から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

コーダ あいのうた 【感想】

2022-01-29 12:29:14 | 映画


否応なしの感動作。
泣かされるとわかっても泣かされる。

4人家族のうち、主人公以外の3人が聴覚障害者。家族はとても仲良しだ。だけど「明るい家族だね」と楽しむよりも、主人公が背負う重荷があまりにも気の毒で、ずっとフラストレーションが溜まってしまう。聾唖の人たちが、健常者のコミュニティでどのように暮らすか。多様性に対して寛容で当たり前とするアメリカだが、偏見はなくともコミュニケーションがとれないという弊害は普通に大きい。手話と言葉を操る主人公は、一般社会と家族を結ぶ、たった1つの「パイプ」という状況。オリジナルの「エール!」が酪農だったのに対して、本作は漁業という設定に置き換えることで家族の境遇をより際立たせる。小さい頃より、家族をサポートすることが当たり前だった主人公だったが、歌唱という自身の才能に目覚め、家族と夢の板挟みになる。

「娘の夢を支える美しい家族の光景」・・・には容易にならない。主人公への愛に一点の曇りもないが、音のない世界で生きる家族にとって「音楽」に生きようとする娘の情熱が理解できない。そもそも、家族の生活が常に中心にあって個人の都合については無関心だったような気もする。漁業の仕事は搾取する側と搾取される側の構図のなかにあり、とりわけ意思疎通がしづらい家族は「カモ」にされやすく、そこに主人公が分け入って家族を守る様子も必至の状況だ。そして結果的に、家族は無自覚に主人公に頼り切る。本作は、そんな家族(特に両親)の成長物語という側面もあり、障害者とはいえ未熟な人格として描くあたりも誠実だ。3人の個性を丁寧に描きこんでいる点も特筆すべきだ。

彼女の夢をサポートするのは、合唱部の教師だ。自らの仕事を「生きがい」とする教師の生き様が美しい。教師という仕事は生徒の可能性を見出し、育み、羽ばたかせることだ。「恩師」というのはまさにこういう人なのだろう。クセが強く甘ったるくない本作の教師のキャラクターも魅力的だ。家族の生活と教師のレッスンを両立させようと主人公は奮闘するが、その実現はかなり難しく、解決策がずっと見えない。どちらかを捨てるしかない、だったら夢を捨てるしかないのか。。。そんな想いが中盤以降の引力になる。

主人公演じるエミリア・ジョーンズが素晴らしい。丸顔の童顔ながらそのまなざしに芯の強さを感じさせる。傍から見たら悲壮感しかない状況だが、主人公は快活で元気はつらつ。自転車に乗っているシーンがとてもかわいく印象的。現実と夢の狭間に揺れ動く姿は胸を締め付け、もはや父親目線で彼女を全力で応援してしまう。そして圧巻の歌唱力と表現力だ。後半の2つのシーンは、音楽、そして、音で愛を伝える映画として涙腺決壊の名シーン。彼女のロマンスもしっかり描かれていて瑞々しい(水水しい)青春ドラマでもある。相手役の男子、あの赤いほっぺ、どっかでみたことがあるな~と思ったら「シングストリート」の主人公の子だった。大きくなったね~。

全編を通して、割とキツめのセクシャルジョークが飛んだりするが、監督がドラマ「OINB」の脚本家と聞いて納得。音が聞こえない聾唖の人たちの世界から見た、健常者たちの音のある世界の境界の描き方もセンスあり。個人的にグサッと刺さったのは母親の主人公への吐露だ。「生まれてきたあなたが健常者で失意した。。。わかりあえないからと思って」と本音。健常者にはわからない想い。

結末はバッドエンドにはならない。だが、実際の家族の問題が解消されたとは思えず、やや宙ぶらりんの印象を受けたが、主人公の兄の努力と、周りの人たちも手話をするシーンに希望が透けた。なんとかなる、ではなくて、歩み寄らないとダメなんだ。

【80点】
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