から揚げが好きだ。

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エクス・マキナ 【感想】

2016-06-26 08:00:00 | 映画


まるで白昼夢のような光景が続く。緑の壮大な自然のなかに佇む無機質な研究施設。そこで行われる美しい肉体を持った人工知能との交流。非現実的で幻想的な空間に、人間対人工知能(AI)の情念と疑念がせめぎ合う。スタイリッシュなビジュアルとスリリングなストーリーテリングに引き込まれる。なるほど本作が昨年海外で絶賛された理由がよくわかる。が、なかなか思考力が試される映画で、十分に租借するにはリピートが必要だ。それにしても日本での公開が遅過ぎ&公開スケジュール狭すぎ。

検索エンジンを運営する会社に勤める青年が、社内懸賞(?)に当選し、その会社の社長が暮らす人里離れた別荘に招かれる。その別荘の実体はAIを生み出す研究施設で、主人公の青年は社長の依頼を受け、AIとのコミュニケーションを通して「人と同じ思考力を持つか」を計るチューリングテストを行う。。。。

まず特異なのは、そのAIが人間と同じ肉体を持っていることだ。それも女性という性別が与えられているのがミソ。チューリングテストの目的だけを考えればAIに実体を持たす必要はないはずだが、双方の外見を対峙させることに意味があり、テストの真の目的が明らかになっていく。フェイストゥフェイスの会話において、人は無意識に相手の表情からその人の個性を探ろうとする。相手は何を考えていて、自分にとってどんな人であるのか。その判断において相手の外見は大きな比重を占めていて、先入観として判断を鈍らせることもあれば、相手を知る前のアドバンテージとして興味関心の意識へ繋げる。

本作で登場するAI「エヴァ」は、主人公のタイプの女子だった。相手は命を持たないマシーンであり、テストの対象でしかなかったが、その美貌と知性に主人公は魅了されていく。主人公の感情が流れ出し、エヴァの思わぬ告白に翻弄され、真実の在処がどんどん不透明になっていく。純朴な青年、高圧的な社長、ミステリアスな女子AI、従順な女子AI。たったの4人という登場人物のプロットが見事で、それぞれの思惑を観察する視線が自ずと鋭くなる。密室サスペンスとしても見応え十分だ。

先日、NHKで人工知能の進化を取り上げたドキュメンタリー番組が放送されていて、その内容がめちゃくちゃ面白かった。世界最強の囲碁の棋士がAIにボロ負けした原因について解説されており、そのAIのメカニズムからさらなる今後の進化と人類にとっての危険性(暴走)を示唆するものだった。人間の知能を越えることは勿論のこと、人間を支配することも否定できないことがわかった。本作で描かれるのもAIの暴走であるが、我々と同じ肉体を持った人物像として描かれているため、その暴走の前提にあるのがAIの「感情」の芽生えと捉えられやすい。

現在のAIは自らの意志によって「生き延びたい」などの判断はできない。本作のAIは「検索エンジン」がプログラムのベースになっていて、おそらく人間たちの欲望や好奇心を大量に取り込んでいるはずだ。よって保身のためにエヴァが下した決断にも必然性を感じる。その結末は正直予想できる範囲であったが、そこに本作の狙いはないだろう。先の読めないスリラーとしての位置づけだけでは勿体なく、AIを通して見える人間の存在意義や倫理観についての考察が本作の最大の魅力と考える。しかしその考察を楽しむに至るまでには、もう1回観なきゃダメだ。

エヴァを演じたアリシア・ヴィキャンデルが凄い。硬質で動きの少ない表情のなかに複雑な感情の起伏が透けて見える。そして主人公を惑わすことも頷ける妖艶さが滲み出ている。今年のオスカーで助演女優賞を受賞したばかりだが、本作によるノミネートがあっても良かったのではないかと思う。むし本作こそ相応しい気が。。。社長演じたオスカー・アイザックは本作でもそのカメレオン俳優ぶりを発揮する。役者って面白い仕事だなーと再認識する。従順AI女子とのヘンテコでキレキレなダンスシーンがツボだった。

「スターウォーズ~」など名だたる大作映画を押しのけ、本作がオスカー視覚効果賞を受賞した。その結果は実に痛快だったが、本作の技術力もさることながら、視覚効果の見せ方を含めた演出、ひいては作品力に惚れたアカデミー会員たちが票を入れたものと想像する。「俺たちが受賞して良かったの?」とガチで驚いていた本作スタッフの授賞式での様子が可笑しかった。いやいや文句なしでしょう。

実際に本作のようなAIが日常的に社会に普及するのにはまだ時間がかかりそうだが、AIを人類が支配するという概念は捨てたほうが良さそうだ。人類を助け、人類に新たな可能性を与える、もう1つの人種として共存していくことが正しい選択ではないかと、勝手に想像を巡らす。

【70点】


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