天下のセブン&アイHDが満を持して世に送り出したスマホ決済システム“7pay(セブンペイ)”の、デビュー僅か一か月でのまさかのセキュリティー大失態すごすご撤退、で、はしなくも露呈した流通小売業界の“キャッシュレス化あたふた狂騒曲”ぶり。
経済産業省が中心になって、ここ数年、押しに押されている“キャッシュレス化”、流通小売の現場での人手不足救済のためとか、東京2020に向け、より一層のインバウンド招致のためとか、いやいやすべての末端購買行動を全国津々浦々吸収把握して、全体主義国家ばりにビッグデータ集積するためだとか、いろいろ理由付けされていますが、月河と同じ弱小零細泡沫消費者の皆さん、ぶっちゃけどれくらい利用されていますか“キャッシュレス”。
諸外国に比べて普及浸透が遅れていると言われる我が日本のキャッシュレス決済、月河家では長年消費の主導権を握ってきたのが高齢家族その2とその1で、もちろんクレジットカードすら一般的でなかった時代に人生の大半を過ごしてきていますから、「モノを買ったのに現ナマを出さない」「現ナマが出て行っていないのにモノだけ増える」事に多大なる抵抗を示します。
彼ら曰く「たとえば1万円のモノを買ったら、財布の中がモノと入れ替わりに1万円分寂しくならねばならない」。
モノを買うということにリアルなフトコロの痛みが伴わないのは途方もなく危険である、「カードをやたら勧めて使わせるのは、痛みをマスキングして、より多く、本当は要らないモノまで買わせようとする商売人の手口だから、ゆめゆめ乗せられてはならない」という意味のことを日常よく言っております。
地域的な事情もあるかもしれない。当地は専門店会が発行する割賦信用販売カードが、大手の銀行系・流通系より一足早く若い専業主婦・OL層に普及したため、この時期にすでに“お局さま”年代だった人たちには“クレジットカード=月賦でモノを買う(質素倹約の精神の薄い)人たちの使う物”という、どちらかというと基本ネガティヴなイメージがついて回っているように思います。彼らは月河が1万5千円ぐらいの洋服や機器を分割手数料のかからない2回払いで買うのも感心しない様子です。「いま1万5千円ないなら、5千円ずつ貯金して、3か月後に買え」と言いたいみたい。3か月も経ったら、服ならソールドアウトか時季遅れ、デジタル機器なら次バージョンになってるっつうの。
思うに、彼らは基本、モノが無い、しかも一億総貧乏でおカネも無いという時代に幼少~青春期を過ごしてきているため、「自分の手元にあるカネ以上の値段のモノをいますぐ欲しい、支払い完済より先に手に入れたいと思う、その料簡が人としてけしからん」価値観が骨の髄までしみついているのでしょう。
月河も実はキャッシュレス化にあまり積極的ではありません。
あまりどころか、気が進まないことおびただしい。銃口突き付けられて「キャッシュレス決済にしないと殺すぞ」と脅されたら、その時に考えればいいくらいに思っています。
勤め人時代に勤務先のやむなき付き合いで途方もなくいろんな系統のカードを作らされましたが、高齢組に揶揄されるまでもなく、カードがあったところで結局、銀行口座の額を上回る消費はできません。“今日のいま使っていい金額”だけ口座から下ろして財布に入れ、さっき千円減った、いま千五百円減った、だからあと何千何百円残ってる・・とリアルにビクビクしたり安心したりしながら買い物するほうが、何週か後に“えーッいつの間にこんなにチリツモ?”という額がドーンと口座から落ちるよりも、一周回ってストレスが少ないと思います。
月河はスマホユーザーではありませんが、7payのセブン&アイが発行しているnanacoカードは、4年ほど前、地元近隣にセブンイレブンが移転オープンして間もなく、レジのおねえさんのお薦めでなんとなく作って、いまも保有はしています。「ポイントが付きますよー」と満面の笑みで自信満々にお薦めしてくれたんだけど、チャージと残高の管理が面倒で、ポイントの恩典に浴さないうち、この地元のセブン店舗だけで3~4回使って、ほどなく休眠プールに入りました。
他に当地ではローカル公共交通系カードがあり、こちらは日常の移動・帰宅に必要欠くべからざるものですから、nanacoよりちょっと前、テレフォンカード式磁気プリペイドカードが廃止になってからは、毎日携帯して切らすことなくチャージし続けていますが、交通機関以外の、おもに駅直結の商業施設やモール内のサービス店舗でも電子マネーとして使用できる範囲が年々広がっているにもかかわらず、交通機関乗車料金以外に使ったのは一度か二度です。クレジットカードを登録してのオートチャージも気が進まず、最小単位の千円ずつちょこまか現金チャージして今日にいたっています。
