イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

旅のお手伝い

2009-09-23 16:55:24 | 映画

21日(月・祝)地上波初の映画『おくりびと』を、高齢家族の要望で録画し、昨日、ネットと洗濯の合い間に随伴視聴。

 納棺師という職業を契機に、死や死体にまつわるお話ではあるけれど、陰惨さや悲傷は最小限に抑えられ、むしろ欧州の現代文学中篇を思わせる、素敵に寓話的なファンタジーでした。

←左柱←←←のオールタイムベストに2作掲げてある、ベルンハルト・シュリンクのよう…とはちょっと違うかな。『愛の続き』のほか『アムステルダム』『贖罪』などでも知られるイアン・マキューアンも、書きそうと言えば書きそう。とにかく画面の色調といい、東北地方雪国の地方都市でのロケシーンといい、まことに“新潮クレスト・ブックス”っぽい世界です。日本でなら単館公開で終わる匂いの作品なのに、アカデミー賞その他海外での高評価が先行したのもよくわかる気がする。

何たって怪社長役・山崎努さんの風采と、漂わす雰囲気がいい具合に浮き世離れして通奏低音をなしましたよね。棺桶サンプルが林立するNKエージェント社屋も、よくあんな坂道の古い商家をロケハンしたものだと思う。フジヤマもゲイシャも、ニンジャもハラキリもない、初めて見るニッポンの風景に、欧米の観客評論家たちはひと目で持って行かれたことでしょう。

現実には、遺体に直に触れて拭き清めたり化粧をほどこしたりする仕事は伝統的に禁忌の職業で、子々孫々特殊な家系の、地域社会でも特殊な一画に暮らす人々がエクスクルーシヴに継承してきたのではないでしょうか。いまは昔ほど閉鎖的ではないかもしれないけれど、この映画でのように不特定多数向けの媒体におおっぴらに求人広告出して公募するようなケースはレアでしょう(そこらへんのあり得なさは山崎さんの“怪社長”、余貴美子さんの“怪秘書”感がよく埋めた)。

まして、本木雅弘さん扮する主人公・大悟のような元・オーケストラ団員、たぶん音楽大学卒レベルの高学歴者が、志願して修業して、「迷ったけどやっぱりこの仕事続ける、この仕事で身を立て妻も養う、子供も育てる」と自ら選ぶことがあるかとなったら、限りなくファンタジー、お伽噺に近いと思う。

でも、リアルそっくりのまるごとなぞりではなく、ファンタジーだからこそ多くの人々の心を揺さぶる作品になることもある。様々なご遺体・ご遺族と関わることで少しずつやり甲斐や意義を見出して行く大悟の成長と、北国の季節のめぐる風景を重ね合わせる描写もよかった。合間合い間で、畦道でチェロを弾くモッくんには「『エアーウルフ』かコイツ」とツッコみもしましたけど。深刻な、シリアスなテーマの作品ほど“ツッコみどころを用意する”バランス感覚も大事。

この映画で、本木さんの納棺師役としての華麗な手技に「ワタシも死んだらあんな風にヤッてもらいたい」との観客の声が多かったとは聞いていました。たぶん納棺師さんのお世話になる日がウチでは最も近いであろう高齢組はしかし、「あそこまでプロっぽく、さくさくやられるのはちょっと…」とその点については引き気味。

「願わくば“自力”で、好みの化粧をして髪を整え、お気にの服に着替えて、なんなら前日から断食して内臓もきれいにして横たわり、“いっせーのせー”で死にたい」とほざいていました。

「どうせなら女性の、高橋惠子か木村佳乃みたいな納棺師がいい」とも。いねーよそんなの。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・それはともかく、この作品に出演後ほどなく“おくられびと”になってしまった名俳優さんの顔も見えました。山田辰夫さん、峰岸徹さん。

山田さんは亡妻を送り出す夫の役、峰岸さんは本木さん扮する大悟の幼時に、愛人をつくって家を出てしまった父親役で、孤独に死んで遺体となって大悟の手で納棺されるとき、やっと薄れていた笑顔の記憶がよみがえるという象徴的な役どころでした。これもクレスト・ブックスっぽい、寓話的な顛末です。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ひらいたダンス

