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ドラマ「火花」 【感想】

2016-06-19 20:00:00 | 海外ドラマ


面白い生き方をする人間を「芸人」と位置づけ、その象徴である「神谷」に主人公の「徳永」は強く憧れる。タイトルの火花はこの2人の関係性を例えたと想像する。しかし、ドラマ版を観て「火花」のもうひとつの意味を感じる。それは漫才そのものである。ボケとツッコミという役割をもった2人の掛け合いによる摩擦が「火花」となって観客を魅了する。

会員数が伸び悩んでいると噂されるNETFLIXが起死回生の一打とばかりに、昨年最も話題をさらった原作本をドラマ化した。TVCMもバンバン流れていることからその気合の程が見える。

原作は既読。NETFLIX内の評価星を見る限り、評価は芳しくないようだが、原作「火花」の映像化としてはこれ以上ない成功作だと思う。自分は原作本よりも感動してしまった。原作者の又吉もお世辞抜きにして本作の出来映えに満足したのではないか。

描かれるのは芸人という生き方だ。原作では徳永と神谷の2人の会話劇が大半を占め、10年近い時間経過と共に「芸人とは何か。お笑いとは何か。」を追い続ける様子が印象として強く残った。おそらくそのまんま映像化すれば2時間くらいで映像化できるボリュームだと思われる。しかしNETFLIXが選んだのは全10話の連続ドラマだった。原作では描かれなかったものの、彼らの背景にあったであろうディテールの深堀や、芸人という職業の「あるある」を盛りつけることが可能になった。そして、その肉付けがとても素晴らしかった。

芸人として成功を夢見る主人公の青春ドラマが中心にあり、同じように芸能界で成功を夢見るミュージシャンの隣人との交流、元バイト仲間で主人公を応援する美容師女子との友情、主人公が所属する事務所との関係、幼なじみであり親友でもある相方との絆、先輩・後輩という芸人界特有の上下関係。面白いヤツが売れるのではなく、客にウケるヤツが売れる芸能界のルール。自分たちのスタイルにこだわるオリジナルの世界観は、玄人に好まれても、観客の最大公約数を取らなければ何の価値も持たない。売れる同期と売れない同期の残酷な背景。一時の話題や勢いに乗っかり、あっという間に持ち上げるも、手を引くスピードも早い芸能界の非情ぶり。。。。

原作よりもドラマ版のほうが、普段テレビを通して身近に感じている芸人たちの裏側のリアルが生々しく描かれている。アメトークなどのバラエティ番組等で芸人たちの逸話を興味深く聞いている自分としては堪らない内容だ。

また、5人の映画監督による演出も見事だ。中でも個人的には5、6話を担当した沖田修一監督の演出がツボだった。人間同士のコミュニケーションに潜む間(マ)をユーモラスに描き出す手腕はやはりピカイチだ。沖田監督ならではの「お食事シーン」もしっかり抑えていて嬉しい。そして何といっても、6話目に用意される「スパークス」の漫才長回しシーンが圧巻だった。観客である聞き手の視点ではなく、笑いの発信者からの視点が貫かれ、ボケとツッコミの激しい応酬によるしゃべくりのダイナミズムを見事に活写。そこには確かに「火花」が見えた。地上波のTVドラマでは絶対にお目にかかれない妙技だ。

本作の成功要因はもう1つ。妥協のないキャスティングである。徳永を演じた林遣都と神谷を演じた波岡一喜は彼らのインタビュー通り、これまでの役者人生をすべてぶつけたような「渾身」の演技をみせる。どっからどう見ても原作の徳永と神谷だった。漫才素人であったはずの林遣都が主人公の成長とともに漫才がどんどん巧くなっていくのがわかる。第10話のクライマックスの漫才シーンに感動の波が押し寄せる。ラストのオチは原作通りだったが、どうにも違和感が拭えなかったその描き方が彼らの名演によって、強い説得力があるものとして落ちてきた。彼らのパフォーマンスを見るだけでも価値がある。ドラマというより映画だ。

そして彼らと共に強い印象を残したのは神谷の相方を演じたお笑いコンビ「井下好井」の好井まさおだ。驚くほど演技がめちゃくちゃ巧い。彼の男泣きシーンにこっちも泣かされてしまった。本作をきっかけに役者としてのオファーが増えると思われる。神谷の相方を演じた「とろサーモン」の村田秀亮も自然体で非常に良かった。吉本が本作の製作に関わっていることがプラスに作用していて、吉本芸人がわんさか出ているが、作品の色を邪魔することなく、むしろ芸人色の濃い吉本芸人を配したことでドキュメンタリーを見ているような空気感を作りだした。

地上波のテレビドラマとは格の違う完成度を見せつけ、さすがNETFLIX作品といったところだが、NETFLIX内の他の海外ドラマと横並びで見てしまうと少々酷だと思う。決定的な違いは作品の引力の強さであり、展開の起伏を前提とした「次の回を早く見たい!」という欲求は低い作品だ。おそらく本作の評価があまり高くないのはそのせいだと思われる。しかしながらそれはドラマの問題ではなく、文学性の高い原作の問題である。原作本が記録的に売れたのはその作品の評価よりも話題性が先んじたからだろう。その意味では映画版でこそ、映像化に適した原作だったのかもしれない。個人的には十二分に楽しめたけど。

【75点】

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