金沢は東山地区の花街である。
卯辰山から下った辺り、情緒あふれる町並みがよく保存されている。
休日などには観光客であふれるのであろうが、平日でしかも雨模様、往く人もまばらでかえって風情を味わうことができた。
木造家屋と石畳のコラボレーションは鉄とコンクリートとは違った安堵感を与える。
そういえば、「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズをどこかで聞いたような気もするが、この際は無粋なまつりごとの話はよすことにしよう。
名古屋市中区の錦地域では木造家屋の新築は禁止されていると聞いたのは何年前だったろうか。そのうちの一軒、名古屋コーチンを出す料理屋の女将が、「もう、うちの他には一軒しかありません」と寂しげに話していたのを思い出した。
それにしてもこの一角、一軒一軒の佇まいが抑制された中にも適度の華やぎを秘めていて素敵である。けばけばしい看板がないのと、電柱がそびえたり電線がのたうったりしていないのがいい。
下校時間にしては少し遅いようだがランドセルを背負った少女が通りかかる。
花街とまだあどけない少女、しかしそれが絵になる。
もう少し写真が巧ければもっといい絵になったのにと思う。
かつての芸妓さんの検番であろうか、少し開いた二階の窓から三味線の爪弾きが聞こえる。
♪淡路島 通う千鳥の 恋の辻占・・・
辻占売りの呼声が入った歌だろうか。花街には似合いすぎる。
花街の灯りが夕暮れと共に一段と鮮やかになり、料亭の前にはたすきがけの中居さんが出て手桶の水を撒こうとしたが、折からの雨、柄杓で一掬いだけ撒いてやめてしまった。
おかげで絶好のシャッターチャンスを逃してしまった。
雨が上がった。
今宵あたりは浅野川から川霧が立ちのぼるのではないだろうか。
小生が小学生だった40年程前のこと、もう営業を停止していた筏師や山林ブローカーたちの宿屋の板壁がこれでした。しっかりした作りで、小学校の教師が「あの板壁は雨が降ると膨らんで外の湿気を遮断し、晴れると乾燥して部屋の中の湿気を外に出す、優れた建築方法なのだ」と教えてくれたことがありました。
気になって調べてみたら「簓子下見板張り(ささらこしたみいたばり)」というのだそうです。40年かかって宿題を提出したような気分です。
雨の似合う街ですね。
私の記事がきっかけで40年ぶりの宿題が解けたとの由、ご同慶の至です。おかげで私も勉強させていただきました。
「簓子下見板張り(ささらこしたみいたばり)」、なかなか覚えられない名称ですが、それだけにその様式が含む技法を言い表しているのでしょうね。
そうした木造建築の技術が今様のプラモデルのような建造物全盛の中で失われてゆくのは残念ですね。
>さんこさん
お麩屋さんの風情もいいのですがその前の小学生もいいでしょう。この子とても可愛い子なのでもう少し明るくして表情が良く見えるようにとも思ったのですが、そうすると雨の風情が失われてしまうので我慢しました。
この辺りは、西田幾多郎、泉鏡花、室生犀星もゆかりの地なのですが、詳しく探索する時間がありませんでした。