2009-06-10 00:30:36 | 映画

今週のアタマ(8日)からでしょうか、『つばさ』に石橋蓮司さんの顔が見えますね。『仮面ライダーディケイド』では白髪ボブの光写真館館長役で不思議な味を出しておられますが、こちらではこえど女将麻子さん(井上和香さん)のお父さん?でやや老けメイク。いつの間にか、NHK大河ドラマには欠かせない重鎮俳優さんのひとりなだけではなく、朝ドラに、親世代以上の老けどころで出ておられても違和感がなくなりましたね。

月河は石橋さんといえばいまだに『探偵物語』などの松田優作さんの僚友というイメージがありますね。実際、ガチ共演された作品は何本あるのか未知ですが、『探偵~』で石橋さんゲストインのエピの予告篇で、松田さんみずからのナレーションで、石橋さんの扮する役のことを、役名でも設定(=殺し屋)でもなく「イシバシレンジ」と言っておられたのがいまだに忘れられないんです。石橋さん当時38歳、松田さん30歳。芝居歴的には石橋さんのほうがだいぶ先輩なイメージですが、あーなんかあの2人、芸風的に仲よさそう…と思ったものでした。

 ひと頃は悪役、ヤクザなど裏社会役、もしくは“怪役”以外が想像しにくかった石橋さんも、いまや頑固親父役や職人気質役、気難しいけど愛すべき上司役に、知能犯のエリート役など実に幅の広い役者さんになられました。ご存命なら今年還暦を迎えられるはずだった松田優作さんの分も、多岐なご活躍を長く期待したいものです。

そう言えば81年の角川映画『悪霊島』で、ワンカット女装する役の石橋さんも忘れ難いものがありますね。劇場で観たとき「え!?何、いまの!」と軽く衝撃が走ったっけ。のちにレンタルビデオが普及し自前でビデオデッキを持って間もなく、あの1シーンをもう一度観たいばかりに、日本映画としては最初に借りたタイトルがアレでした。

NHK朝ドラと言えば、『瞳』のダンス上等・ローズマリーの由香ちゃん役田野アサミさんが『夏の秘密』に参戦。第1話で、撮影会現場に日焼け水着痕つけてきてクビになるモデル役の段階では、役名もありませんでしたが、昨日第6話からは伊織(瀬川亮さん)の働く工作所の跳ねッ返り次女セリ役として、引っ込み思案で溜め込み体質の長女・フキ(小橋めぐみさん)にネジ巻いたり、偽名で潜入調査中の紀保(山田麻衣子さん)に脅迫まがいの取引を持ちかけるなど、結構動きの多い重要な役のようです。

2時間サスペンスなら、「重大な発見しちゃった」と主人公に電話かなんかで告げた直後殺されそうなポジションだけど、そんなに死体の多く上がるドラマとも思えないので、ヒロインの味方になるか敵になるか。

すらっとした四肢の長さと、一見チャラい、キャバい雰囲気が昨年の『白と黒』のサリナ(桂亜沙美さん)を思い出させますが、より地上的というか、がらっぱちな“私は天使じゃない”って感じが田野さんの魅力のよう。私欲とか世に出たい欲のために敵に回るとしても、最後まで敵のままというキャラではない気がします。

“ドレスデザイナーの紀保先生”と認識しても、何はさておきあのときのクビの恨みを!…とは出なかったし。

昼帯ドラマも、何年も、何作もウォッチしていると、出てくる俳優さんがあらかた“この枠常連”みたいな顔触れになって、皆さんプロだけにその都度違ったキャラをちゃんと演じてはくれるのですが、なんとなーく本筋に入る前から新鮮味に欠けてしまい、作品の出来不出来以前にテンションが下がってくるもの。朝ドラ枠からの、特に若手さんの参入は嬉しいですね。演技云々より、画面に新風が吹きます。

田野さんのセリ、そう言えば1話でクビになって会場をあとにするとき、苛立ちまぎれにポリバケツを蹴っ飛ばす腰つきにダンス上等の片鱗がありましたっけ。今後披露場面はあるかな。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どんじりに控えしは

2009-03-28 00:12:47 | 映画

NHK朝の連続テレビ小説『だんだん』もなんだかんだで明日最終話のようです。今朝久しぶりに見たら、祇園の節分の行事“お化け”っていうのがあるんですね。節分の厄除け、招福イベントとしては“恵方巻き”なんて当地でも近年売っていますが、災厄を“人を驚かすような仮装”で退けようという思想なのか、なんとなくキリスト教圏のハロウインを思い出します。花街、遊郭、芸能界を筆頭に、“お客様商売”の世界は、古くからの縁起や季節の節目を特に大切にしますしね。

