ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

「熱狂の日」2009(3) B・エンゲラー(P),ヴァシリエヴァ(チェロ),エグエス(リュート)

2009-05-10 | コンサートの感想
午前の2つのコンサートの後は、まず腹ごしらえです。
ただ午後のコンサートまであまり時間がなかったので、「近くてボリュームもそこそこ」というコンセプトのもと、3人でガード下の「焼肉トラジ」へ。
ランチビール片手に、MICKEYさん、ユリアヌスさんと、早くも話がはずみます。
気がつくと、あっという間に午後のコンサートの時間が来てしまいました。


午後一番のコンサートは、ブリジット・エンゲラーのピアノでバッハの小品集。
<日時>2009年5月4日 13:30開演
<会場>ホールD7
<曲目>
J.S.バッハ
■ブゾーニ編:コラール前奏曲「主イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ」ヘ短調 BWV 639
■シロティ編:オルガンのための小前奏曲 ホ短調
■シロティ編:管弦楽組曲 第3番 ニ長調 BWV1068 よりアリア
■シロティ編:前奏曲 ロ短調 BWV855a
■リスト作曲:カンタータ「泣き、嘆き、憂い、畏れよ」 BWV12 にもとづく変奏曲
■マルチェッロ~バッハ:「オーボエ協奏曲 ニ短調」(BWV974)よりアンダンテ
■ケンプ編:「チェンバロ協奏曲 第5番 ヘ短調 BWV1056」よりラルゴ
■ケンプ編:「フルートソナタ 変ホ長調 BWV1031」よりシチリアーナ
■ケンプ編:コラール前奏曲「汝その道を命じたまえ」BWV270
■ケンプ編:コラール前奏曲「主よ、人の望みの喜びよ」
(アンコール)
■ピツェッティ:アンダンテ
<演奏>ブリジット・エンゲラー(ピアノ)

パンフレットの「LFJのゴッドマザーが心を込めて奏でる・・・」というフレーズは、まさに言い得て妙?(エンゲラーさん、ゴメンナサイ)
スタイルとしては、フランス流というよりも明らかにロシア流。
まさに「力強く濃厚なバッハ」でした。
正直、温かく透明感のあるバッハが好みの私としては少しスタイルが違いましたが、複数の編曲者の手によるアレンジの違いがはっきり分かって、その点では大変興味深いコンサートでした。
そして、アンコールで弾いてくれたピツェッティが、抒情的な美しさでまさに絶品。
イタリア生まれのピツェッティという作曲家はそんなにメジャーじゃないけど、もっと聴いてみたい作曲家ですね。


さて、このあとはお待ちかねケフェレックのコンサートだったのですが、夜の公演も聴いたので、後で二つまとめて感想を書きます。
そして私がお二人と別れて一人で聴いた午後の3つめは、ヴァシリエヴァの無伴奏チェロ。
<日時>2009年5月4日 17:00開演
<会場>ホールD7
<曲目>
J.S.バッハ
■無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長調 BWV1007
■無伴奏チェロ組曲 第6番 二長調 BWV1012
<演奏>タチアナ・ヴァシリエヴァ(チェロ)

2月の読響マチネのアンコールで弾いてくれた1番の前奏曲があまりに素晴らしかったので、プレオーダー系で何回も何回もチャレンジしたのですが、破竹の連戦連敗。
「あれほど聴きたいと思っていたけど、きっと縁がないんだ・・・」と半ばあきらめかけていた矢先、ダメもとで申し込んだ一般販売で首尾よくゲット。
期待に胸ふくらませて開演を待ちました。
爽やかな笑顔とともにステージに登場してヴァシリエヴァが無伴奏の第1番を弾きだします。
「私を虜にしたこの前奏曲を今聴いている・・・。このバッハを聴きたかったんだ。そのために随分苦労したけど、彼女の演奏が聴けて本当に良かった」と、私は何度も何度も頷きながら聴き入っていました。
ヴァシリエヴァのバッハは、ひとことでいうと「歌うバッハ」です。
所謂、「語るようなバッハ」とは対極にあるスタイルですね。
理屈に縛られないストレートで歌う無伴奏は今や貴重だし、それだけダイレクトに聴き手の心に届きます。
加えて呼吸感が抜群なので、テンポの揺れも「あー、なるほど」と納得させられてしまいます。
彼女のそんな美質が最も端的に表れていたのが、第1番でした。
一方、第6番の方は桁違いの難曲ということもあり、さすがに一杯一杯の演奏(決して未完成あるいは未熟という意味ではありません)でしたが、4本弦のチェロで果敢にチャレンジしているヴァシリエヴァを見たら、天国のバッハもきっと称賛を惜しまなかったでしょう。
私的には、大満足のコンサートでした。
画像は、終演後のサイン会でサインしてもらったCDです。
「ブラーヴォ!」と語りかけると、とびきりの笑顔で「サンキュー」と返してくれました。


夜の部は、再びお二人と合流して2つのコンサートを聴きました。
2つ目のケフェレックは文字通り「伝説の名演」だったのですが、前述のとおり次回まとめて書きます。
この日の夜1番(妙な言い方で恐縮です!)は、エドゥアルド・エグエスのバロック・リュート。
<日時>2009年5月4日 19:00開演
<会場>相田みつを美術館
<曲目>
■フローベルガー~エグエス:組曲 第2番(1649年稿)
■ビーバー~エグエス:無伴奏ヴァイオリンのためのパッサカリア
■J.S.バッハ~エグエス:無伴奏チェロ組曲 第3番 ハ長調 BWV1009
(アンコール)
■ヴァイス:組曲「不実な女」よりアントレー
<演奏>エドゥアルド・エグエス(バロック・リュート)

なかなかリュートの生演奏は聴けないし、しかもバッハの組曲3番全曲とくれば聴くしかありません。
ちなみに、当日はCD録音用か放送録音用か分かりませんが、本格的な録音機器を持ち込んでのコンサートでした。
この会場はもともと音楽用ではないので、音響という点だけとれば、かなりしんどい。
こじんまりしているので、さぞかし室内楽にぴったりかと思いがちですが、とにかく音がデッドなのです。特に高音が伸びないので、曲によっては泣きたくなるような状況になることもあります。
しかし、この日のリュートは、まさに私がイメージするリュートの音がしていました。 エグエスのタッチの美しさとポリフォ二ックな扱いの上手さが大きく影響していたことは間違いありませんが、リュートやチェンバロという古楽器にこそ適したホールだったのかも知れません。

私のようにギターを弾く者からみると、あれだけ右手を制約されながら(=小指は常時表面板につけたまま、薬指も原則使わない)、よくぞあの複雑なポリフォニーで書かれた音楽を弾けるものだと改めて感心しました。
あまりフィゲタ(右手親指と人差し指の交互弾弦のこと)を使うような場面はなかったようですが、エグエスの左手の技術の巧みさが秘密のカギかもしれません。
ビーバーの美しさ、バッハのチェロ組曲では前奏曲のアルペッジョの大胆さと各舞曲の性格の描き方のうまさに感銘を受けました。
アンコールは、バッハのリュートの師匠でもあったヴァイスの組曲「不実な女」から第1曲アントレーを弾いてくれました。
良かった。実に良かった。
この幽玄さは、やはりギターでは絶対表現できないものですね。
思い出に残る素敵なコンサートでした。

ケフェレックのコンサートの感想は次回に。
コメント (3)
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