から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

ワイルド・ローズ 【感想】

2020-07-04 11:41:54 | 映画


「何でカントリー音楽が好きなの?」という問いに、主人公はこう答える、「3コードの真実だから」。これはいったいどういう意味なのか、その疑問は最後まで晴れなかった。本作においてそんなことは重要ではないのか。日本ではほとんど馴染みのない音楽ジャンルだけに、海外の多くの人が愛する理由を少しでも理解したかった。昨年、アメリカに初めて行ったとき、エルパソのテレビから流れていたカントリー音楽らしきライブに大勢の人々が熱狂していたのを思い出す。
本作の舞台はアメリカではなく、スコットランドのグラスゴー。刑務所から出所したばかりの女子が、カントリーを唄いまくる。ものすごい歌唱力。刑期は1年だったらしい。彼女の犯罪歴も明らかにされないが、彼女の振る舞いを見てれば何となくわかってくる。
刑務所暮らしで周りに迷惑をかけたこともいざ知らず、何も成長していない模様。礼を礼で返すことが当たり前の感覚になっている日本人の自分にとっては、彼女の利己的な態度や言動は目に余るほどに引いた。「どういうこと??」と何度も頭をかしげる。独り身ならまだしも、2人の幼い子どもがいる。幸いにも主人公の母親がしっかりした人で救われる。
主人公の変化や成長が置き去りにされたまんま、「好き」や「夢」というだけで歌唱パフォーマンスが披露されるので、気分が高揚しない。こっちは突き抜けたいのに、もやもやが足を引っ張る。主人公の個性の描き方だけでなく、育児と仕事と夢の選択の場面でも、現実的にいくらでも両面をカバーするやり方があるのに、何かを犠牲にする道しか用意しない。これまたモヤモヤ。だから、彼女が夢を掴む最大のイベントも、「大事なものに気づいたから」ではなく、「無責任」という見え方がせり出してしまう。
サクセスストーリーではなく、自分探しなドラマとして描かれた点は良かった。「責任を持つことと希望をもつこと」、かなーり回り道をしたが、ようやくたどり着いた答えにグッときた。あと、子どもが親にしてくれるパターンは万国共通。子どもたちが本当にかわいい。聖地ナッシュビルで彼女のささやかな夢は果たされ、グラスゴーの地でカントリーと生きる。ラストのパフォーマンスは圧巻。やっぱ音楽の力が偉大。
【65点】




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ハニーランド 永遠の谷 【感想】

2020-07-04 07:44:16 | 映画


舞台となるマケドニアの場所を調べる。ギリシャの上、ブルガリアの左に位置する国だ。おそらくこの映画を見なければ知ることがなかった世界だろう。水も電気も通っていない乾いた山間部で、自然養蜂で生計を立てる女性のドキュメンタリー。主人公の彼女の身に起こることは嘘のような本当の話で、文明から離れた環境で繰り広げられる「蜂」を巡る物語は、ドラマチックな劇映画そのものであり、まるで現代の神話だ。
年老いた母親と2人で静かに暮らす主人公の家の隣に、子だくさんの家族が住み着く。多くの牛たちを引き連れて放牧をするつもりだ(牛たちの扱い方が酷い)。
「半分残して半分いただく」をモットーに、自然と共生してきた主人公の生活に変化が訪れる。隣人の家族と衝突するかと思いきや、彼女は寛容ですぐに家族と仲良くなる。独身で子どもがいなかった彼女にとって子どもたちが可愛かったのかもしれない。養蜂のやり方についても惜しげもなく教えてあげる。最初は順調だったが、子だくさん家族のもとに”拝金”の悪魔が接触し、すっかり毒されてしまい、蜂たちとの約束ゴトを破る。ついには、主人公と蜂たちとの間で築かれた関係をも崩壊させる。
演出なき演出に圧倒される。登場人物たちにカメラは肉薄するも、物心がついてない小さい子どもに至るまで、それを異物として見ていない。まるで、その場に居合わせて傍観する自分が透明人間にでもなっているかのよう。土埃を上げながら、大暴れして、生傷が絶えない子どもたちの生々しさよ。寝たきりの母親の介護をしながら、この場所から出ていけない主人公の複雑な心情もしっかりとらえる。人間だけでなく、意思疎通できないはずの蜂たちの怒りの感情すらも描写する。
被写体との信頼関係を築くというドキュメンタリーの在り方を感じながら、おそらく偶発的であっただろうドラマをカメラに収めることに成功したドキュメンタリー。
主人公の彼女はこの映画の成功で、生活が一変したのかも。
【75点】
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