『白波五人男』風名乗りの涼乃ちゃん(木村文乃さん)が、舞妓でも男装でもやっぱり個人的に一等賞。東京生まれだったんですね。“いけず”“いびり”の自覚があってやってたと、初めて知りましたよ。「いけずの涼乃どす!」本当に可愛かった。

「いけず」ってまさに京都の概念、京都言葉の典型だと思う。共通語の世界での「意地悪」「根性曲がり」とは、同じようで違うんだなあ。全方位キレイキレイの優等生や、見ててストレスたまる辛抱努力キャラは受けない時代だし、劇中、料理のしようでもっともっと魅力的になり得る人物だったのに、途中全然登場しない時期があって本当に残念。

木村文乃さんは宝塚娘役さんによくいるような清楚な目鼻立ちで、大人っぽく見えますが87年生まれ21歳、三倉茉奈・佳奈さんより一歳年下だそうです。女優デビュー作が、孤高の画家田中一村をモデルにした06年の映画『アダン』とのこと。田中一村は中央画壇と断絶して奄美大島で厳しい自然を相手に独自の制作に打ち込み、極貧の果てに没したものの、(後ろ盾のない芸術家によくあるように)死後再評価され近年は“日本のゴーギャン”とも称されている人ですね。木村さんは、一村のクリエイティヴィティが生み出した、一種の“脳内イメージガール”的な役だったようです。奄美ネイティヴに見えるように、撮影クルーの誰より先に島に入って日焼けしたと、公開時のインタヴューでも語っておられます。木村さん当時18歳。うぉーー日焼けしてるんだ。南国奄美だから肌露出も多いんだ。レンタルDVDでぜひ探したいですが、うちの近隣で見つかるかしら。ちなみに主役の一村役は、実生活でも画家として活動されている榎木孝明さんです。

花鶴さん姉さんの京野ことみさんは、むしろパリッ、シャキッ男装のほうが似合ったような気もしますね。男に惚れっぽく、それも格下めな男に「放っておけない」とマジになっては状況に立ち塞がられ、あるいは自分の見込み違いで散る繰り返しで、気がつけば場数だけ踏んだ“恋愛相談の達人”…というキャラも、女性メインのドラマにおいてもっと共感を集める人気キャラになってよかった。『ショムニ』『大奥』と、奥ゆかし&ドンくさ系の京野さんの新境地ともなったはずなのに、こちらも結局、馬の足さんと、男衆さんとのエピがちょっとあったぐらいで、限りなく消滅に近い後退。“人物を好きになってもらう”ことがドラマ制作上の王道なのに、涼乃ちゃん同様、美味しくなりそうなところを軽視してもったいない。

全体に、祇園が薄いまま終わってしまったのはこのドラマの残念なところのひとつです。全員が全員そうというわけではないでしょうけれど、東京以北の地方在住者から見ると、失礼を承知で思いっ切り言わせていただければ、東京以西で、かつ“田舎”に関しては、ローカル色をいくら強調されてもあまり興味がわかないものです。

自分の地元もじゅうぶん田舎なのに、遠く離れた田舎なんてどうでもいい(身蓋無)。

TVで放送されてそぞろ心惹かれるのはやはり京都、大阪、奈良、金沢といった歴史と伝統ある古都、あるいは博多、神戸、長崎といった異国情緒がらみの港町止まり。地方在住者のこういう“地方っぽさに倦んでいる”気分は、東京や大阪のNHKでドラマを作っている人たち、首都圏主体の視聴率リサーチをもとに動いている人たちにはわかりにくいかもしれない。彼らにとってはロケハンやロケで出向く“地方”は新鮮でしょうから。

今作はツインズヒロインの一方が祇園の舞妓という設定で、京舞や花街独特の空気感がたっぷり観られるかなと思ったのも、高齢家族に随伴して視聴始めた動機だったのですが、ここでも“双子設定”が足を引っ張った。

NHK朝に“花街的空気”を期待するほうが無理でしたか。お色気やエロティシズムが御法度の世界ですもんね。昭和の時代の朝ドラなら人気脇役になったかもしれない不器用無骨善良系の康太(久保山知洋さん)を筆頭に、ヒロインとからむ若手男性陣が、全員見事に視聴者のハートを捕らえず、枕を並べて終始スベり通したのも痛かった。

