とにかく気になってしかたがないのです。集中しなければならないことをしていても、それが頭に浮かぶともうダメです。それが一日に何度もなのです。そしてその都度、確認せざるをえないのです。
家にいるときにもそうですから、外出中などは余計です。留守の間に何かが起こらなければと祈るような気になってしまうのです。
問題は私の家の柾の枝にかけたキジバトの巣なのです。
縄張り宣言とおぼしき雄の鳴き声が早朝から聞こえたのはどれほど前だったでしょうか。
気付いたら私の二階の部屋の窓の下に新しい巣をかけていました。
よく注意しないと、上からも下からもわかりにくいところです。
巣は出来上がったのですが肝心のキジバトが来ません。
今年は空振りかなと半ば諦めていました。
それがです、真夏日が続くようになったこの8月の初めから、どうも抱卵が始まったようなのです。40℃近くになろうとする暑さのなか、身じろぎもせず巣にこもり続けています。
卵を温めるというより、暑い日差しから守っているといったほうがいいかもしれません。
ちょっと巣から離れた間に、木の葉越しに覗きこむようにしてみたら、白い卵が2個、ちゃんと鎮座していました。
それが私の懸想の始まりでした。
この炎天下、卵は無事に孵るでしょうか。
そしてこの地区の猛暑日が十数日間続いた頃です。
親鳥の下でなにやら動くものを見かけました。
親鳥の姿勢も、前のようにベッタリと座り込むというのとは違うようです。
どうやらヒナが誕生したようですがまだ詳細はわかりません。
親鳥が立ち上がった時です。
その動く小さなものが二つであることが確認できました。
卵は二つとも無事孵化したのです。
苦労して捉えたヒナの写真
孵化して2、3日後、ヒナたちの動きも次第にはっきりしてきたのですが、その日、岐阜には竜巻警報が出て、激しい雷雨も必至という状況になってきました。
もう居ても立ってもいられません。
「日照り続きで一雨ぐらいこないと植物が大変だよなぁ」といってたくせに、今度は、降るな、いや降ってもいいから激しくは降るなと祈るような、というよりまさに祈っていたのでした。
実際のところ、竜巻警報は当たっていたようで、私のところから20キロほどのところで、幼稚園の屋根がひっぺがされるなど突風が吹き荒れ、数軒の家屋に甚大な被害をもたらしていたのでした。そして夜間、私のところでは雷鳴とともに結構激しい雨が振りました。
神様、仏様、キリスト様に孔子様、アラーの神にシヴァの神です。
親鳥よ、これに耐えて子らを守れよ。
で夜が明けて雨も上がりました。
無事でした。しかも雨に耐えて一回り逞しくなったのか、私の人差し指ぐらいしかない小さな頭が二つ、ピョコピョコ活発に動いているではありませんか。
親鳥も含めて、お前たちよく頑張ったなと思わずねぎらいの言葉が口をついたのでした。
ヒナが少し大きくなったせいか親鳥が巣を離れる時間が多くなりました。
その間は、小さなぬいぐるみのようなヒナが寄り添うようにして眠っていたり、急に頭をもたげてあたりを見回したりする様子が木の葉越しに見えて可愛いのですが、今度はそれが心配なのです。
このすぐ裏の田圃にはカラスがよく来ますし、それに、けっこう獰猛なヒヨドリもここへはやってくるのです。カラスの鳴き声を聞いたりするとすぐベランダに出ます。いざとなればカラスと一戦を交える覚悟です。
70年前の幼少時、戦場に出て天皇のために一命を捧げると誓ったこの身、何でカラスごときが怖かろう、「来てみろニミッツ、マッカーサー」です。
やがて親鳥が帰ってくるとホッとします。
これは何年か前 ナンキンハゼをついばむキジバト
昨日などは、昼ぐらいからずーっと親鳥が姿を見せません。
けっこう陽射しが強いなか、ヒナたちは大丈夫でしょうか。
カラスやヒヨドリが襲ってはこないでしょうか。
この日が締め切りという仕事をしながらも、どうしても落ち着けません。
とうとう、近くに親鳥が居ないか探しに出かけました。
結局は見つからなかったのですが、もし見つかったとしても私は鳩語を解さないのですから、「ヒナたちが心配だからそろそろ巣へ戻ったらどうだ」と話すこともできません。
