
海外ドラマ「ナルコス メキシコ編」を見終わったので感想を残す。
計10話。
今年も沢山リリースされたNetflixのドラマシリーズの続編。個人的に今年は期待値を下回るケースが多かったけど、「ナルコス」は裏切らなかった。
コロンビアの帝王「エスコバル」を描いたシーズン1、2、エスコバルなき後、「カリ・カルテル」を中心に戦国時代を描いたシーズン3。
新章となる本作は、舞台をコロンビアからメキシコに移し、新たな物語が始動する。引き続き、実話がベースになっていて、麻薬戦争のスリルとダイナミズムはそのまま引き継がれる。お馴染みのメロディアスなオープニング曲はそのままに、背景の映像がメキシコ仕様になっていて素敵。

満を持して、メキシコ・カルテルの登場。
神ドラマ「ブレイキング・バッド」をはじめ、最近では映画「ボーダーライン」の続編でその存在感を誇示したばかり。今なお、アメリカ国家が「敵」として位置づける巨大な犯罪組織である。
本作は、そのカルテルがメキシコで初めて誕生した起源を描いている。主人公はメキシコ初の麻薬王となったミゲル・アンヘル・フェリクス・ガジャルド(「ミゲル」)。そして、もう1人、アメリカの麻薬取締局(DEA)の精神の礎を築いた男、キキ・カマレナ(「キキ」)である。2人とも実在実名の人。
1980年代初期、当時のメキシコはコカインではなく大麻(マリファナ)の産地。コカインはあくまでコロンビアが主産地だ。タバコの要領で手軽に吸引し、国によっては合法化されている大麻に対して、コカインは強い幻覚作用と中毒性を持つという違い。
元警官で犯罪組織との血縁関係もないミゲルがメキシコの麻薬社会で頭角を現したのは、先見の明と優れた商才による。種なし高品質の大麻を育てることに成功。競争力の高い商品を持ったことと、それまで抗争しバラバラだった組織を1つにまとめ、合理的な運営を実現する計画を打ち立てたことだ。その後、あれよあれよと、裏社会の「ゴッドファーザー」に上り詰める。それまでにかかったエピソードはたったの1話から2話。テンポが早いが、物足りなさはない。
一方のキキは、メキシコからの移民であり、アメリカのDEAで働く。懸命に麻薬捜査に奔走するも出世できない状況に業を煮やし、故郷のメキシコに異動、やがて彼の運命は大きく変わっていく。興味深いのは、ドラマや映画などで華々しい活躍を見せるDEAが、当時の警察組織の中ではヒエラルキーの最下層にあったということ。意気揚々とメキシコのグアダラハラ支局に赴任するも、容疑者の逮捕権はなく、情報を収集してアメリカ本国に流すのみ。
ホテル事業を隠れみのにして、大金を動かすミゲル。違法な商売に手を染めているものの、暴力による支配を避けており、見た目は真っ当な事業を展開している。彼の麻薬事業により、多くの雇用が生まれているのも確かで、強い産業を持たないメキシコにおいては彼は救世主だったようにも思える。そんな彼のビジネスを正確かつ円滑に進めるうえで欠かせないのは、警察組織の買収だ。彼が経営するホテルのワンフロア全てが、警察への”給料支給”を担当する部署というから驚き。
シーズン1~3のコロンビアでも、警察を買収するシーンはあったけれど、その多くで対立、敵対する立場として壮絶な戦争を繰り返していた。今回のメキシコでは、警察どころか、軍隊を動かす大臣クラスとズブスブの癒着関係にある。かなり脚色されていると思われるが、当時のメキシコ政府の職権乱用と汚職ぶりが半端ない。正義なき治安というべきか、金の為なら大量殺人も厭わない、権力をもったギャングといった具合だ。彼らに金を支払う側のミゲルであるが、立場は対等ではなく権力にひれ伏す主従関係といえる。ここが本作の大きなポイントだ。