次クール『つばさ』は全47都道府県ロケの悼尾を飾る埼玉県舞台だそうですが、高齢家族、視聴する?と訊いたら「わからん。始まってみないと」とのことです。

いけずの涼乃ちゃん・木村文乃さん、だめんず花鶴さん姉さん・京野ことみさんは、個人的にはぜひ昼帯ドラ主役で、持てる力量と美貌を全開といってほしいところですが、まだ無理かなあ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

193の753

2008-12-22 00:27:26 | 映画

ここではなんとなく『炎神戦隊ゴーオンジャー』について書く機会が多くなっているのですが、スーパーヒーロータイム後半担当『仮面ライダーキバ』も、ちょっと目を離すと、(いい意味で)とんでもないことになっていますな。

特にイクサ名護さん(加藤慶祐さん)がここまではじけきってくれるとは、登場初期に誰が予想したでしょうか(おもに今日2145話終了後のプレゼント告知中心に見て言ってますが)。

もともと仮面ライダーはオリジナルが“改造人間”でしたから、全方位に健康的で明朗快活、善良フレンドリーなキャラであることは稀で、どこか哀愁やトラウマを背負っていたり、市民生活になじめそうになく友人も少なそう、思想や言動も変身前から奇矯だったりするのがつねではあり、イクサ名護のような“唯我独尊”あるいは“正義原理主義”ライダーも毎作1キャラは必ず登場するのですが、序盤はヤなヤツキャラだった名護さんの“おもしろ開花”は、『龍騎』におけるおカネ大好きナルシスト弁護士ゾルダ北岡(小田井涼平さん)や、『カブト』におけるやさぐれブラザー・キックホッパー矢車さん(現ゴーオンゴールド徳山秀典さん)のポジションシフトを思い出させるものがあります。或る週の、或る特定のエピソードが、目で見て「ここから」と指差できる転機になったということではなく、デフォルトの設定が深化し、俳優さんの役読み込みともどもこなれていくうちに、自然と重心が移動していき、ベクトルができてきたということでしょうね。

『キバ』も『ゴーオン』以上にアイテム数投入面でも大攻勢をかけていますが、おかげで家計簿がレッドになったお母さん、顔面がブルーになったお父さんも多いことでしょう。来年こそなんとか帳尻ブラックに戻るといいですね。

今日の放送終了後は、例年ならDVDリリースのみで公開になるヴァーサス・シネマ『ゴーオンジャーvs.ゲキレンジャー』が、来年124日から劇場公開になるという、聞き捨てならない告知もありました。ついこの間、買うに事欠いて60型フルハイビジョンTV買っちゃった知人宅で『デカレンvs.アバレン』を再生して見て、いちいちあまりにでかいので、あきれたり感動したりしたばかりですが、今作はいきなり映画館の大スクリーンで皮切りですか。そいつは春から縁起がでかい。

例年ならば40分ちょっと止まりのヴァーサスOVAも、劇場版としてのお披露目となれば若干尺も長くなるかな。昨年の『ゲキレンジャー』に関しては、本編放送中は大半脱落だったのですが、最近某動画サイトで、セクシーでデレでブリなメレさん(平田裕香さん)を見つけ、彼女のキャラクターソング『ちぎれた羽根』とともにいまさらながら心惹かれ始めているんです。あの、くるくるストローみたいなヘアスタイルがなんとも“女子ゴコロ”をくすぐる。とことん細くて小顔なプロポーションに、筆で描いたような目鼻立ちの平田さん、まさにアニメの立体化。

本篇では最終回前に美しく退場してしまった理央様(荒木宏文さん)・メレさんに、無間龍ロンの臨獣殿チームも予告に登場、初期からの『ゲキレン』ファンにも劇場公開からのスタートは嬉しいことでしょう。仄聞するところでは、中村雅俊さん主演の映画が製作会社の資金ショートで公開頓挫してしまい、全国東映系の配給スケジュールに1クールの空白を生じたアクシデントが直接の原因らしいですが、今作の動員成績が良ければ戦隊ムービー、恒例の夏休みに加え、正月も劇場公開が定例になるかもしれません。実績貢献のために、年明け暇と資金を作って映画館に走るか。

…しかし、例年ヒーローの交代期は、リリースラッシュで手元資金が“どレッド”になるしなあ。悩ましいところです。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フライドチキンも

2008-10-29 20:00:47 | 映画

『愛讐のロメラ』で恵(北原佐和子さん)が銀座に開店したバー“Megu”、恵さんが接客するカウンター立ち位置の、ちょうど彼女の右肩の上ぐらいにワイルド・ターキー8年のボトルがいつも見えて、つい「ママ、それ一本入れて、ダブルね」と言いたくなってしまいます。

