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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

馬の話で思い出す歌とそれにまつわるエピソード【2】

2012-05-06 01:47:20 | 想い出を掘り起こす
 さて前回は、敗戦後童謡として親しまれた「めんこい子馬」(作詞:サトウハチロー、作曲:仁木他喜雄)が、実は当初、1941(昭16)年、陸軍省選定の東宝映画『馬』の主題歌として作られたもので、その歌詞の軍事色の強い部分を改変して生き延びたものであることを述べました。

 で、その映画は未見なのでどんなものだろうと思って調べてみると面白いことがわかりました。
 この映画は純然たるフィクションではなく、モデルになった馬がいたというのです。その馬がまた、数奇な運命をたどったというので少し紹介してみましょう。

 この馬は勝山号といって1933(昭8)年、岩手県の現・九戸村に生まれ農耕に従事していたのですが、4歳の折、軍馬として徴用され、中国戦線で将校馬として活躍したというのです。

            

 ここからがドラマティックで、この勝山号、何度も激戦地で銃弾の下をかいくぐり、なんと、彼に乗った将校3人がそれぞれ戦死してしまいました。しかし勝山号はその都度、ちゃんと帰還したというのです。そんなこともあって1939(昭14)年、勝山号は日本に送還され、「不死身の名馬・英雄馬」として勲章を与えられた後、明治神宮の御神馬として戦意高揚のシンボルとなるのです。

 しかし、まだまだドラマは続きます。
 1945(昭20)年、日本は敗戦を迎えます。
 それで勝山号はどうなったかというと、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の命令により追放され、神馬から一躍「普通の馬」に格下げされ、ほかの馬ともども「軍馬収容所」に入れられるのです。
 それだけではおさまりません。おりから戦後の食糧難、勝山号は食肉業者に払い下げられることになったのです。

            

 そこで、それを知った映画でもそのモデルとなったこの馬の元馬主の救出作戦が始まります。関東から南部九戸村までの逃避行の果てに、勝山号はやっと故郷に帰り着くのです。
 こうして波乱万丈は収まったかに見えたのですが、なおかつその最後も劇的でした。
 もとの農耕馬に戻った勝山号ですが、その2年後に狂い死にしたというのです。
 そしてその死後解剖の結果がまた、この馬の生涯を象徴するものでした。
 というのはその頭部と首のあたりから大きな砲弾の欠片が出てきたというのです。
 しかもそれは、床に落とすとゴトンと音がするほどの大きさだったといいます。

 まさに壮絶としかいいようがないこの馬の生涯ですが、その激動を貫いたのはいうまでもなく戦争です。
 もし戦争に駆り出されなかったら、この馬はのんびりと田畑を耕し、そして南部名物のチャグチャグ馬っ子のお祭りでは、美しく着飾って華やかに練り歩いたはずなのです。

             

 戦争と馬の話を書いてきましたが、ここでどうしても付け加えておきたいことがあります。
 たしかに、この勝山号のように戦場に駆り出された馬も悲惨であったわけですが、かつての日本軍においては人間である兵士はさらに悲惨であったということです。
 というのは馬は貴重な資源=備品=兵器でしたから大切にされました。
 それに比べると人間は一銭五厘の赤紙一枚で駆り出される消耗品にしか過ぎなかったのです。
 ですから兵器の部品を紛失したり損傷があったりした場合、兵士には厳しい罰則が課せられ処罰されました。馬の手入れが不十分だったりした場合もそうでした。ようするに人より馬のほうが大切だったのです。
 また、人である兵士は、自ら死地に飛び込む玉砕のような無謀な作戦に従事させられました。
 玉砕で生き残ると、再度死んで来いと無理やり敵前にさらされるのは水木しげるの『総員玉砕せよ!』(1973年、講談社)にも描かれているとおりです。

 「めんこい子馬」という「平和な」童謡は、実はこうしたエピソード、そして戦時中の現実を背景としていることを再確認した次第です。
 では終わりにもう一つ馬の歌を掲げましょう。

              

 これは「愛馬進軍歌」あるいは「愛馬行進曲」といわれるもので、こちらは純然たる軍歌といえます。
 ただし結構軽快で内容も馬に関するものなので、当時、幼年時代だった私も結構覚えています。

  http://www.youtube.com/watch?v=w8auO5yDrDs

 長くなりますが参考のために歌詞を記載しておきます。

 「愛馬進軍歌」 作詞 久保井信夫 作曲 新城正一  1939年(昭和14年)

   くにを出てから幾月ぞ? ともに死ぬ気でこの馬と?   
   攻めて進んだ山や河?  とった手綱に血が通う

   昨日陥した(おとした)トーチカで? 今日は仮寝(かりね)の高いびき?   
   馬よぐっすり眠れたか? 明日の戦(いくさ)は手強いぞ

   弾の雨降る濁流を? お前頼りに乗り切って?   
   任務(つとめ)果たしたあの時は? 泣いて秣(まぐさ)を食わしたぞ

   慰問袋のお守礼(おまもり)を? かけて戦うこの栗毛?   
   ちりにまみれた髭面(ひげづら)に? なんでなつくか顔寄せて

   伊達には佩(と)らぬこの剣? まっさきかけて突っ込めば?   
   何ともろいぞ敵の陣? 馬よいななけ勝鬨(かちどき)だ

   お前の背(せな)に日の丸を? 立てて入城この凱歌?   
   兵に劣らぬ天晴れの? 勲(いさお)は永く忘れぬぞ

 
 





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