そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『信頼学の教室』 中谷内一也

2016-04-02 15:09:29 | Books
信頼学の教室 (講談社現代新書)
中谷内 一也
講談社


Kindle版にて読了。

信頼をテーマにした社会心理学の科学的考察。
「信頼学」という言葉は著者の造語だろうけど。
先生と学生の軽妙な掛け合い形式で、気軽に読めるし、内容も難しくはない。

まず、信頼を生み出す3つの要素が提示される。
(1)能力の高さ
(2)動機づけ(人柄のよさ、真面目さ)
(3)価値の共有

特に大事なのが3番目の「価値の共有」。
対象となる事柄をどのように捉え 、その中で何を重視し 、どういったプロセスや帰結を望むか、そういった価値の主要部分を相手と共有しているという認識があってこそ信頼は生まれる。
単なる「利害の一致」「共通の敵(敵の敵は味方)」とは異なる。

そして、信頼には非対称性という特徴がある。
一般に 、信頼は得にくく失いやすい。
信頼構築には時間がかかるが 、信頼の崩壊はあっという間に起こる。

また、信頼が危機に瀕するときほど「価値の共有」が重要性を増す。
信頼の低下を生むような問題・不祥事を起こしてしまった場合、問題を生じさせた部分について組織の能力を向上させることそれ自体は、再発防止という観点では意味のあることである。
が、信頼という点では、能力向上はそれほどその回復に寄与しない。
問題が発生したときにこそ、信頼回復を目指してメッセージを送ろうとする相手の価値を理解する姿勢が重要になるのだ。

信頼回復のために打ち出す対策が、社会からどう受け止められるものなのかによっても、何が信頼回復により大きく寄与するかは異なってくる。
その対策が、なすべきこととして衆目の一致するところであるような場合には、対策を実行する能力があると見なされるかどうかが信頼を左右する。
一方、対策への賛否が分かれているような場合には、公正な姿勢であると見なされるかどうかが重要となる。

不祥事によって低下した信頼を高めるために、まず必要なことは、積極的に対象者との価値の共有を図ること。
そして、もし不祥事を再発させてしまった場合に自身への大きなダメ ージが連動して発生するような仕組みを、自発的に導入すること。
それが信頼回復に寄与する。

この本は、企業や政府部門などが、社会一般や消費者からの信頼を如何にして得るか、或いは、不祥事を起こしてしまった場合に如何に信頼を回復するか、という視点で書かれている。
が、基本的な考え方は、個人間の信頼関係にもそのまま適用できると感じた。
やはり、価値の共有、相手が大切にしている価値を尊重し理解を示す姿勢なくして信頼関係は生まれないのだと思う。
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