ワイルド・ターキー。なんと骨太にデンジャラスでアドヴェンチャラスな、エキゾティシズムに満ちた名前でしょう。80年代を通じて憧れのラベルでした。週末コイツをトットッとグラスに注ぐ数秒感の至福のために自分は生きている…と信じて疑わなかった時代が、確かにありました。とにかく101proof、日本流に言えば50.5度ですから、“明日何もないという夜限定”。

シングルよりダブルで飲むほうが、この銘柄独特の甘みを引き出してくれると教えてもらったお店では、ドスンと底厚なオールドファッションドグラスに球形の氷をこれまたドスンとまず入れて、豪快に注いでくれたものです。度数と考え合わせると信じられないんですが、本当に甘いんですね。樽熟成のたまものでしょうね。ウッディ系の甘さ。

「今宵はグラスに、地球をひとつ」「だんだん小さくなって行く」なんて国産のTVCMもありましたっけ。

あんまり小さくならないうちに干すのが、もちろん甘みを存分に堪能するコツなのですが、さすがに2杯以上空けると、翌日午後3時頃まで脳の中ででっかい地球がグイングイン回転してましたね。

4時過ぎると「よし、スッキリしてきた、また行くか」ってなるんですけど。美味しいお酒ほど、量と頻度を過ごさないこと。

70年代、先日他界したポール・ニューマンとロバート・レッドフォード共演の映画『スティング』を初めて観たとき、話の筋や評判の30年代ファッションより、レッドフォード扮するフッカー行きつけのダイナーの、通りをはさんだ向かいの建物の壁に掲げられた、酒の広告看板にどうしても目が行って仕方がありませんでした。当時まだ中学生だったはずですが、その看板で、ボトルが実に美味そうな角度で傾けられて、実に美味そうにグラスが待ち受けているわけですよ。「酒の飲める年になったら、絶対あの看板のヤツを買って味わってみよう」と心に決め、80年代に入ってレンタルビデオで確かめたら、エズラ・ブルックスEzra Brooks)という銘柄とわかりました。

数年後、研修兼仕事兼遊びでアメリカに行けることになり、帰国前免税店でエズラのスタンダード黒ラベルと、101proofのオールドを限度いっぱいまで買ったことを思い出します。「初海外旅行の、女性の土産の中身とは思えない」と同行メンバーに呆れられました。

帰宅して深夜ひとり積年の待望の封を切るときのエキサイト感といったら。某小説家の、アイドルへの求婚の台詞じゃありませんが「やっと会えたね」ってなもんです。

…でもま、本物のケンタッキーストーレートバーボンウイスキーの甘ーい旨さがわかるためには、そこからさらに23年、ワイルド・ターキー開眼の日を、いや夜を待たなければなりませんでした。

当時はバブル景気の引き金になったと言われるプラザ合意の頃で、エズラもWTもいま種類安売り店で売られている価格の、ざっと24倍はしていたはずです。

映画やドラマの劇中で酒のラベルが登場すると、本当に美味しそうに見えますね。『処刑遊戯』で松田優作さんからりりィさんが教わったのはオールド・クロウだったかな。当時はいまのような、そのものずばりカラス(Crow)の絵じゃなく、もっとシンプルでカントリーな、愛想のないラベルだったはずです。こちらは40度。慣れるとジュースのように飲めます(よいこのみなさんはまねをしないようにしましょう)。

スティーヴン・キングの、映画にもなった『Apt pupil』(邦訳題『ゴールデンボーイ』新潮文庫)の元ナチ収容所副所長・クルト・ドゥサンダーはアーサー・デンカーと名乗ってアメリカ隠遁中、AAことエンシェント・エイジを愛飲していたという一節がありました。原作小説のペーパーバック『Different seasons』はやはり初めてのアメリカ渡航時に、現地の近藤書店みたいな店で入手し帰りの機内で「さばけたナチだなあ」と思って読んだものですが、98年の映画化版での、イアン・マッケランが演じたらしいドゥサンダーにはそんなシーンはあったのかな。こちらは未見です。

ところで、類型的若者言葉で“空気が読めない”を“KY”と表記する向きがありますが、Kentuckyストレートバーボン愛好派にとっては失礼千万火がバーバー、いやボーボーですな。せめて“空気が読めNい”→“KYN”にするとか。

…ますますまぎらわしいか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする