私がほぼ毎日行っている病院の前に陣取って石焼き芋とわらび餅を売っているおっさんがいる。こんな炎天下でも、欠かさず毎日出ている。
4年前、やはり私の母がここへ入院していた折も、ここで営業していた。後で訊いたがキャリアは長く、とても4、5年どころではない。
無断で写真を撮るのもはばかられるので、断られてもダメ元で、写真を撮らせてほしいと頼んだら、快く承諾してくれた。
「何に使うンや」
と、尋ねるので、正直にネットに載せたいと答えた。
「ネットってのはパソコンのことか」
というので、
「そうですよ」
というと、何か怪訝そうな顔つきだったが、それ以上は追求しなかった。
後で考えるに、自分よりはるかに年上の私が、「ネット云々」などというので、「じじいのくせにハイカラなことをいう奴だ」ぐらいに思ったのではないだろうか。
さて、撮ろうとすると、
「わしがおったのでは邪魔やろう」
といってそこを離れようとする。
私は慌てて、
「いやそのまま、そこにいてください」
と頼み込む。
写真をご覧になってお感じになるであろうが、このおっさんがいてこそ味があろうというものだ。
写真を撮りながら、
「ここはもう長いんですか」
と訊くと、
「この病院ができて以来や」
との返事。
この病院はずいぶん古いので、たぶん、この新しいところへ建て替えて以来だろうが、それでもたぶん20年ほどになるのではないだろうか。
ついでながら、撮影しながらモデルに話しかけ、自然な表情やポーズを狙うなんて、まるでプロのカメラマンみたいだと自画自賛(笑)。
「儲かりますか」
と訊こうかとも思ったがあまり立ち入ってもと思い止めた。
外科などで食事制限のない入院患者や、見舞客、特に子連れの見舞客などが買っているのを目撃したことがあるから、そこそこは売れるのだろう。
しかし、このおっさんの動じない持続力には感心する。
40℃近い暑さにもめげず、タオルと団扇で汗をとり、車の横に陣取ってひたすら客を待つ。病院との協定でもあるのか通りかかる人たちに声をかけるでもなく、ただじっと待つ。
たぶん、それなりのテキ屋としてベテランなのであろうが、こういう人ってどこか好きなんだなぁ。
写真を撮った後も、なんだか楽しい気分で帰途につくことができた。
明日は、これらの写真を別途プリント・アウトして持って行ってやろうと思うのだが、どんな顔をするだろう。
4年前、やはり私の母がここへ入院していた折も、ここで営業していた。後で訊いたがキャリアは長く、とても4、5年どころではない。
無断で写真を撮るのもはばかられるので、断られてもダメ元で、写真を撮らせてほしいと頼んだら、快く承諾してくれた。
「何に使うンや」
と、尋ねるので、正直にネットに載せたいと答えた。
「ネットってのはパソコンのことか」
というので、
「そうですよ」
というと、何か怪訝そうな顔つきだったが、それ以上は追求しなかった。
後で考えるに、自分よりはるかに年上の私が、「ネット云々」などというので、「じじいのくせにハイカラなことをいう奴だ」ぐらいに思ったのではないだろうか。
さて、撮ろうとすると、
「わしがおったのでは邪魔やろう」
といってそこを離れようとする。
私は慌てて、
「いやそのまま、そこにいてください」
と頼み込む。
写真をご覧になってお感じになるであろうが、このおっさんがいてこそ味があろうというものだ。
写真を撮りながら、
「ここはもう長いんですか」
と訊くと、
「この病院ができて以来や」
との返事。
この病院はずいぶん古いので、たぶん、この新しいところへ建て替えて以来だろうが、それでもたぶん20年ほどになるのではないだろうか。
ついでながら、撮影しながらモデルに話しかけ、自然な表情やポーズを狙うなんて、まるでプロのカメラマンみたいだと自画自賛(笑)。
「儲かりますか」
と訊こうかとも思ったがあまり立ち入ってもと思い止めた。
外科などで食事制限のない入院患者や、見舞客、特に子連れの見舞客などが買っているのを目撃したことがあるから、そこそこは売れるのだろう。
しかし、このおっさんの動じない持続力には感心する。
40℃近い暑さにもめげず、タオルと団扇で汗をとり、車の横に陣取ってひたすら客を待つ。病院との協定でもあるのか通りかかる人たちに声をかけるでもなく、ただじっと待つ。
たぶん、それなりのテキ屋としてベテランなのであろうが、こういう人ってどこか好きなんだなぁ。
写真を撮った後も、なんだか楽しい気分で帰途につくことができた。
明日は、これらの写真を別途プリント・アウトして持って行ってやろうと思うのだが、どんな顔をするだろう。
そやけど、さんこ、おっちゃんのこと、おおえんしとるよ。団扇も、履きもんも、ごっつうかっこええわ!
夏ばてせんと、気張ってな!
今一つ思いだしました。
敗戦の翌日の十六日、山手線で、低く声を合わせて「エンヤコラ」とツルハシを振る線路工夫を見て「うーむ」と唸ったのはインテリの花田清輝。
「そ、そんな高いものを」
というのが第一声。
「高くなんかないですよ。パソコンでスイスイですから」
「ほんとにいいのかい」
「そうですよ。返されたって持ってゆくとこなんかないのですから」
「ほんじゃぁ、もらうよ」
と、あまり喜怒哀楽を出さない表情が少しほころぶ。
しかし、写真をもってきて本当によかったと思ったのはしばらくしてからです。
病院の駐車場から車を出すのに少し手間取り、おっさんの車の所を通りかかったときです。
おっさんは私の車を知りませんし、通りかかったことにも気づいてはいません。
そのときのおっさんの姿が忘れられないのです。
なんといささか無造作に写真を受け取ったかに見えたそのおっさん、横断歩道もあって私が停車している間中、その写真を一枚一枚とりだして食い入るように真剣に見入っているのです。
ああ、ふとした思いつきだったが、写真を持ってきてよかったと、とても幸せな気持ちになれたのです。