たとえ、それを伝えることができても、相手から「私たちは自然の摂理に従って行動しているのです。ここには、あなたが干渉する余地はありません」といわれたら、返す言葉もないのです。
結局、私ができたことは、ヒナたちがいる巣の下辺りに水を撒いてあまり暑くならないようにしてやることだけでした。
親鳥が帰ってきたのは夕方の5時過ぎでした。
ヒナたちは随分安心したようですが、もっと安心したのはこの私でした。
というのは、これはひょっとしたら親鳥の育児放棄ではないかと疑っていたからです。
疑ってごめん、だけどもうあんまり心配させるなよ。
そして、ちゃんとヒナたちの巣立ちをともに見届けようぜ。
(「あんたに、そんなこといわれる筋合いはない」キジバトの親)
といった次第で私はもうメロメロなのです。
過去、明らかにヒヨドリに突つかれて穴の空いてしまった卵、風雨で巣から落ち、弱り切っているのを見つけ慌てて巣に戻してやったけれど結局は育たず巣のなかでミイラになってしまったヒナ、それらを見ているだけに、今回はなんとかしてちゃんと巣立たせてやりたいのです。
ネットで調べたところではヒナの巣立ちは孵化してから3週間ぐらいだそうですから、うちのヒナたちは9月10日前後には自分の翼で飛び立つはずなのです。
それまで、私の気苦労は続きます。
世の中にたえて仔鳩のなかりせば六の心はのどけからまし 在腹六平
家にいるときにもそうですから、外出中などは余計です。留守の間に何かが起こらなければと祈るような気になってしまうのです。
問題は私の家の柾の枝にかけたキジバトの巣なのです。
縄張り宣言とおぼしき雄の鳴き声が早朝から聞こえたのはどれほど前だったでしょうか。
気付いたら私の二階の部屋の窓の下に新しい巣をかけていました。
よく注意しないと、上からも下からもわかりにくいところです。
巣は出来上がったのですが肝心のキジバトが来ません。
今年は空振りかなと半ば諦めていました。
それがです、真夏日が続くようになったこの8月の初めから、どうも抱卵が始まったようなのです。40℃近くになろうとする暑さのなか、身じろぎもせず巣にこもり続けています。
卵を温めるというより、暑い日差しから守っているといったほうがいいかもしれません。
ちょっと巣から離れた間に、木の葉越しに覗きこむようにしてみたら、白い卵が2個、ちゃんと鎮座していました。
それが私の懸想の始まりでした。
この炎天下、卵は無事に孵るでしょうか。
そしてこの地区の猛暑日が十数日間続いた頃です。
親鳥の下でなにやら動くものを見かけました。
親鳥の姿勢も、前のようにベッタリと座り込むというのとは違うようです。
どうやらヒナが誕生したようですがまだ詳細はわかりません。
親鳥が立ち上がった時です。
その動く小さなものが二つであることが確認できました。
卵は二つとも無事孵化したのです。
苦労して捉えたヒナの写真
孵化して2、3日後、ヒナたちの動きも次第にはっきりしてきたのですが、その日、岐阜には竜巻警報が出て、激しい雷雨も必至という状況になってきました。
もう居ても立ってもいられません。
「日照り続きで一雨ぐらいこないと植物が大変だよなぁ」といってたくせに、今度は、降るな、いや降ってもいいから激しくは降るなと祈るような、というよりまさに祈っていたのでした。
実際のところ、竜巻警報は当たっていたようで、私のところから20キロほどのところで、幼稚園の屋根がひっぺがされるなど突風が吹き荒れ、数軒の家屋に甚大な被害をもたらしていたのでした。そして夜間、私のところでは雷鳴とともに結構激しい雨が振りました。
神様、仏様、キリスト様に孔子様、アラーの神にシヴァの神です。
親鳥よ、これに耐えて子らを守れよ。
で夜が明けて雨も上がりました。
無事でした。しかも雨に耐えて一回り逞しくなったのか、私の人差し指ぐらいしかない小さな頭が二つ、ピョコピョコ活発に動いているではありませんか。
親鳥も含めて、お前たちよく頑張ったなと思わずねぎらいの言葉が口をついたのでした。
ヒナが少し大きくなったせいか親鳥が巣を離れる時間が多くなりました。