ミゲルを演じるのはディエゴ・ルナだ。麻薬王にしては迫力不足のキャスティングと思われたが、回を追うごとにその意図がわかってきた。ミゲルは国家権力の理不尽な圧力に屈し、トラブルメーカーの部下たちに振り回され散々な目に遭う。実の父親のように慕っていた地元の有力者(知事)との関係性も、自分が”金ヅル”に過ぎないことを思い知る。苦悩する日々のなか、彼はコロンビア産のコカインの存在を知る。大麻ビジネスで不自由のなかった男が、リスクを負ってコカイン事業に手を出す。その理由は何か。。。未熟で弱かった男の成長ドラマが見えてくる。
「感情の起伏の激しい男」と「実業家の男」。ミゲルがコロンビアのカルテルを紹介してもらう際、形容された2つの表現だ。前者がメデジン・カルテルのエスコバルで、後者がカリ・カルテルのロドリゲス兄弟。これまでのシーズンで断片的にしか描かれてこなかったコロンビアとメキシコの協調関係が本シーズンで明らかになる。賢明なミゲルはカリ・カルテルに接触することを選ぶが、さすがはエスコバル。コロンビアに赴いたミゲルを強引に引っ張りだす。エスコバルが1シーズンぶりに登場。演じるヴァグネル・モウラがやっぱりカッコいい。圧倒的な迫力。ミゲルとの対面シーンに思わず鳥肌が立った。

一方、DEAのキキは、組織に大きな変革をもたらす。強い正義感ゆえ、隠れて捜査を実行。そこで大きな事実を知ることになる。キキの捜査によって得られた証拠、そして情熱が、無気力なDEAに火をつける。ところがアメリカ本国の上層部がそれを歓迎しない。麻薬によって潤っていたメキシコの財政、メキシコはアメリカに借金を返している最中であり、その返済が滞ることを懸念してのこと。実質、アメリカもメキシコの麻薬ビジネスを黙認する形だったのだ。但し、これは「大麻」であったからこそ。「コカイン」となると話は変わってくる。
キキを演じるのは、マイケル・ペーニャ。ミゲル役のディエゴ・ルナ同様、ハリウッドに活躍するメキシコ人俳優だ。今夏公開された「アントマン&ワスプ」で喜劇センスを披露していたが、本作では笑いなしのシリアスな熱演でドラマの”正義”を牽引する。

ミゲル率いる麻薬組織同様、DEA側にとっても、最大の敵はメキシコ政府や警察組織となる。捜査の妨害は勿論のこと、問答無用の武力攻撃を仕掛ける。これを見ると「ボーダーライン」の中盤の襲撃シーンも説得力を帯びて見えてくる。このドラマではメキシコ政府の悪党ぶりが際立って描かれる。現地のメキシコの人たちはどんな風に本作を見ているのか気になるところ。キキたち、メキシコ駐在のDEA捜査官は本国の援護を得られず孤立無援の状態で戦うことになる。この不利な状況を打開していく過程も大きな見どころだ。
大麻からコカインへ。値段は15倍で容積は6割という、白い粉の”ダイヤ”。コロンビアのカルテルと組み、ミゲルの組織はより強大になっていく。そして待ち受けるラスト。実際に起こった歴史的事件であるが、自分は知らなかったため、大きな衝撃を受けた。このシーズンで描かれてきたDEA捜査官たちの功績が、その後のアメリカにおける麻薬捜査の大きな転換点となったようだ。
本シーズンにおいては、敵となるメキシコ政府の権力に、主人公らが振り回されるという構図。各キャラクターが能動的に攻めていた、これまでのシーズンと比べるとフラストレーションを感じるし、キャラクターの個性も弱く見える。もうこれは仕方のないこと。Wikiで、この時代の麻薬戦争について調べたら、まだまだ序盤とのこと。のちにエスコバルと並ぶ麻薬王として名を轟かすことになるホアキン・グスマンこと「エル・チャポ」もドラマ内に登場しており、まだミゲルの元で下働きをしているところだ。これからもっとスケールアップしていくに違いない。
確固たる「力」を得たミゲル、そして、語り部として登場していたナレーターの正体。シーズン2の製作は既に決まっているようで、来年の楽しみがまた1つ増えた。
【80点】
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