イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

日本よ日本

2013-05-13 01:07:46 | ニュース

 夏八木勲さん他界。73歳。 

昨年の原田芳雄さん、地井武男さんに続いて、俳優座養成所花の15期生、円熟の名脇役がまたおひとり、去られてしまいました。

 

ちょうど先月からBSフジで、1975年本放送の丹波哲郎さん主演『鬼平犯科帳』が再放送中で、平蔵の元・剣友、いまは自由人托鉢僧の井関録之助様役は、うーん中谷一郎さんも悪くはないけれど、風呂前のムシロ腰巻き姿でも色気があった(中村吉右衛門さん主演版の)夏八木さんのほうが好きかな…とちょっと思ったばかり。おかしらはまだまだお元気なのですけれど、側近役の皆さんがひとり去りふたり去り、『鬼平』スペシャルも作りにくくなってきました。

 

それはともかく、世間の大方がそうだと思うのですが、月河も夏八木さんの顔と名前がガチ一致したのは1974年のNHK朝ドラ『鳩子の海』が初です。最初は、『キイハンター』や時代劇で見かける精悍な悪役さんが、アレ?なんか優しい人を演ってる…という印象でした。戦災で家族も記憶も失った孤児・鳩子と偶然遭遇して助けてくれる脱走兵・天兵さん。戦争ものなら鬼将校か、憲兵とかのほうが似合いそうなイメージの人が、ヒロインの味方役についてくれるとそれだけで心強く安心して視聴できるもので。“悪役、コワモテ系、くせ者系の俳優さんに善い人役を振る”という朝ドラの戦術は、この頃から存在したわけです。

 

訃報でまず思い出したのが、数多いご出演作の中では特に代表作というほどでもない『人間の証明』の、ホステスと不倫中のダンディなエリートリーマン役と、『上海バンスキング』の中尉さん役。スーツと刑事と武将、あと“制服”を着る役がとにかく似合うかたでした。やはり格闘技での鍛錬の賜物でしょうね。

 

さらに忘れ難いのが『富豪刑事』シリーズの喜久右衛門おじいさま。その後『だんだん』『プロポーズ大作戦』と見てきて、本当に“日本一のおじいさま俳優”さんだなぁと思いました。何たって、カッコいい。“設定年齢より若々しい”だけでなく、現役感がある。若い者、現役世代中心に回っている世間から、まったく落ちこぼれてなくて、キラキラ、ギラギラしているおじいさま。いろいろ気を遣いながらヘコヘコ生きている現役世代より、どうかするとスケール大で高スペックにすら見えるお祖父ちゃん。

 

昭和のドラマで主人公の祖父といったら、大体着物を着て盆栽か詰碁でもやっていて、頑固だったり孫バカだったりのステレオタイプが多かったように思いますが、実際、ここ最近の“ドラマ主人公好適世代”のお祖父ちゃんたちはとても若い。後期高齢者入り何するものぞ。とにかく現役世代が束になってもかなわないのは、彼らが戦中・戦後の峠越え体験者であり、何より“日本の日の出の勢い”の時代を、見聞しているだけではなく、青年として、若手として実地に汗をかいてそこに貢献してきたというところにあります。

 

いくらがつがつしてもすでに敷かれたレールが下り勾配で、物心ついた時からいま現在より上向きの眺望を見ることができないまま、社会人になり、齢を重ね、おじさんおばさんになった、なろうとしている世代には一生手の届かない輝き。それは「この国のいい時代を、俺らが確かにこの手で造った」という秘めたる実感と誇りが、内面から照射する輝きでもある。
 

“カッコいいお祖父ちゃん”はミレニアム以降の日本が、自然必然に生み出したキャラであり、舞台で鍛え斜陽の映画界を突き抜け、お茶の間娯楽の中心となったTVで敵役・正義役ともに“戦う姿が映える男”を演じ続けてきた夏八木さんの円熟期に、天恵のように巡ってきた当たりポジションでした。
 

だからこそ享年73歳はいかにも若く、何度「惜しい」と言っても足りないくらい、本当に惜し過ぎる。月河には一昨年の『ラストマネー ~愛の値段』が、リアルタイム本放送で拝見した最後のお姿になりました。植物人間となってしまった孫に愛情を注ぐ祖父役で、一見、悲運の被害者のようでありながら、“金で歪んで行く、(いまどきの)人間の醜悪さ”を静かに憎む、実はやはり“戦うお祖父ちゃん”でした。
 

夏八木さん亡き後、“キラ・ギラ系”お祖父さまポジションを継ぐ俳優さんは現れるでしょうか。需要はありますからねえ。なんとなく、いい年齢になって髪を黒々させず“自然色”のままにしている俳優さんはそれ狙いのような気がします。近藤正臣さん、秋野太作さん。うんと若いけど西村雅彦さんなども。
 

田村正和さんが“こっち”に来てくれたらおもしろいと思うのですけどね。自然色マサカズ。そろそろ待望されてるのではないでしょうか。怖いもの見たさか。

コメント
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