その間は、小さなぬいぐるみのようなヒナが寄り添うようにして眠っていたり、急に頭をもたげてあたりを見回したりする様子が木の葉越しに見えて可愛いのですが、今度はそれが心配なのです。
このすぐ裏の田圃にはカラスがよく来ますし、それに、けっこう獰猛なヒヨドリもここへはやってくるのです。カラスの鳴き声を聞いたりするとすぐベランダに出ます。いざとなればカラスと一戦を交える覚悟です。
70年前の幼少時、戦場に出て天皇のために一命を捧げると誓ったこの身、何でカラスごときが怖かろう、「来てみろニミッツ、マッカーサー」です。
やがて親鳥が帰ってくるとホッとします。
これは何年か前 ナンキンハゼをついばむキジバト
昨日などは、昼ぐらいからずーっと親鳥が姿を見せません。
けっこう陽射しが強いなか、ヒナたちは大丈夫でしょうか。
カラスやヒヨドリが襲ってはこないでしょうか。
この日が締め切りという仕事をしながらも、どうしても落ち着けません。
とうとう、近くに親鳥が居ないか探しに出かけました。
結局は見つからなかったのですが、もし見つかったとしても私は鳩語を解さないのですから、「ヒナたちが心配だからそろそろ巣へ戻ったらどうだ」と話すこともできません。
たとえ、それを伝えることができても、相手から「私たちは自然の摂理に従って行動しているのです。ここには、あなたが干渉する余地はありません」といわれたら、返す言葉もないのです。
結局、私ができたことは、ヒナたちがいる巣の下辺りに水を撒いてあまり暑くならないようにしてやることだけでした。
親鳥が帰ってきたのは夕方の5時過ぎでした。
ヒナたちは随分安心したようですが、もっと安心したのはこの私でした。
というのは、これはひょっとしたら親鳥の育児放棄ではないかと疑っていたからです。
疑ってごめん、だけどもうあんまり心配させるなよ。
そして、ちゃんとヒナたちの巣立ちをともに見届けようぜ。
(「あんたに、そんなこといわれる筋合いはない」キジバトの親)
といった次第で私はもうメロメロなのです。
過去、明らかにヒヨドリに突つかれて穴の空いてしまった卵、風雨で巣から落ち、弱り切っているのを見つけ慌てて巣に戻してやったけれど結局は育たず巣のなかでミイラになってしまったヒナ、それらを見ているだけに、今回はなんとかしてちゃんと巣立たせてやりたいのです。
ネットで調べたところではヒナの巣立ちは孵化してから3週間ぐらいだそうですから、うちのヒナたちは9月10日前後には自分の翼で飛び立つはずなのです。
それまで、私の気苦労は続きます。
世の中にたえて仔鳩のなかりせば六の心はのどけからまし 在腹六平
うさぎの話わかります。
そうなんですよね、いくら可愛くともこちらが異常に接近すると自然はするりとすり抜けてゆくのですね。でもその10日間はちょっと胸キュンですね。
親バトがあまり巣にいるのを見かけないので心配しています。しかし、ヒナの方は順調に大きくなってきて、最初の産毛に混じって、キジバト特有のウロコ模様の羽が生えてきたようです。
きっと私の知らない間に給餌が行われてるのでしょう。
カラスには用心で、近くで鳴き声を聞くとベランダに出て四方を睨めつけています。
何やってんでしょうね、いい歳して。
こんな都々逸を思い出しました。
「三千世界のカラスを殺し、主と朝寝をしてみたい」
ちょっと違ったかな?
同じような体験を持つ者として、
その気持ち、分かります。
田舎の山の中腹に建つわがあばら屋に
数年前、小さな野うさぎが居着いたことがあります。
梅雨時、裏庭の雑草がちょうど野うさぎの身の丈ほどに伸び、
身を隠すにも食すにも頃合いのようでした。
いつも口をもぐもぐさせていて、
前へ進むときは2本足でぴょこんと一歩二歩。
人の気配を感じると逃げるのではと案じ
草を刈ることも裏庭に出ることもできず、
仕事部屋のガラス戸越しに息をひそめ、
ただ眺め続ける日々でした。
朝起きるとまず今日もいるなと確かめ、
そのようすを飽かず眺めることから1日が始まりました。
10日ほどでいなくなりましたが、
しばらくは振られたあとの未練のように
いったい何がいけなかったんだろうと、
わが身を振り返ったりしていました。