そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『悪者見参』 木村元彦

2016-03-03 23:35:01 | Books
悪者見参―ユーゴスラビアサッカー戦記 (集英社文庫)
木村 元彦
集英社


Kindle版にて読了。

不覚だった。

90年代、ドラガン・ストイコビッチを筆頭に数多くの旧ユーゴスラビア出身のJリーガーが活躍していたこと。
98年W杯、初出場の日本代表がグループリーグで苦杯を喫した、ダヴォール・シューケル、ズボニミール・ボバン、ロベルト・プロシネチキらを擁したクロアチア代表が3位に躍進したこと。
欧州のトップリーグで、デヤン・サビチェビッチ、プレドラグ・ミヤトビッチ、シニシャ・ミハイロビッチらが華麗なプレーを魅せていたこと。
その一方で、ボスニア紛争、コソボ空爆など激しい内戦が大きな国際問題となり、多くの犠牲者が出ていたこと。
セルビアが国際社会から孤立し、次々と共和国が分離・独立して旧ユーゴスラビアは分解・崩壊したこと。
ユーゴスラビア、セルビア・モンテネグロがFIFAの大会の出場資格を失い、締め出されたこと。

すべてを見ていたはずなのに、頭の中でそれら出来事がまったく結びついていなかった。

そして、最大の不覚は、それら全てを織り込んだ、この秀逸なノンフィクション作品の存在を、20年近く経った今、たまたまKindleの日替わりセールで出会うまで全然知らなかったことだ。

とにかく凄いルポルタージュだ。
内戦の真っ只中、危険極まりない旧ユーゴ諸国に何度も入国し、民族主義者だかマフィアだか区別がつかないようなサポーター集団のリーダーを直撃インタビューし、虐殺遺体が安置された教会にまで潜入する。
そして、未曾有のテクニシャンが揃った90年代ユーゴスラビア代表の猛者たちと親しく交流し、祖国が分裂し民族が憎しみ合うにつれて彼らの運命が引き裂かれていく様が生々しく描かれる。
クライマックスに描かれる、ユーロ2000予選、ザグレブでのクロアチアvsユーゴスラビア戦、殺気立った異様な盛り上がりは壮絶の一言。

正直言えば、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、コソボ、マケドニアの位置関係もよくわかってなかったし、コソボ紛争がどの民族とどの民族の争いなのかも知らなかった。
ACミランのサビチェビッチ、レアル・マドリーのミヤトビッチという90年代を代表するストライカーが、ともにモンテネグロ人であり、モネテネグロは足立区程度の人口規模の国であるということも知る由もなかった。

とにかく、知見を激しく刺激され、彼の国の人々の悲劇的な運命に厳粛な気持ちにさせられる。
繰り返すが、凄いルポルタージュだ。

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