何というか、この、“カード”という名の手のひらに乗るサイズのプラスチックの小片に、或るスキルのある人が或る装置を駆使すれば読み取れる個人情報がぎっしり詰まっていると思うと、落としたり失くしたり盗まれたりしたら・・という恐怖が、カードをケースから出し入れするたび毎に常に脳裏の一端をよぎるわけです。
こういう不安は、高齢組には逆にわからないらしい。
「なに、現金小銭ジャラジャラ入れた財布だって、落とすときは落とすし盗まれるときは盗まれるじゃん」と、コンビニでも美容院でもカードで支払う知人は笑います。「盗まれても読み取られないためにID登録して、10ケタからのパスワード登録して、それをまたノートに書いたりして管理させられてんじゃん」と。
しかしですよ、たとえば、昨今有り得ないけど、現金10万円入った財布を持ってたとしましょう。盗まれたら10万円損するだけですみます。盗んだ10万円に『月河』と名前が書いてあるわけじゃないから、戻って来る可能性もありませんが、使われた先から、泥棒よりもっと悪い人に辿って来られる心配はない。
然るに、カード一枚盗まれたら、カードローンで限度額いっぱい不正使用される以前に、登録してある住所氏名生年月日固定電話番号も盗み読まれる公算が大。
そしてカードにはもれなく金融機関口座が紐付きになっています。
言われるまでもなく、残高だって大してありゃしません。財布にある現金に毛の生えたようなもんです。
しかし口座には履歴がある。入出金が記録されている。当方の買い物した店、場所、電気ガス光熱費、上下水道、納税額、還付額、医療費薬剤費、どこで仕事して幾ら振り込まれたか、ボーナスが幾ら出て前期前々期に比べ幾ら減ったか増えたかまで、見る人が見れば読み取られてしまう。
だからそれを不正に読み取られないようIDやらパスワード認証が・・と前述の知人や世間の多くの人は言うでしょうが、それって月河のカードなら月河だけが知っていて、月河が韓国時代劇みたいに椅子に括りつけられてギーコラ拷問されて吐きでもしないかぎりこの世の誰ひとり知らないまま、というわけにはいきません。カード会社のデータ倉庫に、合い言葉よろしく原簿が保管されているわけです。
これこそパスワードどころじゃなくがっちり十重二十重に電子ロック施錠されているに違いない。と思いたい。
・・・けど、おぉ今般の7payのような事案が、現に発生したではありませんか。世界のどこかから、ロックがどんな巧妙で悪質で暴力的なアクセスを受けて、どれくらいの確率でどの程度の情報を漏洩させてしまうかまったくわからないのです。
キャッシュレス決済は便利です。それは認めます。しかしその便利は何項目もの、知られずもがなの個人情報を白旗かかげてお預け、提供することで担保されている。便利な決済サービスを提供するセブン&アイのような会社、カード発行元が当方の、絶対悪用されては困る、命に代えても守秘してもらわなければ許せない情報を、どれくらい真剣に、スキなく保管してくれているか、信用しようと思えば信用できるけれども、疑問符付け始めれば無限大に疑問符が並んで行く。
今回、月河の年代にとっては1970年代「あいててよかった」のキャッチで認知したセブンイレブンも、いまはこんなサラリーマン然としたおじさまたちが経営陣なんだなあ・・というのもある意味軽い衝撃でしたが、本来“切らして困ったモノ、急に必要になったモノが、深夜早朝でも買える”というきわめてアナログな消費者サービスから始まったコンビニエンスストアの会社が、キャッシュレス電子決済というデジタルの極み、会社のそもそもの出自を思い返せば不得意に決まっているサービスを、急ごしらえでカバーしようとして、案の定大しくじりにしくじったのは腑に落ちる結末の様にも思いました。
やっぱり、性に合わないこと、任じゃないこと、同業の誰よりも隅々熟知している自信がないことには手を出さないに限ります。
月河も、まぁ銃口突き付けられなくてもキャッシュレスユーザーにいずれなるかもしれないけど、カードを出し入れするたびに脳裏をよぎるイヤぁな感じに、慣れないよう、鈍感にならないようにやっていきたいと思います。