサートだっただけに、本当に残念!
でも、夕方のヴァシリエヴァのコンサートまで少し時間がありましたし、せっかくお目にかかれたのですから、ケフェレックの昼間のコンサート終了後、ワイン片手にお話をさせていただくことに。
いゃー、楽しかったです。ケフェレックやLFJの話をしているうちに、あっという間に時間が過ぎていきました。
emiさん、本当にありがとうございました。

また、この日はケフェレックのサイン会も開催されていて、首尾よくサインをいただくことができました。
3年前にはスカルラッティのディスクにサインをしてもらったのですが、この日はバッハの新しいアルバムにサインをいただきました。
しかし、近くで見る憧れのケフェレックさんは驚くほど小柄なんですが、笑顔が素敵でほんとにチャーミング。
この人柄がきっと演奏に表れているんですね。

そんなこんなで、夜の部へ。
エグエスの素晴らしいリュートを堪能した後は、もう一度ケフェレックのコンサートです。
<日時>5月4日(祝)20:30開演
<会場>ホールD7
<曲目>
J.S.バッハ
■コラール前奏曲「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」BWV639(ブゾーニ編)
■カプリッチョ 変ロ長調 「最愛の兄の旅立ちにあたって」BWV992よりアダージッシシモ
■前奏曲 第4番 嬰ハ短調 BWV849(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■前奏曲 第22番 変ロ短調 BWV867(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■カンタータ「イエスは十二使徒をひき寄せたまえり」BWV22よりコラール(コーエン編)
■前奏曲 第8番 変ホ短調 BWV853(平均律クラヴィーア曲集 第1巻より)
■トッカータ、アダージョ ハ長調 BWV564(ブゾーニ編)
■パルティータ 第2番 ハ短調 BWV826
■コラール前奏曲「いざ来たれ、異教徒の救い主よ」BWV659(ブゾーニ編)
<演奏>アンヌ・ケフェレック(ピアノ)

ホールはD7。
D7は少し傾斜がついたホールで、とても見やすいし、音もなかなか良いと思います。
期待に胸ふくらませて待っていると、素敵なスマイルでケフェレックが登場。
昼間のコンサートのときと同様、演奏の前に簡単なコメントがありました。
内容はほとんど同じで、「静かに最後まで聴いてほしい」ということでしたが、最初のコラールを聴いて、私は涙が出そうになりました。
演奏自体に大きな変化があるわけではありません。
違うのは音色。
この音、この音だったのです。私がイメージしていたのは・・・。
透明で明晰、それでいて温かな音色。私の大好きなケフェレックの音がしていました。
昼間の演奏で唯一気になっていたことが、完全に解消しました。
こうなれば、ひたすらケフェレックのバッハを味わうだけです。
アダージョでまず精神的なクライマックスを築いたあと、夜の部のメインはパルティータハ短調。
パルティータハ短調と言えば、最初の来日の時の鮮烈な録音が忘れられません。
しかし、この日の演奏は即興的なセンスと緊張感に満ちた表現力で、ディスクをさらに上回る名演奏でした。
冒頭シンフォニアで一瞬指が滑って不協和音になりましたが、そんなのはまさしくご愛敬。こんなバッハはそうそう聴けるものではないでしょう。
ケフェレックに、そしてバッハに、ただただ感謝です。

かくして我々のバッハ漬けの一日が終わりました。
終演後は、イタリア料理店で、MICKEYさん、ユリアヌスさんと打ち上げ。
飲むほどに酔うほどにバッハの話で盛り上がりました。
気がついたら、ワイン2本があっという間に空いておりました。
少々飲みすぎ・・・
しかし、素晴らしい音楽、素晴らしい演奏、美味しいワイン、もうこれ以上ない幸せな時間を過ごさせていただきました。
来年も是非よろしくお願いします。

すっかりLFJの記事を書き終えた気持ちになってしまいましたが、5日のカンタータとペルゴレージが残っておりました。(汗)
最終回は、明日からの出張が終わり次第くつもりです。
コメント (6)
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