から揚げが好きだ。

映画とサウナ。

苦役列車 【感想】

2012-07-14 23:53:59 | 映画
今年、個人的に邦画の中では一番期待していた映画、
「苦役列車」を観た。

公開初日にMOVIXさいたまのレイトショーで観たが、客席の入りは30%くらい。
山下映画としては前作の「マイ・バック・ページ」に引き続き、興行的には厳しそうだ。

本作は2010年、芥川賞を受賞した同名小説の映画化。

1980年代の東京を舞台に、幼少時代、父親の性犯罪によって家庭が崩壊、離散し、
中卒以降、日雇い仕事で食いつなぐ生活を続ける19歳の青年「貫多」の話だ。

「ボインどうですか~?ボイン覗きどうですか~?」

まだ映像の出ない真っ暗なスクリーンに響く冒頭のセリフに、
山下ワールド健在だな~と、ニヤついてしまう。

その呼び込みをしていた覗き部屋から颯爽(?)と出てきたのは、
お目当ての一人、主人公の「貫多」演じる森山未來。
一発ヌいてきたであろうシチュエーションながら、
スッキリした感も、周りも気にする恥ずかしさもなく、
普段使いなその表情から、風俗通いが日常的な習慣である男の姿が見てとれた。

場面変わって、日雇い先での昼休憩中、
貫多が日雇い先で買ったと思われる、白飯多めの弁当に対して、
吸い込むようにご飯を口にいっぱいに入れ、メシをガッつきながら話す姿が印象的。

日雇い先で出会い、友達となる高良健吾演じる「正二」に対して
口をついて出るのは、「風俗行こう」か「飲みに行こう」である。

そこに描かれるのは性欲と食欲にまみれ、
恥じらいも自己否定もない青年の日々。。。

2000円を追加で払えば、オプションでついてくる覗き部屋の特別サービスや、
飲んだら「オェー」と吐いて、鼻水垂らして、ヨダレ垂らして、悪態をついて。。。
グチャグチャがひたすら続くその描写は、観る側に対して遠慮がまるでない。
はっきり言って気持ちが悪いが、それは時に可笑しく、生々しくもある。
ある意味、人間の生命力にあふれた姿であり、そこに感じる圧倒的なエネルギーこそ、
自分が山下映画に望んでいたものだった。

本作の見どころは、何といっても、
山下監督と森山未来のケミストリーであり、
これは期待以上のもので個人的には大満足であった。

山下監督のキャスティングに応えるべく、発せられた森山未来の役者魂よ。
前作の「モテキ」に続くダメ男役と言われているが、その役柄は全く異質だった。
モテキの幸世にあった清潔感や軽やかさは、本作の貫多においては皆無。
そこにあるのは社会の底辺を這えずり回る泥臭さと、粘着性である。
「この愛すべきロクでなし」という宣伝文句だが、
このキャラを愛せる人が果たしているのか、甚だ疑問。それほど森山未来演じる貫多は見苦しい。
そのパフォーマンスは圧巻で、彼の存在が本作の放つすべてのエネルギーの発信源になっている。
彼が役者という仕事を信じ、真摯に役に対峙する姿勢が感じられ、シビれた。

懸念していたAKBの前田敦子は、やはり本作においてはツヤ消しといわざるを得ない。
演技自体は思いのほか卒なくこなしているな~と思ったが、本作で充満する匂い(臭さ)に対して、
彼女の「そこそこ可愛くて」「そこそこ演技が出来る」レベルでは迫力不足だ。
個人的には今後も興味ないが、作品の色が変われば女優としてもハマるのではないかと思った。

その反面、意外な好演は、オフィス北野所属芸人のマキタスポーツだ。
ミスチルの桜井のモノマネが面白く、個人的に注目していた芸人のまさかの出演だったが、
しょーもない男の可笑しさと哀愁を描くのが巧い、山下演出との相性は抜群だった。
彼をキャスティングした理由がわかる、カラオケスナックでのシーンはお気に入りだ。

物語の中盤で、貫多が正二の恋人に対してセクハラを通りこした侮辱的な言葉を浴びせるシーン、
自分の後方の客席にいたお洒落風なお姉さんが席を立った。そのタイミングが、女性が耳にすると
不快に感じるであろうセリフのピークだったので、おそらく気分を害したものと思われる。

そのあたりは男子の自分はさほど気にはならなかったが、
最後まで垂れ流し感があり、物語の終着点もはっきりしなかったのがちょっと残念。

原作を読んでいないので、よくわからないが、
その描かれ方も原作を忠実に再現したものだったのだろうか。

しかし、本作「苦役列車」も作品の色は違えど、
前作の山下映画「マイ・バック・ページ」に引き続き、
「この映画は誰が撮ったか?」がすぐにわかるほどの強い作家性を感じることができた。

現在の日本映画の中では、こういった作家性を持つ監督は数える程度しかいないし、
山下監督の作家性は自分はツボだな~と本作でも再認識したので、
今後も応援していきたいと思う。

【70点】



















コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 少年は残酷な弓を射る 【感想】 | トップ | 海外ドラマ「スパルタカス」。  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画」カテゴリの最新記事