そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『奇跡の脳―脳科学者の脳が壊れたとき 』

2024-09-09 21:11:00 | Books
脳科学の専門家である著者が、脳卒中になり、発症から治療、リハビリの過程で自分自身の身体と精神に何が起きたかを克明に書き下した、まさに奇跡の一冊。

脳卒中が起きた朝、脳の専門家であるが故に自分の脳に何が起きているかを冷静に観察しながら、左脳の機能が麻痺していく中で論理的思考力が働かなくなっていくという矛盾。その過程を描くドキュメンタリーは生々しくも、生命と知性の不思議さに満ちていて興味深い。そして、左脳の機能を失いながら、後にこの記憶を呼び覚まして本に書いているという事実が奇跡的。

左脳と言語中枢を失うと、「自己」を認識できなくなり、自己とそれ以外を隔てる境界線が無くなっていくという体験がまた興味深い。自分・自己・自我というものは左脳が作り出した妄想なのか?
自分が流体のように感じられ、あらゆるエネルギーが一緒に混ざり合っているように感じられるという体験は、先日読んだ村松大輔氏の量子力学的世界観にも通じるものがある。

治療とリハビリを経て、左脳が正常に機能するようになると、同時にマイナス思考のループが復活するというのも皮肉なもの。
著者は左脳マインドを失った経験から、深い内なる安らぎは右脳にある神経学上の回路から生じるものだと信じるようになる。そして、右脳マインドを呼び起こし、内なる安らぎを体現するためには「いま、ここに」いることを認識するのがその第一歩になると言う。紹介される様々な手法はマインドフルネスや仏教思想にも通じるもののように感じる。

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